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第百一話『僕は思い返す』

 桐原信二。孤独だった僕の学校生活の中で、唯一友人でいてくれた人。……そして、僕と同じように千尋さんを好きになった人。だけど、選ばれることのなかった人。


「桐原君……という事は、あの遠足の時?」


「そうだよ。あの時僕は信二から相談を受けてて、どうにか千尋さんと付き合えないかって考えてた。……まあ、僕が相談に乗ったところで結果は変わらなかったと思うけど」


 それどころか信二の行動は恋敵であるところの僕の自覚を引き出してしまうに至ったのだから、その行動は全部逆効果だったと言ってもいいだろう。信二は僕の助けを借りてバラ色の青春を手に入れようとして、その結果大変な事態を招くことになった。


 今となっては信二は誰とも絡まず、クラスの隅でただじっとしているだけだ。それはまるで少し前までの僕のようで、視界に入るたびに申し訳なさのようなものが頭をよぎる。僕が何か悪いことをしたわけでもないし、全部信二の思いと判断の結果なはずなのにね。


「桐原君、紡君を強引なやり方で引き離そうとしてたんだもんね。桐原君も悪い人じゃないって思ってたけど、あんなふうに体調不良を訴えてる人が居る中で告白するのは流石にないと思うなあ」


「うん、それは僕もそう思う。……信二からしたら、僕の体調不良は嘘だって分かってたんだけどね」


 問題は千尋さんがそれを本当だと思っていることで、その誤解を解かないままで告白に臨んでしまったことだ。いやまあ、『紡には嘘をつかせて二人きりになるように仕向けました』って馬鹿正直に告白したところで振られる理由が変わるだけのような気がしないでもないけれど。


「なんにせよ、なんて言われてもあたしは桐原君と付き合うことはなかったと思うよ。桐原君もクラスの人気者って感じだったけど、ずっとびびっと来るものはなかったから」


 千尋さんが首を横に振ると、それに従って布団のこすれる音がガサゴソと響く。お互いに寝転んで並ぶという独特な雰囲気があるからなのか、いつもより口が良く回るような気がした。


「……僕さ、信二の恋愛相談に乗ってるうちに千尋さんのことが好きだって気づいたんだよね。信二が千尋さんの隣で笑ってる姿は何となく想像できたけど、それが実現するのがどうしようもなく嫌だった。信二は大切な友達だったはずなのに、その友達の目標が叶う所を見たくなかった」


 いろんなところでよく聞く『友人と彼女どちらを優先するの?』なんて問いは、僕にとってジレンマでも何でもない。まだ彼女でもない千尋さんのことを信二よりも優先して選んだのだから、大事なのは間違いなく後者だったのだ。千尋さんにさらに近づくために、僕は高校に入ってからの付き合いを足蹴にした。


 その結果信二は一番こっぴどい形でフラれ、僕は千尋さんと付き合った。……つまり信二は、平日学校に行くたびに好きな人と元友人が仲良くしている様を見せつけられることになるわけで。


「……許してくれないだろうな、何をどうやっても」


 今度こそ千尋さんとの仲を取り持ったらもしかしたら話しぐらいはできるようになるかもしれないが、そんなことを僕がするはずがない。千尋さんが僕にとって特別な存在である限り、信二と僕があの時みたいに笑いあえる日は絶対に来ない。


「それを思うと、ラブコメのヒロインたちは凄いよ。たった一人の主人公を巡って争うのに、ヒロイン同志も仲良くて。……作品に寄っちゃ、恋が決着してからもその友情は続いていくわけで」


 それがフィクションの事だからなのか、ただ彼ら彼女らの人間ができているからなのかは分からない。そんなややこしいところは抜きにしてただ凄いと思ったんだ。……僕だったら、絶対にできる気がしないから。


「……紡君、桐原君と仲直りしたいの?」


 僕の独白にいったん間隙が生まれたのを見計らって、千尋さんがそんな質問を投げかけてくる。それに僕は思いっきり首を横に振って、仲直りの可能性を否定した。


「できないし、したいとも思わないな。……信二が目的のために僕を利用したの、多分忘れることはないから」


「あー、それは確かに重たいね……。あたしも桐原君のことは許せないや」


 ならば何のために話したんだなんて怒られるのも想定していたけれど、千尋さんはただしみじみとそう呟く。その口調はいつもより大人びて、包容力に満ちているように思えた。


「ただ、僕も変わったんだなって思って。……本当に大事な人は自分のことをいとも簡単に変えていくんだなって、改めて思っただけ」


 その包容力に導かれるように、僕はそんな風に呟く。ずっと過去を前に立ち止まって変わらないと思っていた自分は、今の自分から見ればまるで別人だ。あれほどまでにかたくなだった心も随分と柔らかくなって、いろんな出来事を受け容れられるようになって。


――そういう所まで『あの時』と同じなんだなあなんて、ぼんやり思ったのだ。

 かつて変わらないと思っていた自分を思い返す時、紡はいったい何を思うのか。今はもう取り戻せない友情は紡に何をもたらすのか、ぜひ見守っていただければと思います!

――では、また明日の午後六時にお会いしましょう!

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