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遠距離の壁編

時は少し戻って司彩(つかさ)が初めて告白した初デートの次の日

「ねえ愁君(しゅうくん)。私達、会話が少ないと思うの。もっとお互いを知るべきだと思わない?」


パンケーキを食べながら、司彩は思い切って愁人に聞いてみた。普段からあまり話が少ない二人にとってちょっと勇気のいる発言だったかもしれないが、愁君のことをもっと知りたいという思いが強くなっていた。

「まあそうだね」

「やった。じゃあ交互に相手の好きなところを言い合うゲームをします。言えなくなったら負けだからね。負けたら子供の頃の恥ずかしかった話をすること」

「えー嫌だし。そんなの絶対嫌われるよ。駄目だって」

「大丈夫だって、絶対嫌いにならないから。これはお互いを知ることが目的なんだよ。だからこれは絶対必要なことなの」


二人とも愁人が負ける前提(ぜんてい)で話が進んでいるのだった。

「じゃあ私からいくね。手を繋いで一緒に逃げてくれたところが好き」


普段は、結構ボーっとしていて自分から話すことが少ない司彩だが、今日はやけにノリノリだった。


愁人はかなり考える仕草をした後、最も一般的で簡潔過ぎる言葉を発した。

「…可愛いところかな…」

「ダメだよ。ちゃんと○○のところが好き。まで言わないと失格です」


言わないと次に進まない。愁人は躊躇ためらうのをあきらめた。

「…司彩の可愛いところが好きです」


これだよ。これが言って欲しかった。司彩は、胸がキューンとなった。でも今のこの流れならもうちょっと要求してもいいかも知れない。

「もっと具体的に言わないとダメだよ。どれくらい可愛い?」

「…浜辺美波くらい。似てるなぁって」

「良すぎるよ。もう。こんなの反則じゃん」

「そおかなぁ」


このゲーム最高じゃん。終わらせたくない。と思うと同時に、とりあえず会った時は毎回やることに決めた司彩だった。

「じゃあ次私、反則なくらいカッコイイところが好きです」

「反則って意味分かんないんだけど」


「うーん。金魚すくいにすくいあみ使う感じかな」


 司彩は言いかえが得意だ。しかもかなり的を射た言い方になっているのが面白い。


「絶対取れるやつだね。それはそれで分かりやすくて嬉しいんだけど…。カッコイイのイメージがつかないな。例えば芸能人の誰かに似てるとかないの?」

「テレビの人って全然カッコイイと思わないんだよね。あっそうだ栄養ドリンクのコマーシャルに出てた人はカッコ良かったかな。名前は分かんないけど。愁君と雰囲気似てたよ」


司彩のカッコイイ基準が全く理解出来ない愁人だった。




さらに次の日、逢っているいるだけで十分な二人は、最近お金のかからない公園のベンチにいることが多くなってきていた。


「ツーショット写真が欲しいの」


 司彩(つかさ)がいきなり愁人に向かってお願いしてきた。俺だって当然欲しい。司彩に向ってうなずいた。早速二人並んでツーショット写真を撮ってみることにした。しかし、なにか不自然でぎこちなく、いい写真が撮れないのだった。でもどんなポーズをしたらいいのか全く分からない。そこでどの様に撮ったら良いかスマホで調べることにした。

1.頬をくっつける

2.背中合わせ

3.バックハグ


こんなところだった。

「じゃあ早速撮ろっか。愁君」


と言って司彩が髪をかきあげておもむろに頬を出した。

「ホントに良いの?」

「当たり前じゃん。早くってば」


司彩に近づくと、フワッと女の子のいい匂いが嗅覚を刺激する。見るからに柔らかそうでフニフニの頬にこれから触れるんだ。愁人の鼓動がレーシングマシン並に早くなった。本当にいいのか。まだ付き合って三日しか経っていないのに。愁人の考えをよそに、司彩が「早く!」とまくしたてる。

 ピトッ

 ついに超可愛い司彩とくっついた。予想以上のフニフニに愁人は感激してしまった。これが付き合うってことなのか。最高だった。最高だった。愁人はいつまでもこうしていたかったが、本来の目的も達成したい。もうそろそろちゃんと写真も撮りたいところだったが、顔の位置が中々安定せず、何回撮っても上手く写真が撮れない。

「ちょっと頭支えて欲しい」


司彩が言ってきた。確かに俺が頭を支えてもらうのは変だろう。司彩の頭を支えていると。司彩の顔が直ぐそこにあるのを再認識してしまう。



こっこれは。



愁人はとんでもないことを思いついてしまった。


今の状態でクルッと正面を向いてしまえば、キスまで一センチメートル以下だ。勇気を出して正面を向きさえすればキス出来るに違いなかった。

「頑張れ俺。勇気を出すんだ」


愁人は本当に頑張った。超可愛い司彩の横顔が超アップになった。そうだった。今、司彩は頭を固定しているため動けない。司彩がこっちを向くためには俺が司彩の頭をこっちへ動かす必要があった。司彩は顔を向けられていることにとっくに気付いているはずだが何も言わず固まって動かない。


