探偵ごっこで、迷珍中?
「ちょ、リン!!」
お婆ちゃんが帰って暫くしてから雪は怒って、大声を張り上げる。
「な、なによぉ〜。ご近所迷惑でしょ〜。そ、れ、に、さっきみたいに喋る猫ってバレそうになったら、困るでしょ〜?」
「そもそも、ここは、人里から少し離れた、小高い丘の上!し、か、も、僕が、結界張ってるから、室内の話は、外に聞こえない仕様でしょ!!!バカ、リン!!」
「あ、そうね。うん、確かに」
雪は呆れた目でリンを見上げ、やれやれと小さな頭をゆるりと振る。
トコトコっと颯爽と歩いて、ぴょーんと定位置なのか、ショーケースの上に乗るとスフィンクス座りでリンに冷ややかな視線を送る。
「あ、確かに、じゃないよ!そもそも、あの、お婆ちゃん、変でしょ!怪しいにもほどがあるね!僕も...あの時は...雰囲気にのまれて気づかなかったけど、あのお婆ちゃん、只者じゃない!」
「えぇ〜、そうかなぁ?お上品な、優しいお婆ちゃんだったじゃない?パンも、買ってくれたし」
「リン、君はお母さんのお腹の中から、僕と一緒に産まれたわけで、人間なら、兄妹だ。その時、何?警戒心、全部、僕に譲っちゃったの?ん?」
「まぁっさーかー!ちゃんとあるわよ、私にだって、警戒心!だから、こんな人里離れた場所で、パン屋やってるんじゃん!」
「...それが、人が来ない原因だって、気づいてないの?まさか?」
「...え?...いや、そんなこと...ていうか、ほら〜、今は日本もロハスが浸透してきてて、特に富裕層とかの人は積極的に取り入れる人がいるじゃない?だからさ、ジョギングがてら寄るよ〜、絶景だもん!って話になって、雪も、納得したでしょ?」
「...僕は、日本にこだわるなら、もっと、自然が溢れる田舎がいいって言わなかった?外国の方が敷地的にも信仰心的にもいいって、言った、はずだけど?強引に、ここ、おしゃれ!ここにしよう!うふふ、って押し切ったのは、リンでしょ?僕のせいに、しないでくれる!」
冷たい雪の視線にリンは焦り始めて視線が泳ぎ始め所在投げに両手を写真もろともエプロンのポケットに突っ込む。
そして、シュンとしたみたいに猫背になる。
「はぁ〜...まぁ、いいや...その話は...拠点を構えた時点で変えることできないし。忘れ物の君、が、日本の龍だから日本に来たいっていう、気持ちは、分からなくもない。偶然でも、会いたいという、執念深い、リンの気持ち、優秀な遣い魔の僕、だから、理解してあげられているんだし。普通の遣い魔なら、そんな私的なこと持ち込んだらめっちゃ怒られて、先生に言いつけられて、絶対、日本には来れなかったよ」
いじけて下を向いていたリンは、ぱぁっと明るい笑顔で顔を上げポケットから手を出して両手を組めばバタバタバタと小走りで、うるうると嬉しそうな目をしながら雪にずずいっと近づいた。
「近!ちょ、離れて!離れて!」
至近距離しすぎて、雪は片手でパシパシっとリンのおでこを軽く叩く。
「嬉しいぃ癖に〜。それにさぁ〜冬生まれなのに、寒の雪、苦手でしょぉ?ここ、雪降らないしぃ〜。うふふ」
そういってにやにやした笑顔で、リンは離れる。雪はというと黙って視線を外しているが、まんざらでもない様子。
「でぇ?なんで...お婆ちゃんが変だと思ったの?」
急に素の顔に戻り、落ち着いた声音のリンに雪も素の顔で見つめる。
「やっーと、回路が繋がって切り替わったな、うん。エンジン掛かるの遅いんだよ、いつも」
雪はぶつぶつと本当に小さな声で独り言の様に呟いて、小さく咳払いをする。
