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第三十七話『桐原信二は視野が狭い』

「思っていた以上の成果……っていうのは?」


 信二が何を話そうとしているかは八割、いや九割明らかだけど、その上で僕は改めてそう問いかける。……何かの間違いで思っていたのと違う話題を持ち出してくれるのならば、それ以上に幸せなことはきっとなかった。


 何を理由に成功してると思ってるのかすら僕には分からないけれど、信二が今回の遠足に何かしらの手ごたえを感じているのは確からしい。……それに僕はどんなメッセージを送ればいいのか、すぐに言葉を選ぶことが出来ないけれど。


「鈍いなあ紡、そりゃもちろん千尋さんとのことだよ。……練習とか対策とか色々しておいたのがよかったんだろうな、思ったよりたくさん話せてるんだ」


 そんな僕の思惑なんてきっと知る由もないまま、信二は僕が予想していた通りの言葉を返してくる。……練習や対策って、もしかして千尋さんと話すためのいわゆる『会話デッキ』的なものをあれこれと用意してたりとかしたのだろうか。


 それはいいのか悪いのかよく分からないけれど、信二的には作戦が功を奏しているらしい。……まあ、それならそれでいいことなのだろうけども――


「だからさ、俺はここからあともう一歩だけ仕掛けてみたいんだ。……この遠足を弾みにして、俺たちの関係をさらに深めるための作戦をさ」


――その成功体験を躊躇なく次への原動力にするのは、信二の少し危ういところだ。


 信二は基本的に悪人じゃない。悪だくみとかができるタイプではないし、嘘を吐くのも上手じゃない。……だからこそ、僕に対する悪意でこの作戦を行ってることじゃないのは明らかだ。千尋さんに対して興味が薄かった時の僕のイメージを今の僕にそのまま重ねて、僕なら大丈夫だと思って信二は作戦会議をしている。


 視野が狭いとも、一度見定めた目標に向けて一本気だとも、どっちともいうことが出来るだろう。目標達成に向けて一途なのは信二のいいところであり、僕もその姿に何度も助けられてきた。……だけど、その道中にある事情とか人の考えとかを無視するきらいがあるのもまた確かで。


「……それは、最初から計画してたこと?」


 どうにかその猪突猛進を止められないかと、僕はそんな風に問いかける。だがしかし、信二の首は無慈悲に横に振られた。――そうだよな。信二の猪突猛進は、遠くにあるゴールに向かうところまでしっかりと見据えられたうえで始まってる。


「ああ、もちろん計画済みだ。まさかここまで行けるとは思ってなかったけど、ここまで状況がうまく行ってるんならやるしかねえ。……ここでやれなきゃ、俺が望む青春なんて永遠に手の中に転がり込んでこねえんだよ」


 ぐっと力強くこぶしを握りこんで、信二は強く意気込んで見せる。望む青春を手に入れるために、今日を大きなターニングポイントとするために、信二はとても必死だ。……そのまっすぐすぎる気質を知っているから、仕方ないとは思っているのだけれど――


「――決行場所はあの花畑だ。……手伝ってくれるよな、紡?」


「……っ」


――その視界の中に映る僕は『助手』でしかないのだと思うと、胸の奥がずきりと痛んだ。

 人間関係とは一つのきっかけで大きく変化していくもので、それは紡も逃れられるものではありません。揺らいでいく中でつかんだ答えが少しでもいいものであるように考え続ける紡の姿、ぜひご覧いただければと思います!

――では、また明日の午後六時にお会いしましょう!

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