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二人の合言葉編

司彩が愁人を彼氏にするちょっと前の高校三年の冬休み。なんじゃら亭。




愁人と啓介。二人がここへ来るときは、何か大きな作戦を立てるときと相場が決まっていた。


「俺、瀬川に告白することに決めたよ」


「やっとかよ。遅いんだよ。で、いつ告白するんだ」


 愁が瀬川のことを好きなのは知っていたが、何時まで経っても愁が瀬川に告白しようとせず、啓介は待ちくたびれていたのだった。


「高校卒業パーティーの帰りに告白する」


「それって何カ月先だよ。ホントに最後の最後にならないと火が付かないんだな。オレ達高校三年だぞ、時間なんかもうないぞ」


「でもイベントがない」


「そんなもんどうにでもなるって。もういい。オレが今から言ってやるよ」


「頼むからそれだけは止めてくれ。ちょっとは冷静になってくれよ」


 その場で電話をしようとする啓介を愁が思いっきり止めるのだった。なんとか落ち着く啓介だが、納得はしていなかった。


「で、どうするんだよ」


「パーティーの帰りに司彩を送りたい。高校生の最後の最後で二人きりになってそこで告白する」


「…まぁシチュエーションとしては悪くないな。で、なんて告白するんだ」


「…これからも友達でいませんか。とかかな」


「あほか。もう既にクラスメイトなんだから友達だろ。友達から友達になってどうすんだ」


「でもこの機会を逃したらもう次に会う機会は極端になくなるから」


「なぜそういう考えになるんだ。そんなもん、いつでも電話したらいいだろ。友達なんだから」


「…。いや無理だろ」


「いけるって。…。まぁいいや。とりあえず告白はするんだな。で、どんな作戦を立てたんだ」




 啓介は話を聞くだけで、作戦は全て愁人が考えるのだ。思考派で自分からはなかなか行動に移せないが、作戦の立案だけは秀逸しゅういつな愁人と、その明るい性格と行動力で周囲の人々を魅了するが、あまり深く考えることをしない啓介。その二人の相性は抜群でそのスタンスは二人が出会った高校一年から何も変わっていなかった。




「パーティーの帰り際に、まず、お前が俺に命令するんだ。瀬川を俺に送るようにって」


「なるほどな。お前からは言わないわけだ」


「俺が誘って断られたらそこで終わってしまうからな」


「俺が言っても断ってくるかもしれないぞ」


「そうだろうな。おそらく瀬川は「みんなで帰ろう」みたいなことを言ってくると思う。そしたらおまえは、白夜を送らなくちゃいけないからと断るんだ」


「実際そうするし、瀬川は納得し易いだろうな」


「それで、反対しなければ良し。瀬川がどうしても納得しなければ、申し訳ないが白夜も誘って四人で帰ることを提案してくれないか。瀬川もそこまでは断らないだろう。その後二手に別れる算段を立てるということでどうだ」


「さすが愁だな。瀬川を送るまでは上手くいきそうな気がしてきた。でも問題はここからだ。どうやって告白するんだ」



 啓介が、身を乗り出して聞いてきた。ここからが本題ということだ。


「送る道沿いに、広告ポスターがあるんだ。あべのハルカス魔法の美術館とお洒落なパンケーキ屋だ、瀬川に話を振って興味がある方に次のデートに誘うことにする」


「良し!分かった。まぁまぁだ。でも必ず告白するんだぞ。「好きだから次も会いたい」って必ず言えよ」


 啓介が何回も念押しをするのだった。



 2月28日、ついに高校卒業パーティー当日がやってきた。司彩を想い続けてきた愁人にとって「絵の具事件」から七年越しの告白だ。名倉愁人高校三年生。一世一代の大勝負をかけた戦いが幕を開けるのだった。



結果、愁人の作戦は完全には決まらなかったが、不審者から一緒に逃げるというハプニングのおかげで司彩と付き合うことに成功するのだった。





時は経過し、司彩達が、大学一年を終えた春休み。司彩と愁人が奈良公園で初めてキスをしてから半年以上が経過していた。司彩と愁人が今日は新宿でデートをしている。



「今日のラッキーカラーは水色なんだね」


 そう聞かれた司彩の顔が真っ赤になっていく。今日司彩は、水色の口紅をしてきていた。愁君が作ったペンギンロボットの「ラッキー」が光る色でラッキーカラーを占う司彩は、愁君と逢うときはラッキーカラーと同じ色の口紅をすることが習慣になっていた。愁君と初めてキスをした時、偶然にもラッキーは司彩がしていた口紅の赤紫色に光ったのだった。キスをすることでラッキーカラーを二人が共有することになる。司彩は口紅の色をラッキーカラーにすることで言外に今日もキスをしたいと言っているようなものだった。




