表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

42/185

第四十一話『僕は発動する』

 僕が遠足で見ておきたい場所にしていた花畑――もっと広く言えば植物園――はあまり人気がないのか、見渡す限り制服を着た高校生の姿は見当たらなかった。いるのはのんびりと散歩をしている老夫婦数組と、幼稚園にまだ入らないぐらいの子供を抱きかかえたお母さんが数人だけ。遠足によって生み出された喧騒からまるでここだけが切り離されたように、この場所は静かで心地よかった。


 大きく息を吸い込んでみれば、花の香りが優しく鼻をくすぐってくる。その空気を堪能できただけで、ここに来た意味としては十分すぎるように思えた。


 ……だけど、今日の僕はそれだけで満足するわけにはいかない。もっともっと、やらなくてはいけないことがたくさんあった。


「うん、噂通りのいい場所だ! ここを回るの計画してた子なんて一人もいなかったんだけど、逆にそれで正解だったかもね……」


「おう、それは間違いねえな。ここに何十人もの高校生がなだれ込んできちゃあ雰囲気が台無しだ」


 感激する千尋さんに、信二もしみじみと首を縦に振りながら答える。その口調からはずいぶんと緊張が解けてきたのを感じられて、信二が言っていた『手ごたえ』とやらが少なくとも当人の中でははっきりとあるのが何となくわかった。

 

 まあ、それでも多分同じものは見られてないんだろうけどね。……信二が言う雰囲気っていうのは、千尋さんと青春を謳歌するための作戦を決行するための雰囲気だ。遠足というシチュエーションにかこつけて千尋さんにアプローチする姿なんて見られようものなら、その結果がどうであれファンクラブのヘイトを買うのは間違いない事だからね。それを避けられるというのは、信二が作戦の決行場所をここに定めた理由も何となくわかるというものだろう。


 つまり最後の邪魔者こそが僕という事になるわけだが、それに関しては信二直々に協力者としての立ち回りを要請しているから無問題。しっかりと段取りが練られたうえで結構な確率で実行可能なその作戦は、きっと信二も首を捻って考え出したものなのだろう。


 つまり、信二にとってはあと一歩だ。……あと一歩で、信二の目的は完全に達成される可能性が生まれてくる。


「ささ、それじゃあ照屋君が行きたいって言ってた花畑まで行こうか。……確か、一番奥にあるんだっけ?」


「うん、最深部も最深部って感じ。……悪いけど、二人も付き合ってくれると嬉しいな」


「おう、遠慮なんてしなくていいんだぜ? その花畑とやらがどれだけ綺麗か、俺も少し興味があるからな」


 普段は花なんてみじんも興味を持っていないはずの信二が、僕の肩を組んで明るくそう言ってくる。悪く言うなら今から信二は僕を利用するわけなのだが、それに関する罪悪感とかはないんだろうか。……ないんだろうな、信二だし。というか、きっとそもそも利用するとか思ってない。


 僕は今でも千尋さんに興味なんてないと思ってるし、それなら恋路を手伝ってもらおうとしているだけ。……きっと、僕が変化している可能性なんて考えもしてない。まあ一年間ほとんど変わらなかった奴を相手にしてるわけだし、それも納得できるっちゃできるんだけど。


 だけど、きっとこの作戦がいつであろうと僕が変化しないままにこの作戦を行うことは不可能だっただろう。……僕と千尋さんが出会ったら、僕はきっといやおうなしに変わることになるだろうから。


「……あ、ちょうちょがいる。こういうのを見てるとまだギリギリ春なんだなあって気がするよね」


「うん、気温はすっかり夏なのにね。……こういうの見てると、四季って奥が深いって思うよ」


 ひらひらと舞うちょうちょを見つめながら、僕たちは自販機の横を通過する。その自販機の色合いもこの自然の中に溶け込むように調整してあるあたり、この施設の本気度がひしひしと伝わってきた。


 一方信二はと言えば、相槌は打つがよく分かっていない――というか興味がそもそもないような感じでぼんやりと僕たちと同じ方を見つめている。一応信二も文系のはずなのだが、そういう機微に関しては聡いというわけでもなかった。


 まあ、これに関しては僕が感傷的すぎるだけだと言われたらそうだとしか言いようがないのだけれど。だけど、花畑で見るちょうちょに普段と違う感慨を覚えているのは間違いなかった。


 だけど、それを千尋さんと詳しく語り合うのはまた後だ。……もう少しだけ、僕は信二の協力者でいる必要がある。


 ちょうちょのいたところを超えて、僕たちは三分ほど歩く。この植物園自体がさほど広大すぎるというわけでもないこともあって、もうしばらく歩けば花畑に着くであろうという距離だ。……いつか写真で見た時からずっと見たかった花畑という事もあって、僕の気持ちは高鳴っている。……なのだけれど、僕はそこで一度足を止めた。


「……照屋君?」


「紡、どうかしたか?」


 それに二人はすぐさま気づいて、僕の方に視線をやる。……ここまでは計画通り。だから僕は、二人の方に向けて申し訳なさそうな視線を向けて――


「……ごめん。ちょっとくらくらしてきちゃったから、さっきの自販機でスポーツドリンクかなんか買ってくるよ。二人を待たせるのも申し訳ないから、花畑には先に行っててくれないかな?」


――信二の為、そして僕のための作戦を、僕にできる全力の演技とともに発動した。

 という事で、次回から作戦発動です! 信二の狙いはうまく行くのか、そして紡は何を企てているのか、ぜひぜひご注目いただければ幸いです!

――では、また明日の午後六時にお会いしましょう!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