表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
少し冷めた村人少年の冒険記  作者: 水野 精
67/80

65 ジャミール遺跡 2

 冒険の前哨戦ともいうべき、ワイバーン五匹との戦いは、スノウの大活躍もあって俺たちの圧勝に終わった。残り一匹になったワイバーンは、慌てて身をひるがえし逃げ去っていった。完全な脳筋馬鹿ではなかったようだ。


『マスター、地上に落ちたワイバーンはまだ生きています。とどめを刺しましょう』

(ああ、そうだな。スノウ、頼む)

『わかった~』


 俺たちは地上に降り立った。幸い周囲は岩や砂に覆われた荒れ地で、ワイバーンが落ちたことによる被害はなかった。

 すでに事切れたワイバーンも一匹いたが、残りの三匹はまだ生きており、起き上がってこちらに攻撃をしようとする奴もいた。

 俺たちは、それぞれが魔法で一匹ずつ首を落としてとどめを刺した。ちなみに俺とナビが使ったのは、ウィンドカッターの上位版、中級魔法のウィンドスラッシュだ。魔力量も多く必要だが、対象を狙って放つときの、イメージの固定、角度、強度などにかなりの〝意志の強さ・明確さ〟が必要になる。初級と中級の違いなのだろう。


『ワイバーンの爪や皮は貴重な素材です。肉も淡白で美味です。さあ、マスター、解体しましょう』


(待て待て、待て~いっ! 言っておくが、俺は魔石を取り出すくらいしかやったことがないぞ。しかも、こんなドでかいのを四匹も解体なんて、できるかっ!)


『甘いですね、マスター。解体くらいできないと、この先冒険者として生きていけませんよ』


(うっ、で、でもよ、こんなの無理だって……)


『……では、全部解体しなくていいですから、爪と尻尾だけ持っていくことにしましょう』


(ま、まあ、そのくらいなら……でも、ナイフは普通のハンティングナイフだぞ? これで切れるのか?)


『そうですね。では、〈魔力付与〉の練習をしましょうか。これは、武器にも人間にも応用できます』


(おお、付与魔法か、お願いします、ナビさん)


『はい。では、ナイフを見ながら、ナイフ全体を包み込むイメージで、先ほどのウィンドスラッシュの魔法を掛けてください』


(はあ? ちょ、ちょっと待ってくれ。ナイフにウィンドスラッシュの魔法? そんなことしたら俺の手が斬れちゃうぞ?)


『魔法を放つのではなく、属性を付与した魔法で包み込むのです。纏わせると言い換えてもいいでしょう。そうすることで、武器なら、その武器と対象物との間に属性魔法の効果が発動します。切れ味なら風属性、硬さなら土属性というふうに、対象物に与えたい効果によって属性を変えるのです』


(な、なるほど……理屈は分かったけど、魔法って武器に固定できるのか?)


『固定というより、纏わせるのです。当然、魔力との親和性が高い金属の方が、長時間纏わせることができます。例えば、ミスリルや黒鉄がそうですね。逆に鋼鉄は親和性が低いですから、短時間しか纏わせることができません。これは、人間の場合も同じことです』


(なるほどな……じゃ、じゃあさ、もしかして、拳に火属性や水属性の魔法を纏わせて攻撃したりもできるのか?)


『当然できます』


 ヒャッハ~~! おい、聞いたか、俺? 『ストフ〇イ』の技が現実に使えるんだぞ。リュ〇や〇鬼みたいに、敵を殴って火だるまにしたり、凍らせたりできるんだ。すげええ!


『浮かれていないで、練習してください』


(は、はい。ええっと、ナイフに風魔法のウィンドスラッシュを纏わせる……んん……なかなか魔力が広がっていかないな……)


『まだ、魔法を放つ癖が出ています。放つのではなく、流し込むようなイメージです』


(分かった。流し込む……流し込む……お、おお、出来たんじゃね?)


『はい、できましたね。では、それでワイバーンの尻尾を切ってみてください』


 俺はワクワクしながら、薄緑色の魔力に包まれたナイフを持って、首なしワイバーンの死体に近づいた。そして、尻尾の付け根にナイフをぐっと差し込んだ。


 ザクッ!