あと一つの勇気でキス出来る。しかし自分だけが動く勇気に比べて超可愛い司彩の顔を動かす勇気は一つ桁が上がるのだ。


どうしても司彩の顔を強引にこっちに向かせる勇気が出なかった。ついに司彩の頭を離してしまった。

「…バカ」


この司彩の声がもし聞こえていたら、続きをすることは可能だったかもしれないが、動揺している愁人には全然聞こえていなかった。




啓介白夜と愁人司彩のダブルデート。なんじゃら亭。


白夜(びゃくや)が、もんじゃでペンギンを描いている

「可愛くできたわ。啓介、目と口のところ、カワイイから特別に食べていいわよ」

「わーいやったって、そこって穴だよね。食べるところ無いんだけど」

「冗談だってば、シュウくんが笑ってるよ。あ、シュウくんって呼んだらダメだった?」

「…出来ればやめて欲しい」

「何故?」


白夜がわざとらしく聞いてくる。

「新田君だけが愁君のことを「愁」て呼ぶから、私も私だけの呼び方がしたいの」


愁人と啓介がそれぞれ別の意味で赤くなる。

「バカだなぁ。オレと愁はそういうんじぁねえよ。ただの友情の証だよ」


と言って啓介が愁人の肩を組む。

「そういう所だよ」


司彩がいつになく食い下がってくる。

「いつも愁、愁って気安く呼ぶし、簡単に肩なんか組んじゃってさ。私だって肩組みたいわ」

「はーァ。肩組みなんか普通だし。オレは誰とでも組めるし。今、瀬川とだって出来るから」

「そんなの頼んでないってば」


はたからみると、啓介と司彩が愁人を取り合う構図になったかに見えた。

「ちょっと啓介。私の存在忘れてない?こんな美人を差し置いて他の男に走るなんて、いい度胸してるわね。それに私の目の前で、司彩と肩組めるんだ」


白夜から唯ならぬプレッシャーがかかってきた。

「ごめんって。もうしません」


啓介の鮮やかな手のひら返しだった。

「それで、どうなのよ。名倉は啓介と司彩のどっちを選ぶの?」

「オレに決まってるよな」


啓介がいきなり口を挟んできたが、白夜の切れ長の目でキッと睨まれている。なにを張り合っているんだかと思っていたが、一瞬司彩が不安な表情になるのを愁人は見逃さなかった。

「…司彩(つかさ)に決まってる」

「何故なんだ」


啓介が間髪入れずに真剣に聞いてくる。


コイツ。敢えてそれをこのタイミングで聞くのか。


愁人は、後で天然な啓介に説教するつもりだったが、もしかして俺に司彩を好きと言わせる作戦なのかも知れないと思ってしまった。しかし、こうなってしまってはどのみち言うしか選択肢はなかった。

「俺は司彩のことが好きだから」

「だってさ。良かったね、司彩。じゃあ早速、肩組んだツーショット写真を撮ってあげるわね」

 白夜は啓介をどかして、名倉に司彩の肩を組むように指図した。




白夜の作戦通りだった。名倉に人前で司彩を好きと言わせることに成功した。白夜は心の中でガッツポーズをするのだった。


白夜は啓介(本当は愁人)の影響で、最近作戦を立てるのが面白くなってきた。


啓介(けいすけ)と事前に打ち合わせをしていたのだ。もし私が誰かと司彩を比べる質問を名倉にした時は、「司彩が好きだから」と言うまで「何故」を繰り返すように言い含めておいたのだ。まさか啓介と比べることになるとは思ってなくて、さらに啓介が本気で自分を選ばせようとした時は焦ってしまった。しかも名倉がどちらも選ばないんじゃないかと少し心配になったが、彼はそこまでバカではなかった。もっと頼りないイメージだったけど、案外しっかり答えていた名倉を見て、ちょっと妬けてしまう白夜だった。