「ツーショットが撮りたいな」


初めてのキス以降、二人きりになると、ほとんど必ずどちらかが、そのセリフを口にして、口づけを交わす。


ツーショットを撮りたいという言葉は、二人がキスをしたいときの合言葉になっていた。




キスまでは比較的スムーズにできるようになって満足する司彩だが、初キス以降から半年以上が経過していた。(と言っても遠距離なので逢ったのは二回だけだった)もうそろそろ次のステップに進みたかったが、愁君から一向にその気配が感じられない。こっちは準備万端じゅんびばんたんで、デートの度に勝負下着を身に着けてきてはいるのだけれども、このままではとても進展するとは思えなかった。しかし、さすがに「次のステップに進みたい」とは自分の口からなかなか言えるものではない。


司彩は、このままでは本当に結婚するまで進展しないのでは?と思ってしまう。



何かきっかけが必要だと司彩は考えるのだった。





「あの…。本当にツーショット写真を撮りたいんだけど…」


「あ、そうなんだ。そうだね。いいね」


「今度は、バックハグがいいな」




愁人は後ろから司彩のウエストに手を回してみた。


思っていた以上に司彩のからだは細かった。こんなに細いのに司彩の背中はとっても柔らかいのだった。


しかも司彩の頭がすぐそこにあり、やっぱりとてもいい匂いがするのだった。


司彩が上から愁人の手を掴んできた。その微妙な力加減に愁人の頭の回線が2、3本切れそうになってしまう。


愁人は、なんとか平静を保ちながら写真を撮ってみるが、やはり出来栄えは少しイメージと違っていて上手くいい写真が撮れないのだ。司彩からも納得しない表情が読み取れた。


「うーん。ちょっとイメージと違うなぁ。少し手を上の方に回してみてよ」




愁人は、ひっくり返りそうになってしまった。ウエストの上の方といえば…


「本当に良いの?」


「早くってば…」




 司彩の催促に釣られるように愁人がおずおずと司彩の胸に手を当ててしまった。


「きゃっ」



 司彩の予期せぬ声に思わず、愁人は手を離して大きくのけ反ってしまった。


「そこじゃないよ。肩口の方に手を回してよ」



 良く考えれば当たり前だった。ツーショット写真で、女の子の胸に手を当てているハグ写真なんか見たことがないのだった。


「司彩が変なこと言うから…」


 小さい声でぶつぶつぶつと言い訳をするも、愁人は自分がとても恥ずかしくなった。過去最大級の失態だった。愁人の顔がだんだん青ざめていくのだった。


 


 一方の司彩の方も、やらかしてしまったと心の底から後悔するのだった。絶好のきっかけだった。勘違いだったにせよ、司彩がどんなに望んでも得られなかった愁君からのよもやの行動だったのだ。


「もう。今はダメだってば」といえば万事うまくいくはずだった。


 なぜあの時、悲鳴を上げてしまったのだろう。これではまるで嫌がっているみたいに思われてしまったに違いなかった。


「怒ってないから。大丈夫だよ」


 愁君の目の焦点が合っていない。駄目だ。この言い方だと本当は嫌だったみたいに聞こえるかもしれない。


 でもしかし、本当はこれを待っていたとは言えるものではなかった。司彩はどうフォローして良いか分からなかった。


「本当に怒ってないから」と何回もいうことしか出来なかった。




 司彩は思わず天を見上げてしまった。過去最大級の失敗だった。今回の件を境に、今後愁君はもう二度と、ツーショット写真を撮ろうとは言わなくなってしまうのではないかと思えてしまう。



おそらくその予想は当たるだろう。


このままでは二人の合言葉が崩壊してしまう。



司彩は二人の関係がキス以上に進展するどころか、キスもままならなくなりそうな状態に陥ってしまったことに、絶望してしまうのだった。





 愁人と司彩の仲が停滞していたころ、白夜たちは京セラドームに来ていた。プロ野球のオープン戦。白夜のリクエストでオリックスの山岡泰輔選手を見に来たのだった。



まず、イベント開催が行われている九階のスカイホールを見に行った。日本最大級のスノーボード大型専門店が開催されている。白夜は、スノーボードにはあまり興味はなかったが、オリンピックで活躍した平野歩夢選手のグッズがどれ位置いてあるかをチェックしに来たのだった。あわよくば、SNSで話題になっている平野選手が首に巻いていたバンダナを買いたかったが、残念なことにそんなミーハーなものは一切いっさい売っていなかった。代わりに平野歩夢選手のポスターが大きく貼り出されていた。白夜がそのポスターに釘付けになっている。


