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幼なじみ編

「少し話しがあるんだけど」


愁人は言いにくそうな感じで司彩にLINE電話で話しかけた。

「舞結さんのことなんだけど、実は彼氏と別れたみたいなんだ」


司彩には言っておかなければいけない内容だった。都合が良すぎると言われないかと内心冷や汗が出る思いだったが以外な返事が返ってきた。

「言ってくれてありがとう。でももう良いんだ。愁君のことを信用するって決めたから」


愁人の心配は杞憂きゆうに終わった。そう思うとどうしようもなく司彩のことが好きと言いたくなった。

「信用してくれてありがとう。司彩。やっぱり俺、司彩のこと大好きだよ」


司彩が思わず笑ってしまう。

「なんだよ。こっちは真面目に言ってるのに」

「ごめんね。凄く嬉しいよ。ずっと言って欲しかったんだ」


そういえば、最近は好きと言えてなかったなと思い返す愁人だった。

「久しぶりにやっちゃう?好きゲーム」

「電話でするの?」

「先に好きって言ってきたの愁君じゃん。さ、やろうよ」

「わかったよ」

「それに、まだ何十個もあるんでしょ」

「…降参しました」

「ダメだって」


この後、好きゲームが一時間以上続くのだった。




白夜と舞結の初対面。司彩から話を聞いた白夜が舞結に会わせろと言ってきたのだ。


舞結は白夜に思わず見惚みとれてしまった。愁先生の友達にこんなに綺麗で可愛い人がいるなんて。それに「愁。」なんて呼んで妙に馴れ馴れしい。愁先生もこの人を「白夜」と呼び捨てにしている。

「わかった。白夜さん、本当は愁先生の一号でしょ。そうじゃないと納得出来ない」

「残念でした。そうなりたいのは山々だけど、私は二号よ。上には上がいるってこと。だからあなたは三号ね。私を抜かない限り二号にもなれないわよ」


白夜さんの顔は真剣そのものに見えた。

「そんなの、信じないから」


舞結には、愁先生の彼女にこれ以上、美人で可愛い人がいるなんて思いたくなかった。

「あーらそうかしら。このネックレスは愁と一緒に買ったんだけど。ねえ愁」


「…」


愁先生が黙っているということは、ウソでは無かった。舞結が言い返せなくなってきた。

「白夜、もうそろそろ舞結さんをいじめるのは止めてくれないか」


白夜はようやくからかうのを止めて舞結に笑いかける。

「ごめんなさいね。一号なんて言うから面白くなっちゃった。でも私舞結ちゃんのこと気に入ったわ。仲良くしてくれる?」

「愁先生の彼女の友達なんでしょ」

「親友よ」

「だったら敵だよ」


舞結が対戦モードを崩さない。

「そんなことないわ。私は純粋な恋をしている女の子が好きなの。だから舞結ちゃんのこと大好きよ。しかもとっても可愛いんだから」

「そういうことなら分かりました」


舞結はなんだか子供扱いされているような気がしたが、こんなに綺麗な人に可愛いと言われて悪い気はしなかった。

「でもなんかちよーっと違う気がするのよね。本当にLoveなのかしら」

「どう言う意味ですか」

「あらゴメンなさい。ただの女の勘だから気にしないで」


最後に白夜は意味深な発言をするのだった。




舞結は、自分の部屋で二人のメモを見て頭を悩ませていた。メモを作ってからもうすぐ二週間になるが、全く進展が無かった。それどころか後退している感じすらする。私を女性として見ろと言うことがひっかかっているのか、私が何を書いても愁先生からはほとんどコメントしてくれなくなってしまった。このままではあと半年で私が愁先生の彼女になることは絶対に叶わない。


舞結はこの状況に疲れはじめていた。



一旦白紙に戻すべきか。それとももっと強引に行くべきか。いやいや、これ以上強引に行って、もし拒絶されたら今度こそ立ち直れない。


メモには来週に愁先生と二回目のデートを予定している。舞結にはそこが勝負の分かれ目だと思えた。そこでもし進展が無かったらと思うとどうしようもなく不安になるのだった。



愁先生との二回目のデート(とある商店街のクレープ屋さんデート)