次は、アクセサリーを司彩にプレゼントさせる作戦だ。


白夜は目で啓介に合図を送った。


啓介が白夜に向かって発動した。

「あれ、そのネックレス今日もしてくれてるんだ」

「当たり前でしょ。これしかないんだから。でも彼氏からのプレゼントなら何でも嬉しいものよ。ねえ司彩」


白夜がネックレスを手に取って、司彩に見せてきた。

「…」


司彩が固まって反応出来ない。

「実はまだ何も渡してないんだ」


愁人が申し訳なさそうに話した。司彩がそんなのいいよと遠慮がちに言っている。

「あっ。ゴメンなさい。気がつかなくって」

「そんなのこれから渡せば良いだけだよ。なぁ白夜ちゃん」

 啓介が取りなすように割って入り、白夜に同意を求める。


このあと一緒にネックレスを買いに行くというところまでが啓介に聞かされた白夜の作戦だったが、それには続きがあった。


「そうよ。これから買いに行きましょう。それに勝手に男の趣味で買われるより一緒に選んだ方が絶対良いから。ね、啓介」

「あ、そうなんだ」


啓介がしてやられたという顔をしている。愁人だけでなく啓介も一緒にアクセサリーを買わされる羽目になり、白夜の真の作戦が大嵌り(おおはまり)するのだった。



「それに、これからは名倉のことを「愁」って呼ぶことにするわ」

「なにっ」

「えっ」

「…」


白夜は、啓介だけが「愁」と特別な呼び方をすることに対して、司彩のことを思っての発言だったが、


白夜のこの発言に対して啓介、司彩、愁人の3人ともが、「ダメでは無いけど…白夜がそんな風になれなれしく呼ぶなんて」とかなり複雑な気持ちになるのだった。




司彩はまさに理想の彼女そのものだった。


 愁人は、今まで女の子と付き合ったことはなかったが、それでも、司彩が最高の彼女であると断言できる。今までの司彩の言動を思い返すが、彼女は何をとっても、どんな時も、愁人にとって最高の反応をしてくれる。なにより最高に可愛かった。こんなに完璧な司彩が本当に俺の彼女で良いのかと思う反面、絶対に彼女を手放すわけにはいかないという気持ちが強くなっていた。でも今のままでは、愁人は自分の本当の気持ちの十分の一も司彩に伝わっていないことも自覚しているのだった。


 このままでは、春休みが終わって遠距離の壁にぶち当たり、自然消滅するのは目に見えている。俺よりずっといい男なんて東京にいくらでもいるのだから。だがなんとしてもそれだけは絶対に避けなければいけなかった。


 愁人は今の正直な気持ちを手紙という形で司彩に伝えることにした。




司彩へ



 司彩が東京の大学へ行く前に、どうしても伝えておきたいことがある。


言葉だけだと絶対言いきれないと思ったので手紙を書きました。



俺は司彩のことが好きで好きでたまらないんだ。


待ち合わせで俺を見つけた瞬間のパッと明るくなる司彩の表情が大好きだ。


その後、待ち切れずに駆け寄ってくれるところが大好きだ。


一緒に歩く時、隣りで(おど)るように歩いてくれるところが大好きだ。


恥ずかしいことは、耳元で俺だけ聞こえるように言ってくれるところが大好きだ。



デートを重ねる度に、司彩の仕草や表情がいちいち可愛くて、会っている間だけでも何回も何十回も好きになっていく。この前のゲームで浜辺美波に似てると言ったけれど、逆だから。本当は浜辺美波が司彩に似てるから可愛いと言っただけだし。


本当はこれからの遠距離で司彩に会えない不安と寂しさで耐えられそうにない。


でも本当に耐えられないのは司彩を失うことだ。こればっかりは天地がひっくり返っても承服できない。遠距離恋愛の秘訣をスマホで調べると


束縛(そくばく)しない

連絡の量を増やし過ぎない

相手を信頼すること


でもこんなこと、司彩に強要(きょうよう)できないし細かいルールはこれから決めたらいいと思うけど。今言いたいことは、そんなことじゃなかった。



本当に言いたいこと。それは、


どんなに離れていても、何があったとしても俺は司彩が大好きだということ。


遠距離の壁なんて必ず乗り越えてみせる。そしてもう二度と司彩を泣かせない。


今度こそ司彩を守ってみせるから。

                                       愁人



司彩(つかさ)が東京に行く前日、デートの別れ際に愁君から手紙を受け取った。


司彩は自分の部屋のベッドで手紙を読んでいる。


もうこれで読み返すのは四回目だ。



まさにダンプカーと正面衝突するほどの破壊力だった。


今までも好きだとは言ってくれてはいたが、まさか愁君がここまで私のことを想ってくれているとは思っていなかった。

「司彩の仕草や表情がいちいち可愛くて、会っている間だけでも何回も何十回も好きになる」


まさに私も全く同じ感覚だった。いちいち可愛いのは愁君の方なのに。こんなに可愛くってカッコいい愁君のことが、司彩にとっても何回も何十回も好きになるのだった。



それに最後のフレーズ

「もう二度と泣かせない。今度こそ守る」


とは、一回目を知っている?


私が学校で泣いたことがあるのは後にも先にも、あの絵の具事件の後でからかわれた時の一回だけだった。もし、愁君がそのことを知っていたとしたら、私が泣いていた理由はきっと自分のせいだと思うだろう。その上で、泣かせないと言ってくれているのだとしたら、愁君は小学校の頃からずっと私を想ってくれていたということになる。


何回も何回も手紙を読み返すうちにそうとしか思えなくなってきた。

「こんなことって、ありえないよ。愁君の方が私よりも好きってこと?」


手紙を読むまでは、愁君が私を好きな気持ちより、私の方が絶対、愁君を好きだと確信していたが、その確信が揺らいでいる。途方もないものを受け取ってしまった。

「こんなの絶対反則じゃん」


射的にネットランチャー(護身(ごしん)用のネット捕獲銃(ほかくじゅう))を使うくらい反則だ。私がどこにいても何をしていてもたったの一発で愁君に捕まってしまう。


何回読んでも、読む度に1リットルの涙が止めどなく溢れ出すのだった。

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