「歩夢君の金メダルカッコよかったね。今でも覚えているわ。私ずっと前から応援してるんだ」


「アユム君、ずっと前からって、白夜ちゃん平野選手の友達なの」


「そんなわけないでしょ」


 また、啓介の天然が炸裂していた。




 啓介と付き合い初めの頃。あまりにも啓介が天然すぎていたため、白夜がだんだん突っ込みの担当になってきてしまった。あのころと啓介は何も変わらない。いつまでたってもボケ続ける啓介に突っ込むのが当たり前の展開になるのだった。




「京セラドームってカッコいいな。この宇宙船みたいな感じが魅惑的だし、とにかく大きいね」


「啓介は宇宙に行きたいの」


「うーん。でもよく考えると、これが宇宙船だったら、大きすぎて飛ばないね」


「…」


 どう突っ込んでいいか分からない白夜だった。ひとつ前の質問があまり良くなかったようだった。



 野球が始まった。


「泰輔さんやっと出てきたわ。キャー。カッコいいわ。今こっち向いたわよね」


「泰輔さんって、ちゃんと野球見てる?」


「やった。泰輔さん、またこっち向いたわ。今日はもう死んでも良いわ」


「…」


 イケメンに目がない白夜がオリックスのイケメンに食らいつくのだった。




対戦相手側、ファイターズの応援席からキツネダンスの曲が流れてきた。キツネガールは来ていなかったが、キツネダンスが対戦席側のそこかしこで躍られている。それを見た白夜が、なんと真似し始めた。


「思ったより簡単だわ」


 当然座りながらだったが、くねくねと体をくねらせて躍る白夜。踊りも確かに良かったが、それ以上に曲の合間に見せる白夜のキツネの指先に、啓介はまたもや目を奪われるのだった。(やっぱりいい。白夜の指先は最高だ)




 今日の白夜はかなり機嫌が良かった。


「京セラドームって良いわね。また来たいわ。今度は双眼鏡がいるわね」


「…そうだね」


「何。ちょっと、妬いてるの?」


「妬いてないって。ちょっと考え事をしていたんだ」


 啓介は、妬いていたのも事実だが、何とかしてもう一度白夜のキツネが見たいと思っていた。




「安心してって、私にキスしていいのは啓介だけだから」


 白夜が人目もはばからずにキスしてきた。


 今日の白夜は、本当に機嫌が良かった。この機嫌なら、頼んでみてもいいかもしれない。


「もう一度、白夜のキツネダンスがみたいな」


「やーね。変態みたいよ」


啓介は、そういう意味で言ったのではないと完全に否定したが、ある意味変態なのは確かかも、とも思ってしまった。そんな啓介の思いはさっさと無視して、白夜はオリックスショップに立ち寄り、山岡泰輔選手の生写真を購入するのだった。



 でも、啓介は見てしまった。白夜が、山岡選手の生写真をしまうときに、白夜が元々持っていた写真ケースの中に啓介の写真も入れてあり、啓介の写真の下に山岡選手の写真を重ねてしまうのをちらっと見えたのだった。


一流アスリートがオレの下に重ねてしまわれる。「ははっ」啓介にとってまんざらではない気分だった。


しかし何と言っても白夜のキツネが久しぶりに見れたのだった。今日は啓介にとっても収穫のある一日になった。




 実は写真は白夜の作戦なのだった。一日中イケメンを追いかけてすごく満足した一日を過ごすことが出来たが、啓介のフォローもしておく必要があるのだった。山岡泰輔選手の生写真を購入したあと、白夜は啓介に一瞬だけ見えるようして啓介の写真の下に山岡選手の写真をしまうのだった。ちょっと気を使うだけですごく啓介は喜んでくれるのだった。しかし、白夜が勢いで踊ったキツネダンスが、啓介にとってそこまで物凄く効いていたとは思ってもいない白夜なのだった。

今回で初回話で発動した作戦の全貌が明らかになりました。次回ストーリーが急展開しますのでお待ちください

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