 ひゃああっ! おいおいおいっ、なんだこの切れ味はっ! ほとんど力を入れていないのに半分近くまで切れちゃったぞ。

(す、すげえな……よし、この調子で残りも……って、あ、あれ? 切れない)


『鉄のナイフだと、一回の効果で終わりのようですね。もう一回付与しないといけません』


 なるほど。これが付与魔法、いわゆる〈エンチャント〉というやつか。これは相当すごい魔法だぞ。使い方次第で、かなりの強敵でも倒せるな。練習しがいがある。


 こうして、俺は付与魔法の練習をしながら、四匹のワイバーンの爪を切り取り、尻尾を切り落として皮を剥いだ。肉も塊に切り分けた。すべての素材を〈ルーム〉に収納した後、残った死体は土魔法で穴を掘って埋めた。


(お待たせ、スノウ。じゃあ、遺跡に行こうか)

『は~い。見てて面白かったよ~、ご主人様。頑張ったね~』

(そうか? ありがとうな。よし、出発していいぞ)

 俺は、スノウの背中に上って首元を優しくポンポンと叩いた。


 スノウはゆっくりと空に向かって高度を上げていく。地上が見る見るうちに遠くになっていった。



♢♢♢


『さあ、着いたよ、ご主人様~』

(おお、ここがジャミール遺跡か……って、デカっ! いったい何の遺跡なんだ?)


 そこに広がっていたのは、例えるなら〝石材の廃棄場〟だろうか。大小無数の石の直方体が一つの村ほどの広さの中に積み重なり、墓標のように突き立っているものも点々と残っている。そして、長い年月の間に、苔むし、蔦やつる草が絡みつき、全体を覆っている。


『かなり古い遺跡ですね。恐らく何かの施設だったのではないかと推測します』


『ここにはね、大昔、ジャミールっていう大きな国があったんだって。エルフの長老が教えてくれたんだ~。でも、世界樹を支配しようとして、神様の怒りに触れ、滅ぼされたって聞いたよ~』


(なるほど……その国が滅んで、その跡地に現在のローダス王国が作られたのか。ここは、いかにも神話の舞台にふさわしい遺跡だな。降りてみるか。スノウ、あそこの少し開けた場所に下ろしてくれ)

『は~い』


 俺たちは、何か円形状の庭のような場所に降り立った、石のブロックが敷き詰められているが、所々は剥がれて、そこから雑草や蔦などが生えていた。


(よし、今日はここで野営をするか。スノウ、ここまでありがとうな。木漏れ日亭の皆が心配しているだろうから、帰って安心させてやってくれ)


 俺の言葉に、スノウは少し悲し気に顔をすり寄せてきた。

『うん……もっとご主人様と一緒に居たいけど、しかたないね。でも、私が必要になったら、すぐに呼んでね』


(ああ、その時は頼むよ。あ、そうだ、ワイバーンの肉を皆に持って行ってくれないか)

 俺はスノウの顎の下を優しく撫でた後、収納からワイバーンの尻尾の肉の塊を取り出した。スノウはそれを口に咥えると、ゆっくりと空中に浮かび上がっていった。


『じゃあね~、ご主人様。気を付けて。帰るときはまた呼んでね~』


 スノウは俺の上で何回か輪を描いた後、優雅に空の彼方へ消えていった。


「さて、いろんな魔物がやって来るらしいから、ちょっと丈夫な寝床でも作りますか」

 スノウを見送った後、俺は急に緊張感に包まれて、周囲を警戒しながら行動を開始した。


 まずは安全な夜を過ごすためにどうするか考えて、地面の中に寝床を作ることにした。


 円形の庭のすぐ近くに、ちょうど周囲に石材が壁のように積み重なった小さなスペースを見つけたので、そのスペースに土魔法で縦穴を掘り、そこから横に穴を広げて居住スペースを作った。壁を固めてからいったん外へ出た。


 屋根の材料と薪を集めようと周囲を見回したが、ぽつんぽつんと木はあるものの、近くでは必要な量は集められないようだ。


『マスター、遺跡の周囲には森があります。どんな魔物がいるか、確認するためにも簡単に探索しませんか?』


(ああ、そうだな。どうせ木を集める必要があるから、行くしかないか)


 俺はメイスを肩に、身体強化を発動して走り出した。


読んでくださってありがとうございます。

少しでも面白いと思われたら、★の応援よろしくお願いします。

次回更新まで、しばらくお待ちください。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[気になる点] ルームのサイズは千立方メートルで、それに入り切らないほどワイバーン4頭は大きいから解体したってことでいいのかな。ワイバーンの大きさってどんなもんだろう。ルームの広さは成長してないのかな…
[一言] 解体は冒険者なら基本です特に一人旅では
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