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第十五話『僕は思いつく』

――カフェでゆったりとした時間を過ごし、和やかな雰囲気のまま解散した昼下がりのこと。駅で帰りの電車を待っていると、ポケットに入れていた携帯がぶるぶると振動した。


 今までは一日に二回連絡が来れば多い方だったはずなのに、ここ数日でその平均値は大きく跳ね上げられている。携帯を取り出してみてみれば、やっぱりそこには千尋さんの名前があった。


『今日はありがとうね! 照屋君の作家としての姿が見られるの、楽しみに待ってるよー!』


 そんなお礼の言葉の下にぶんぶんと全力で手を振るゴリラのラインスタンプが押されていて、僕は思わず笑みを浮かべてしまう。よほど千尋さんの中でお気に入りなのか、大体のメッセージの最後にはこのゴリラが顔を出していた。


『こちらこそありがとう。どういう風に見せるのが一番いいか、ちょっと考えておくね』


 僕もすぐに返信を送って、その下にもとからアプリに入っていたスタンプを添える。今までスタンプなんて使う必要がなかったから買ってこなかったけど、これから連絡が増えるなら買うのもありかもしれないな……。今度信二に聞いてみるか。


「……まあ、その前に考えなきゃいけないことは色々とあるけどね」


 携帯をスリープモードにしながら、僕は改めて確認するようにそう口に出す。スタンプを買うのも千尋さんともっと仲良くなるのも大事だけど、何より僕が考えるべきは千尋さんの力になるための方法を考えることだ。こればかりは誰の協力も得られないから、自分の力だけでやるしかない。


『作家としての仕事を見せる』と言っても、単純に執筆しているところを見せるんじゃきっと意味はないだろう。執筆中の僕は明らかに『小説』を書いているわけで、それを千尋さんが読めるかというときっと答えはノーだ。読めないものを見て克服できるんなら、多分千尋さんの問題はとっくに解決しているはずだし。


 まだまだ詳しい事情は聴けなかったけど、千尋さんと小説の間にはきっとただならぬ事情があったのだろう。先天的なものじゃなくて後天的な何か……まあ、事件と言ってもいいか。それがあって、千尋さんは小説を読めなくなったって認識に間違いはないはずだ。


 一番手っ取り早いのはその事件を聞いてそこからヒントを得ることなんだけど、それはあまりにも人の心の中に土足で入り込みすぎている。誰の心にも簡単に踏み込まれたくない領域があるというのは、僕もよく知っている。……僕の場合、それが人よりかなり広いのが問題なんだけどね。


 それができるようになるには、まだまだ長い時間がかかるだろう。今はまだ僕自身の中で知恵を絞りだす時間だ。最初から答えを知ろうなんて、小説の結末だけを読むようなものだからね。


 とはいえ、このままうだうだと考えて居ても発想が出てこないのは事実なわけで。時間はそこそこあると言っても、何もやりようが重い浮かばない現状には少し焦らざるを得なかった。


「……こういうときは」


 このまま考えて居てもらちが明かないから、僕は携帯をもう一度取り出してメモアプリを起動する。ただ考えるだけじゃ形にならないなら、とりあえず言語化できる状況にしようという寸法だった。


 ネタに詰まった時も、パソコンを起動してその前に座れば何かしらが思い浮かぶというのは割とよくあることだ。大事なのは向かい合う事、そうすれば少しは頭もいい感じに回ってくれる。……それが、経験が浅い僕なりの持論なのだけれど――


「……うーーーーん……」


 メモに書きつけられた文字を見て、僕は思わずうなり声を上げる。確かに文字にはなった……なったんだけど、それが何かの解決策になるとはとても思えなかった。


 なんだよ一言目が『頑張りたい』って、小学生時代の絵日記みたいじゃないか。頑張ることは大前提、今はどのベクトルで頑張るかを考えるのが本題だって言うのに。


 そのほかにもあれやこれや書いては見たけど、どれも決め手になる一手があるとは思えない。……正直なところ、一歩目から僕は盛大に躓いていた。


 こうなったら本当に僕の書いているところを見せるしかなくなるんだけど、書いてる最中はそれにしか集中できないしなあ……。どう考えても千尋さんを置き去りにしてしまうし、それが問題解決に一役買ってくれるかと言われると怪しいところだった。……やるんだとして、千尋さんの中に何か変化が起こった後のダメ押しとかの奴だと思う。


 とりあえず書いてみる作戦も失敗して、僕はとうとう手詰まりに陥ってしまった。我ながら本当に情けないとは思うが、小説家らしいことって何かが本当に分からないのだ。サイン会とかは『ぽい』のかもしれないけど、その機会があるなんてこともないし――


「……んん?」


 ああでもないこうでもないと思いながらスマホをいじっていると、ボタンを押し間違えたのかメモ画面が一つ前に戻ってしまう。そこには大量の見出しがずらりと並んでいて、僕が今まで書きつけてきたものがひとまとめにされていた。


 普段メモはパソコンで取っているんだけど、どうやら過去の僕はスマホとそれを共有していたらしい。最近のものから懐かしいものまで様々なメモがあったが、そのほとんどはぱっと思い浮かんだネタの数々だった。


 その中から実際物語になった奴もあったし、そうならなかった奴もある。没になったり思った以上に早く終わってしまったりいろんなことがあった気もするけど、一つ一つのアイデアが僕にとっては大事な思い出で――


「……あ」


 それに思いをはせる中で、僕の中に一つのアイデアが浮かんでくる。千尋さんに確認を取ってみないと何とも言えないけど、それでも今まで考えてきたものよりははるかにマシだ。


 急いでメモアプリにそれを書きつけてから、僕はメッセージアプリを開く。連絡先の一番上に位置する千尋さんの名前をタップして、僕はできる限り急いでこう打ち込んだ。


『……千尋さんってさ、小説についての話題を聞くことならできるのかな?』

 紡が思いついた策の全貌はまた次回、という事で! 動き出した物語、皆様ぜひ見守っていただければ幸いです!

――では、また明日の午後六時にお会いしましょう!

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