リバーシ大会編(第二章白夜編スタート)
第二章は司彩の親友の白夜を中心として物語が進みます。
勿論その他のメンバーも出てきますのでご期待下さい
鈴木白夜高校一年の新学期。
白夜は、学年一の美貌の持ち主であるにも関わらず、その明るくて人当りの良い性格であることから、学校内でもダントツの人気があり、言い寄ってくる男がひっきりなしの状態となっていた。
白夜が、ある男子から廊下に呼び出された。
「うちのミャーコが下痢なの。看病しなくちゃいけないから当分は遊びには行けないわ」
「そうなんだ。じゃあ」
白夜は、男子からの誘いをやんわり断った。先週も同じ方法で断ったばかりだった。
ミャーコとは、昔白夜が小学校の頃にお祖母ちゃんの家で飼っていた猫のことだった。ある日ミャーコが下痢をしてしたことがあり、部屋は汚れるわ、抱いたら一瞬で服は台無しになるわで、大変な思いをしたことがあったのだった。今はもうミャーコはいないが、男子の誘いを断る口実としてかなり良い断り文句になっていた。ミャーコが下痢と言えば、大抵の男子はそんな名前の猫なんている訳がないと言わんばかりにさっさとどこかへ行ってしまうのだ。
しかし、そんなどうでもいい男子からの誘いを断る度に、この後の噂が気になる白夜だったが、司彩は全く気にせず。「振った男子のことなんて気にすることはない」といつも白夜を励ますのだった。
司彩は中学の時に一番初めに出来た友達だった。きっかけはたまたま同じクラスで名簿が近いだけであったが、司彩は本当に気が許せる大親友となっていた。司彩は普段はおとなしいが、ここぞという時だけは自分の意見を曲げないしっかり者だった。いちいち人のうわさに耳をそばだてて一喜一憂している私が滑稽に思えるくらいだ。
「ミャーコちゃん心配だね。病院には行ってるの。早く元気になると良いね」
この前の男子との会話を聞かれていたらしかった。あれほど他人なんかどうでも良いとか、一切信用するな。などと言っておいて、司彩自身は、白夜の言葉を露ほどにも疑っていなかった。そんな司彩に嘘はついてはいけないと白夜は思っていた。
「ゴメンなさい。本当は、ミャーコはとっくに死んじゃったんだ。男子の誘いを断るための口実なの」
司彩に説明している途中で、一瞬ミャーコのことを思い出してちょっと悲しくなってしまった。「死んだ」という言葉を使うといつもこうなってしまうのだ。
「…悲しかったんでしょ。白夜のその顔を見ればわかるよ」
私の気持ちをどこまでも察してくれる司彩のことが大好きだった。
ある日、クラスの女子の中で「イケメンの新田啓介」と言うのが話題になった。イケメンに目がない白夜はクラスメイトとこっそり(新田啓介)を見に行くことにしたのだが、クラスを聞いた白夜は目を白黒させてしまった。なんと司彩と同じクラスの男子だったのだ。このクラスは何回か出入りしたことがあったが、そんな話題の男子がいるとは思ってもみなかった。
白夜は、彼が誰なのか教えてもらう前に見つけてしまった。きっと彼に違いなかった。噂は誇張されるケースが多いため、期待はそんなにしていなかったが、彼を見つけた白夜は一瞬でメーターが振り切れてしまった。まさにホールインワンの状態だった。どうしたら彼と仲良くなれるだろうとそればかりを考えるようになってしまった。
新田啓介と顔見知りになりたい白夜は、ことあるごとに司彩のクラスに顔を出すようにしていたが、彼に全然認識されない状態が続いていた。こちらからはイケメン顔を何回も盗み見していたが、彼と目があったことは一度も無かった。
一度、司彩に彼のことを聞いてみたが「良く知らない」と言われてしまった。司彩から、これ以上彼の情報を聞き出すことは不可能だった。
それでも、何回もこのクラスに顔を出せば、いつか私を認識してもらえるかもしれないと、せっせと新田啓介のいるクラスを訪れる白夜であった。
司彩のクラス脇の廊下での会話
「いつか私に花束を持った王子様が愛の告白をしてくれないかしら」
夢見るような白夜に司彩が冷静な一撃を放つ。
「そんなことありえないよ。もし本当に花束を持ってくる人がいたら逆に引くよね」
「またそんな夢のないこと言うんだから。じゃあ例えば、どんな人…じゃなくて、司彩はどんな花が好きなの」
司彩が訝し気な表情でこちらに顔を向ける。「失礼な!」と言わんばかりだ。しかし、司彩は敢えて突っ込んでは来なかった。「じゃあ誰がいいのよ」と返す準備をしていた白夜だが肩透かしを食らってしまった。
「私はひまわりが好きだよ。夏に生まれたから」
「あ、ひまわりね。えっと…ひまわりの花言葉は…」
白夜がスマホでひまわりの花言葉を調べると「憧れ」「情熱」「あなただけを見つめる」だった。
白夜は想像してみた、もし司彩に彼氏が出来たとしたら…。
「憧れ」「情熱」「あなただけを見つめる」
なんて、一途で真っ直ぐな恋なんだろうと思ってしまった。とてもじゃないがイケメン好きの私には真似できない。司彩がいつも以上に眩しく見えるのだった。そんな眩しい司彩が逆に聞いてきた。
「白夜はどんな花が好きなの?」
「やっぱり薔薇よね」