舞結は愁先生のことが本当に好きかどうか分からなくなってしまった。勉強を教えてもらっている時はあんなに格好いいのに、プライベートで会うと何も楽しくないのだった。このドキドキしない感覚は、まさに一回目のデートの時と全く同じ感覚だった。あの時は、愁先生が彼女と喧嘩したからだと思っていたけど、そうじゃなかった。喧嘩してようがしていまいが、愁先生の心の中の大半を彼女が占めているのだ。こんな状態の愁先生とプライベートで会っても何も楽しくないのだった。


舞結の目に涙が溜まってきた。愁先生には泣かされてばかりだ。でもこの状態は自分が作り出したものだった。舞結は元の状態に戻すことを決意した。

「もう愁先生とはプライベートでは会わないことにします。二人のメモも取り止めにします。だから家庭教師だけは辞めないで下さい。それだけで十分です」


舞結は家に帰ると、自分の目標設定を書いたノートに、一度外した暫定をもう一度付け足した。




舞結が二人のメモを止めようと言ってから数日後。家庭教師の帰り道、愁人が自転車で信号待ちをしていると不意に後ろから呼び止められた。


「あの、舞結ちゃんの家庭教師の方ですよね」




舞結の同級生と思われる年代の男の子が立っていた。まだ幼さが完全に抜けてない顔立ちをしているが、背筋がピンと伸びておりまずまずの好青年の印象だ。


愁人は、道路わきに移動して自転車を停め、その青年と対峙した。

「そうだけど」

「舞結ちゃんのことをどう思っているんですか」


愁人は感心した。一人で四歳も年上の大人に対して文句を言いに来るなんてなかなか度胸がある奴だと思った。


ちょっと彼を試してみるか。


愁人はその青年に向かって言い放った。

「どうでも良いだろ。舞結は俺に惚れてるんだぜ。俺の舞結をどうしようがお前に関係ないだろ」


その青年は見る見る顔が赤くなり愁人に殴りかかって来た。愁人は思い切り歯を食いしばって一発貰ってやった。

「ちょっとストップ。今のは嘘だ。俺にはれっきとした彼女がいるんだ。だから一条さんとは何もないし何かする気もない。これが本当だ。君の名前は」


愁人は慌てて彼の拳を止めた。やばかった。もう少しで二発目を貰ってしまうところだった。慣れないことはするもんじゃない。でも彼女のためとはいえ、彼はすごい行動力だった。夜道で家庭教師の俺を待ち伏せするなんて一歩間違えばやばいストーカーともとれる行為だが、彼の舞結さんへの気持ちの大きさが伝わった。

「オレは江崎恭介(えざききょうすけ)と言います。舞結ちゃんとは幼なじみです」

「恭介君か。ちょっと話しをしようじゃないか」


二人は、近くの公園まで移動した。


恭介君の話では、小学校迄は二人で良く遊んでいたが、中学に入って徐々に疎遠そえんになって行ったという。さらに最近、俺が家庭教師を始めたのをキッカケに全く相手にされなくなったということらしい。