「じゃ〜、説明してしんぜよう!まず一つ目、杖を付いたお婆ちゃんはここまで一人で歩いてくるのは大変なのに、息も切らしてなければ汗一つかいた様子がなかった。二つ目、腰が曲がったお婆ちゃんはショーケースの半分くらいの背の高さだったのに、なんで、僕を撫でられたのか?三つ目、魔法使いの中でも上級魔法使い、渡り鳥だけが持つ魔眼を持っていた。魔眼は、君ら、星廼子の潜在能力で色が異なるけど、宝石みたいな輝きを持ってるのはみんな一緒。魔法を使ってる間は瞳が輝くけど、普通の人間は魔法が使えないから、見えてないけどさ。でも、普通の人間であんな瞳、持ってるはずない!四つ目、僕の結界が張られてるのに、僕達の会話が聞こえたとか、ぜぇーーーーったい、ないね!断言できるし!」
リンは胡散臭そうな視線を、雪に向ける。
「え?でも、最後のは、雪の魔法がいまいちだから、ん?中途半端?だから、聞こえちゃったとかじゃなく?」
「おい!ポンコツ、リン!いい直して、二回も!いやいや、冷静に、冷静に...僕は、完璧な結界魔法で、円陣組みました!学園でも、トップクラスなんです!!知ってるだろう!!」
少し馬鹿にした表情で笑うリンは、ちょっと邪悪な感じ。
「まぁ、知ってますけどぉ?弘法にも筆の誤りってことわざも、あるくらいですからぁ?」
言い返せない雪は前足を踏ん張ってわなわなと怒りを抑えつけながらも、引き攣った作り笑いをリン向ける。
「そ、そ、そうだとしても!他の三つは、どう説明するのさ!」
また急に素の表情になって、腕組みをし何処か遠く上の方をリンは見ている。
「そうね...それは確かに、思い出してみても...変、といえば、変だよねぇ...というか、三つ目は、私、見てないし!...分かんないわよ」
リンは眉を下げて苦笑すると視線を雪に戻し、それを見ていた雪はため息をついたら一緒に怒りも抜け落ちたのか、今度は口をキュっと結び呆れ顔でリンをジトーっと見た。
「馬鹿と天才は、紙一重...か」
「なんですって!!!」
「べ、べっつにぃ?」
ぼそっと思わずだが小さい声で言った雪だったが地獄耳なのか偶々耳に届いたのか、リンにはばっちり聞こえたようで雪は慌ててごにょごにょ歯切れ悪く誤魔化して明後日の方向を見る。
「でぇ!も、引き受けちゃった以上、しょうがないじゃない?怪しいので引き受けられません、ごめんなさいとか言った場合、信用ガタ落ちよ!それこそ人来なくなっちゃうし、商売できなくなっちゃう...かもでしょ!!」
早口で言うリンは人差し指を雪に向けてブンブン小刻みに左右に揺らし、最後は決めポーズみたいにビシッと指差した。
雪は明後日の方向を向いているのでなんだか間抜けな感じではあるが、丁度雪が視線をチラッと向けたので決めポーズもなんとか成立。
ただ雪はその姿を見て、ため息混じりでガッカリしたような呆れた視線を送っている。
「まぁ、そうだね。仕方ないよね?リンが、勝手に引き受けちゃったんだしねぇ?仮に、人間だった場合、僕達の本来の目的、人間の神秘の欠片が、手に入るかもしれないしぃ?」
「そ、そ、そうよ!...そうだ、そう、あのお婆ちゃんから、千里香桜の匂いがしたの!もしかしたら忘れ物の君と、会えるかもしれないじゃない?」
「忘れ物の君って、言わないでぇとか言っておいて、ねぇ。ふ〜ん。ただ、その花の香水、たまたま、付けてただけかもしれないけどねぇ〜」
「あ、あぁ、えーと、だって、雪が、銀龍の君だとどこのヤクザか、不良か?みたいなこと言うし...天使君って言うと、龍だけどとか突っ込まれるし、自分で初恋の君とか言うには照れくさいし...まぁ、うん、一番無難?みたいな?それはいいとして...怪しい人がその香りをさせてたってことはよ、何か関係があるかもしれないじゃない?」
「罠、かもよぉ〜?」
「でも、今のところ全然手掛かりがないじゃない?日本の獣神ってことだけは、分かったけど」