白夜は、本当はマーガレットが好きなのだけれども、マーガレットの花言葉が「恋占い」なのを知っていた白夜は、司彩に言うとまた心配されそうな気がして、そのまま言えずに見栄を張って薔薇と言ってしまった。
「薔薇はっと。うわぁすごい。薔薇だと色と本数でメッセージの意味が全然変わってくるらしいよ。さすが花の女王って言われているだけあるね」
「え、そうなの」
「でもま、普通は赤だよね。赤だと「あなたを愛しています」「愛情」なるほどね、赤がセオリーね」
司彩がスマホで薔薇の花言葉を調べながら頷いている。
「一生に一度でいいから色と本数でメッセージを込めてくれた薔薇の花束を受け取りたいわ」
「はい。そんなありあえない妄想の時間は終わりだよ」
「でも、一生に一度でいいわ」
「だからそんな奴がいたらキモイだけだって」
妄想癖の白夜と現実主義の司彩。それでも白夜は諦めていなかった。本当は、新田啓介から花束を貰いたいと思っていたが、口に出しては言えない白夜だった。
白夜と啓介が初めて出会った(会話した)高校一年の夏祭りリバーシ大会
トーナメントの対戦表を見た白夜は、歓喜が体中を駆け巡ってしまった。なんと二回戦で、あの新田啓介と当たる組み合わせになっていた。今まで、彼とは目が合ったことすらないが、さすがに対戦中に一度も相手の顔を見ないことはないだろう。対戦さえすれば、顔を覚えてもらえるに違いなかった。
白夜にとってたった一回勝つだけで彼に届くのだ。一回戦は、絶対の絶対に負けるわけにはいかなくなった。ここで負けたら、新田啓介への道が閉ざされてしまう。
この一回戦だけは全身全霊をもって勝たなくてはいけない。白夜にとって人生のターニングポイントがリバーシ大会一回戦の勝敗にあるように思えてきた。
鈴木白夜高校一年生。新田啓介の出会いをかけた夏祭りリバーシ大会一回戦。一世一代の大勝負をかけた戦いが幕を開けるのだった。
「キミって、確か一緒の高校だよね。何回か見かけたことがあるよ。名前何だったっけ」
「鈴木白夜。苗字が普通だから皆は私のことを白夜って呼ぶんだ」
「オレは新田啓介。オレも下の名前で呼ばれることが多いから啓介って呼んでくれ。よろしく白夜ちゃん」
「啓介ね。分かったわ」
絶対に負けられない戦いに勝ち、念願の彼と対戦することになった彼の第一声がこれだった。彼は初めから私の顔を覚えてくれていたのだった。しかも、顔見知り以上の“友達”になれた。更にいきなり下の名前で呼び合う関係になってしまった。白夜にとって、啓介との出会いは予想以上に最高のものになった。
白夜ちゃんと対戦した啓介はメロメロになってしまった。こんな子は今までいなかった。
リバーシの駒をひっくり返す時の白夜ちゃんの指先がとんでもないのだ。まず駒の持ち方が凄い。キツネの手になって人差し指と小指がピンと伸びるのだ。その指先の曲線美がたまらなくゾクっときてしまう。更にくるりと手の中で駒を回してまた、キツネの指先で駒を戻す。白夜ちゃんのその指先を見るたびに、啓介は痺れたような感覚になってしまう。
練習しているのか、もともとそうなってしまうのか分からなかったが、とにもかくにもその白夜ちゃんのキツネの指先の動きに、啓介は心を奪われてしまうのだった。
リバーシ大会が終了し、白夜は啓介と一緒にベンチで参加賞のたこ焼きを食べることになった。
啓介に憧れていた白夜にとって、これ以上のシチュエーションはないのだった。しかし、さっきの対戦の時の会話で感じた啓介の軟派な態度が気になってもいた。きっちり彼を見極めないといけないと思っていた。
「お、この店っていろんな味付けがあるね。塩味、味噌味、とんこつ味、うまそーって。これってラーメンだよね」
啓介が自分でボケて自分で突っ込んでいる。
「たこやきチケットは三枚あるから、三種類選べるね。一人一個ずつ選んで、残り一個は普通のソース味にしようか」
「そうね。そうしましょ。なら私は味噌味ね」
「そうくるか。じゃあオレはとんこつにするよ」
啓介は、二人併せてたこ焼きチケット三枚分のたこ焼きを注文した。
「兄さん、ソース味の青のりとマヨネーズはどうしやすか」
「たっぷりで」
白夜に確認もせず、いきなり啓介が答えてしまった。この啓介の返事を聞いていた白夜はちょっと嬉しくなった。
普通は女の子がいれば青のりもマヨネーズも控えるのが普通で、啓介はそういうのに慣れていると思っていたけど、実は啓介は女慣れしていないということだった。そんな白夜の心境を知る由もなく、白夜に向かって啓介が怪訝そうな顔をして聞いてきた。
「え、普通だろ」
「そうね。それが普通よ。問題ないわ」
「このとんこつ味結構いけるよ。うん。凝ってるね」
そんなことを言いながらバクバク食べている啓介を見ていると、いきなり啓介が「やらかした」という顔をしてしまっている。
「どうしたの」
「しまった。とんこつ味、全部食べちゃった」
啓介の天然な行動が、いちいちツボにはまってしまう。
白夜は、「新田啓介との出会い」という人生のターニングポイントを自らの手でつかみ取ったのだった。
今回は三話との繋がりが深い回になっています。
引き続き一回/週のペースでupしていきますのでよろしくお願いします