「良く分かった。俺は恭介君を応援することに決めた。恭介君は俺を信じられるか」

「…さっきは何故避けなかったんですか」

「暴言を吐いたことに対する君と一条さんへの謝罪だよ。どうだ。スッキリしたか」


つい先ほどまでは敵対していた恭介だったが、愁人のどこまでも大人な対応にすっかり心服してしまった。

「すみませんでした。オレ愁先生を信じることにします」


さっきの拳はだいぶ効いたが、思惑通りに話が進みそうだ。

「良し。じゃあこれから一緒に作戦を考えよう」


 愁人と恭介の二人による作戦会議が始まった。





「恭介君は、将来の夢とかなりたい職業はあるのかな」

夜の公園のブランコに揺れながら愁人が話しかけた。あまり親しくない人へのこういう話は、面と向かい合わずに同じ方向を向いていた方が話しやすいのだ。


「いきなり何の話ですか」

「とても重要な話だよ。そういうものに女の子は惹かれるんだから」

「オレ、建築デザイナーになりたいんです」

「凄いよ。君、ちゃんとなりたい職業があるんだね。じゃあ例えば君の部屋に建物の模型とかあるの?」


恭介は模型の写った写真を愁人に見せた。

「本当に凄いよ。俺なんかよりずっと凄い。自信持っていいよ、これなら絶対いける」

「因みに関西で君が興味のある建物ってどんなのがある?」


「小学生の時は、彼女とどんな遊びをした?」




「よくわかった」


愁人は一通り話しを聴いた後、愁人が作戦を発令した。

「いいかい恭介君。舞結さんとのデートの心得を伝える。1から優先順だからな。絶対にその順番を崩すなよ」

1.建築デザイナーになるための話又はそれに関わる話。

2.舞結さんとの話。仲が良かった昔の話しなど

3.それ以外はどうでもいいと言うスタンス


「会話のボリュームバランスは9:1:0 だ。1と2以外は何も考えなくていいからな。でも雰囲気が良くなっても告白なんか当分するなよ」

「何故ですか」

「あの子はほっといた方が、自分で勝手に盛り上がるタイプだからな。潜伏期間は長い方が成功し易い。」



 恭介は、一旦は信用するといったものの、まだ信用しきれていない顔をしていた。


「そもそも、舞結ちゃんとデートなんて本当に出来るんですか」


「そこは俺に考えがある。種はいておいてやるから安心しろ」


 愁人は、自信満々に答えるのだった。





恭介は、愁先生から言われた内容(デートを誘うタイミング、デート場所、誘い方)など何項目か取り決めを行い実行した。その結果、舞結ちゃんがなんとOKと言ってきた。


愁先生は本当にスゴイ人なのかもしれない。恭介は半信半疑ながらも、今日のデートは愁先生の言いつけのとおりに実行することにした。




恭介が舞結に京都駅を案内する

「この京都駅ビルは、高さ百二十メートルまで建設可能な条件に対して、京都の景観の保護を考えて、高さ六十メートルまで抑えられているんだ。凄いよね」

「正面と天面がガラス張りになっていて凄い開放感があるんだ。ホントだね」

「ここが大階段だよ。この一本の階段に合わせて百貨店の形をズラしているんだよ。意味分かるかな」

「うん。分かんない」

「空中経路を歩きに行こう」

「ここからトラス構造がすぐ近くで見れるんだ。よく見るとボルトを上手く隠してあるな。ただの鉄橋とはさすがに違うね」

「ここで問題です。このトラス構造で作った建物で、他にどんなのがあるでしょうか」

「ヒントはないの」

「ほら、新婚旅行とかで良く使う所だよ。俺も舞結ちゃんもまだ行ったことはないと思うけど有名な場所だよ」

「えー、分かんないよ」

「正解は関西空港でした。圧巻だよ。こことは規模が全然違うから」

「そうなんだ」


かなりマニアックな会話を続けたが、オレがよっぽど嬉しそうに話しているからなのか、舞結ちゃんは黙って頷いてくれて、たまに話を振ると嬉しそうに反応してくれる。


最近、二人の会話がこんなに弾んだことはなかった。

「オレ将来は建築デザイナーになりたいんだ」

「恭ちゃんは昔からお城とかタワーとかのプラモデルばっかり作ってたもんね」


いつの間にか舞結ちゃんの呼び方が江崎君から恭ちゃんに戻っている。

「プラモはもう無いけど今の部屋はこんな感じだよ」


自分の部屋に模型が並んでいる写真を舞結ちゃんに見せた。


「これは、サグラダ・ファミリア聖堂といってスペインの世界遺産にも登録されている建物なんだ。恰好いいよね。こっちは中国の北京国家体育場だね。2008年の北京五輪のメインスタジアム。通称「鳥の巣」だよ。これを初めて見たときは正直痺れたね。


「恭ちゃんの部屋って凄いことになってるね」


と言って舞結は目をキラキラさせていた。



舞結が恭介に聞いてきた。

「恭ちゃん、もうすぐお昼だけど、どうするか決めてるの?」

「何も考えてなかった。どうしよう」


愁先生の3.に該当する内容だった。

「じゃあ帰ろうか」

「え、もう帰るの?」


恭介はしまったと思ったがそうではなかった。

「早く帰って恭ちゃんの部屋を見せて欲しいんだけど」


恭介は確かな手応えを感じていた。


それにしても、愁先生の作戦には頭が下がるばかりだ。本当にこんなに上手くいくなんて。たったあれだけのアドバイスで舞結ちゃんとここまで仲良くなれるなんて思ってもみなかった。