「まぁ、そうだね。龍自体も個体数そんな多くないし、飛龍となるともっと少ないし、おまけに銀色となると、日本しかいないまではよかったけど、あまりにもベールに包まれてて、あっちではそれ以上は調べようがなかったのは...確かだしね」
「でしょ?だからさぁ〜、この白猫ちゃんをまずは、探そうよ。......可哀想だよ、ずっと一緒にいたのに...離れ離れなんて」
ポケットから写真を取り出すと悲しそうな顔で写真を見つめてるリンに、雪は、穏やかな表情になって身体ごとリンの方へ向き直る。
「...そうだね。早く」
そう言いかけた瞬間、
「いやぁぁぁぁぁ!!!」
「な、なに、何??」
「雪、見て、お婆ちゃんにお借りた写真が皺寄っちゃった!ど、ど、どうしよう!!」
雪は、呆れ顔でため息をつくしかなかった。
「不注意にも程があるけど、リンさぁ?君、魔法使いだよね?」
慌てふためいて写真を握りしめてわなわなと手を振るわせながら、リンは今にも泣きそうである。
「う、うん」
「はぁ...もう、スイッチ切れたか...」
「え?何?」
「なんでもない。いい、リン。君は、魔法使いなんだから、魔法で、どうにでもできるでしょ?」
「ん?...そ、そうね、確かに!じゃぁ!」
「待て!用心に越したことはないから、すぐにどうこうしなくても...いんじゃない?夜にしなよ」
「あ、そ、そうね。さっすがぁ〜、雪は頼りになるなぁ!」
ニコニコ顔でよしよしと褒め称えるように、リンは雪の小さな頭を撫でる。雪は不服そうな目を向けているが、まんざらでもなく、尻尾をピンと立てて小刻みに揺らしている。
「...で?どうやって、見つけるわけ?名前と、その写真一枚だけで」
リンは人差し指と中指の間に写真を挟むと、ニヤっと不適な笑みを浮かべる。
「ふ、ふ、ふ、それこそ、私は、魔法使い!名前と写真があれば、探せないものなんてないわ!」
「...見習いだけどね、まだ。しかも、人間界と僕達のいたKUUは、異なる世界だから、ちゃんと発動できるかは微妙だし...経験済み...でしょ?」
何かを思い出したようで、リンは悩まし気に両手でうっわぁーと小さく叫びながら頭を抱える。
「そぉうだった!!探索系魔法は精霊自身を使役するから力を結構使うんだった...となると、昼間は...そもそも高い所行かないとダメだからダメで...いや、そもそもここはそこまで自然は多くないし...私のバカ!ちょっと都会でオシャレな街でゆったりのんびりしたいい空気感!とかで、選んだことに後悔!」
いつになく早口で一気に喋ったリンは、ガクリと力無く肩が落としショックそうに顔を俯かせる。
「でも、それだと、あのお婆ちゃんには会えなかった...でしょ?」
「た、確かに!」
雪の言葉にハッと気付かされたリンは、ガバッと勢いよく顔を上げた。その顔はもうショックの欠片もなく、晴れ晴れしている。
「はぁ......精度は落ちるけど、魔法占いすれば?リンが毎度見てるテレビの恋占いよりかは、当たるでしょ?」
ぷくっと頬を膨らませたリンは、不服そうに目を細めジトーっと雪を見る。
「ちょっと、人間の占いも捨てたもんじゃないんだからね!ぴよこ先生は、結構、当たるんだから!」
「あー、はいはい。...見た目から胡散臭さたっぷりだけどねぇ〜。で、どうすんの?」
リンは考え事をしているようで眉がグッと寄って皺が増えたが、次の瞬間にはスッと皺は消えて思考を放棄したようにニパッと笑顔で笑う。
「うん、とりあえず、街を探索してみよう!こっちにきて、ゆっくり街を探索する時間なかったし!それで夜になったら、家で、魔法占いしてみよう!街を見て回った方がイメージしやすくなって、当たる確率も上がるし!そう!それしかないわ!」
「......ただ、街を散歩したいだけでしょ...まぁ、いいか。で、お婆ちゃんから借りた写真も元に戻さないとだしね」
「...そ、そうよ...あ、それに今日はテレビでフルムーンって言ってたから、あつらえ向きじゃない?」
「...そうだね。僕達は、星廼子、月廼神の童だからね。世界は違えど、月の影響力はだいぶあるし。いいんじゃない?例の、魔法も使えて」
「うん!私、あの魔法好きなんだぁ!!じゃ、そういうことで、今すぐ行こう!!」
「え?その格好で?」
ニヤっと、リンは不敵な笑みを漏らす。
「ふ、ふ、ふ!この格好でパン屋のチラシを配れば、閑古鳥のこの店も繁盛間違いなしよ!」
「繁盛するかは別として、いつのまにチラシ作ったの?」
「え?...お母さんが...こっちに遊びに来た時に...パソコンって便利!チラシもあっという間!やだ、プリンターって綺麗に印刷できるのね、今はぁ〜て...キャッキャ言いながら、夜中作って行った、よ...」
「...そ、そう。今は、子供を産んで力が落ちたから現場から退いて、教える側になってるけど、元々ママは大魔法使いの一人で、昔は渡り鳥のエースとまで言われてたらしいもんね...」
リンが偉いわけでもないのに、えへんっと腰に両手を置き自慢そうに胸を張る。
「そうよぉ〜!私のお母さんは、すごいんだから!お料理は上手、魔法も昔は天才って言われていたし、今は力が衰えてしまったけど、まだまだ、そこら辺の渡り鳥には負けないんだから!それに、優しくて、頭が良くて、気が利いて、子供に理解あるし、みんなから好かれて、尊敬されている大魔法使、あ...今は、大賢者か。自慢のお母さんなんだから!」
「あーはいはい、知ってます。ずーーーーーーっと一緒に生活して、住んでるんだから」
「あ、そうね。雪に、自慢しても意味なかったわ」
「自覚はあるんだ、自慢って」
「そりゃぁ〜、自慢したくもなるでしょう!私の憧れで、す、も、の!だってよ、あんな完璧...ちょっと天然入ってるけど、すごいお母さんを射止めたのがお父さん!冴えないしがない教員で二流の魔法使いって言ったらお父さんには申し訳ないけど、そんなお父さんと恋に落ちて、それがお母さんが道で転びそうになったのをたまたま通りかかったお父さんが颯爽と助けて、もう、お母さん一目惚れ!眼鏡に隠れる、切長の目が素敵!すぐ照れて、はにかんだ笑顔が子供みたいで素敵!って、怒涛のように恋に落ちて、大恋愛したのちに私達が生まれたのよ!もう、憧れる!!」
「...ママの自慢なのか、二人の端折った出合い話なのか、よく分からない話は聞き飽きたし、いつも思うけどその話...パパの方の感情全く無視ってるよね」
「馬鹿ね、雪。パパはもともと学生の時に先輩で、お母さんが入学してきた時からの一目惚れ、ずっと秘めた思いを隠してたのよ。ていうか...めちゃんこ、奥手でしょ、お父さん」
「...まぁそうだね...ずいぶん長い間、片思いだったよね...」
「そこがいいんじゃなぁ〜い!純愛よ!」
「...あぁ...はいはい。で、いつ行くの?このままこの話してたら、チラシ配れないけど」
「はぁ!!そうね、じゃ、カバンとチラシ持ってくる!」
バタバタバタバタ バタン
バタン バタバタバタバタ
「よし!完璧でしょ!これで、マッハでゴーで行けるわよ!」
ダッシュで部屋に駆け上り忙しい音がした時思えば、そう言ったリンは眼鏡フレームの端っこをクイクイと上げてドヤ顔をしている。
「何言ってんの?で、わざわざ、魔法の眼鏡じゃなくて、なんで、その黒縁伊達メガネ?」
「え!探偵たるもの、黒縁伊達眼鏡は必須アイテムでしょ?」
「は?意味がよく...またぁ〜、なんかのアニメの影響受けたな...」
「いいでしょ!さ、行くよ!」
「...はいはい」
雪はため息一つ漏らした後に颯爽とショーケースから降りて、リンの隣へ並ぶ。
カランカランといい鈴の音が鳴って、二人は木漏れ日が差したいい陽気の外へと繰り出した。