「さっきの関西空港のことだけど。大人になったら一緒に見に行こうか」


その質問に舞結ちゃんが敏感に反応した。

「それってどう言う意味なの」

「…」

「ねえってば」


舞結ちゃんが嬉しそうにつっこんでくる。

「他意は無いって、単純に一緒に見に行きたいって思っただけだよ」


やばかった。ちょっとフライングしそうになったが、ギリギリセーフと言ったところか。


まだ告白するなと言う愁先生の言い付けを懸命に守る恭介だった。




舞結は少し考えた。江崎君の誘い方が今までと違っていたからだ。

「京都駅の作りがどうなっているかよく見たいから付いてきて欲しい」


京都駅と言えば、つい先日愁先生と家庭教師の休憩中に話題になったところだった。

「一応見ておいても良いかな。私も京都駅少し興味があるから」


目標が無くなってしまった舞結は、気晴らしのつもりで江崎君と京都駅に行くことにした。


単なる気晴らしのつもりだったけど…




プライベートでこんなに楽しい時間を過ごせたのは久しぶりだった。


彼のマニアックな説明は半分も理解出来なかったが、あんなに嬉しそうに話す彼の姿を見ていると、なんだか小学生だった頃の感覚を思い出してこっちも楽しくなるのだった。




スマホで恭ちゃんの部屋の写真を見せてもらってビックリした。建築デザイナーになりたいという恭ちゃんの本気が伝わった。そう思うとどうしても恭ちゃんを応援したくなってしまった。もっと相談相手になってあげたいと思うようになっていた。





舞結は、恭ちゃんと別れて自分の家に帰る途中で今日の出来事を思い返していた。


あれ、恭ちゃんって私のことどう思っているんだっけ。一緒に京都駅に行こうと誘うくらいだから私のこと好きだよね。でも会話は昔の幼なじみだった頃の話ばかりだった。幼なじみに戻りたいのかな。それだけ?イヤイヤそんな筈は無いよね。私モテるんだから。でも恭ちゃんから告白してくる気配が全く感じられなかった。どうしたいの?恭ちゃんのことを考えると心臓がドキドキしてきた。


舞結は家に着くと、恭ちゃんのことが気になって、いても立ってもいられなくなり恭ちゃんとの進捗管理表を作ってしまった。


まず、今日のお礼を明日しなきゃ。その時に次に行く場所を決めてと…。あそうだ、家も近いんだからこれからは、学校の帰りは一緒に下校することにしよう。


一時間も経たないうちに恭ちゃんとの進捗管理表の計画がびっしり埋まってしまうのだった。




 白夜から愁人へLINE電話がいきなりかかってきた。


「二号の白夜よ。ひょっとして江崎恭介って愁の差し金なの?」

「なんで分かったんだ。怖いんだけど」


彼女の勘の鋭さに愁人は本当にビックリする愁人だった。

「舞結ちゃんが、いきなり気になる人が出来たなんて私に相談しに来るもんだからビックリしたわ。でも話しを聞いてると攻め方がなんと言うか中学生らしくない感じがしたからピンと来たのよ」

「恭介君に少しアドバイスしたんだよ」

「詳しく聞きたいわ」

「実は…」


愁人が、作戦の内容を細かく白夜に説明した。

「なるほどね。そのアドバイス相当効いたみたいよ。でも一番凄いのは恭介君に恋敵の自分を信用させたところだわ。どうやって信用させたの?」

「一発殴らせてやったんだ」

「…そこまでするんだ。なんか妬けるわ。あなたってやっぱり凄いのね」

「俺はただ必死なだけだよ」

「ふーん。私あなたに興味が出ちゃった」

「からかうなよ」

「からかってるように見えるんだ」


なんか妬ける。辺りから白夜の雰囲気が少し変わった気がした。

「また新しいネックレスが欲しいんだけど、一緒に選んでくれないかしら」

「啓介はどうしたんだよ」

「あんな奴、絶交よ」

「…」

「ネックレスって、司彩は知ってるんだよな」

「馬鹿ね。そんなの言う訳ないじゃない」


今度は京都駅ビルの百貨店で買いたいなどと言ってくる。


白夜がどこまで本気か全く読めない。


こんなの舞結以上に厄介だ。というか絶対無理だ。まさかこんなのありえないと自分に言い聞かせる愁人だった。   

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