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母の遺産で取り寄せた戸籍が語る近代日本の女子力

世界中がコロナウイルス感染防止で恐々としている令和も3年目となり、

世界から遅れつつも感染防止対策用諸費用や家賃支援、医療継続支援補助などの日本政府から保険医療機関診療所向け支援策が担当省庁から自治体経由で実施されてきており、

患者の受診が減っているコロナ禍の医院としてはいかにも少ない額ではあるとはいえコロナ関連補助金の類いを受領しておかなければ、

今後経営存続が危ぶまれる可能性もゼロではないためレイコも院長としてウェブ申請決行を決意するようになっていた。


にしても、

日々の診療や10代の息子たちの世話と家事を平行して細々とした補助金申請用に指定された資料をあちこちから集めて整理し、

煩雑な受領者記載事項を埋めていく時間とやる気の確保がなかなか出来ないレイコだったので、

気軽に訪れることが難しいほど遠方の博多から母の戸籍を郵送で取り寄せるための小為替購入なども含めた慣れない手続きは、

頭の片隅から離さずにはいたものの案の定、後回しにしてしまっていた。


そんなある日、

父方菩提寺での母のための法要の日程相談の際に母との想い出話つながりに差し障りがある部分=父の愛人関係にまで話が及んでしまい、

娘からひどく顰蹙をかったレイコの父はこともあろうか母の遺影の前で自分を擁護するため、

亡くなった母を一番慕っていたヨシエに「そんなことはわしだけでない、お前らの母さんは結婚前に子供まで産んでる女やぞ」と、

妙な形の告白をしてしまった。


ずいぶん前からしっかりと歩くことが出来にくくなっていた母のために廊下や玄関に手すりひとつ付けてあげるわけでもなく古い家を部分リフォームすることさえ意味不明な理由をつけては拒んでいた父は、

母を亡くしたその日からお金の事や食事ばかり気にしていた。


そんな父と、

母が居なくなった葬儀のすぐ翌日から活き活きと行きつけの外食先に笑顔で登場している様子に偶然出くわしたレイコとヨシエは、

六条御息女と同じ7歳年上でありながら周りの反対を押しきって結婚した昭和の熱愛カップルであったはずの母と父が、

60年余りも夫婦として生きてきたそのゴールが、

こんなものなのだろうか、夫婦とはどこまでいってもやはりただの他人なのだろうか、と

結婚して20年程ながらも妙に理解と納得ができる部分を噛み締めてしまっていた。


たくさん遺された母の形見のバッグを見ていると再婚であった母がレイコを産むよりずっと前、

自分が21歳という若い頃に産んでいた娘のキヨコから十年以上前に送られてきていた年賀状が、

丁寧に折りたたんだ状態で奥から出てきた。


20歳の母は同い年の男と若すぎた結婚をしたが5年ほどで別れ、

娘キヨコの親権は取れなかったものの定期的に会える状態を保っていたので、

初婚の父は母が幼いキヨコとの繋がりを絶たないことを条件にプロポーズをして再婚したらしいことを、

こんな今になってずっと年上の従姉妹が何も知らなかったレイコとヨシエに話してくれたことが年賀状を持つ手から実感となった。


その、母が持っていた文字が掠れてしまっているキヨコからの年賀状には電話番号の記載はなかったので、

レイコは迷わず母が数日前に死亡したことと出来れば連絡が欲しいということを自分のメアドと番号を記した手紙にして、

後回しにすることなく速達で数時間後には投函を済ませていた。


2日後の朝早く未登録番号からの着信でスマホが鳴り、

姉、となるキヨコの声が耳に入ってきた。


レイコが小学生の頃、

たまにうちに遊びに来ていた親戚の女の子が、キヨコだった。


早速キヨコと直接会う日取りを決めて妹のヨシエにも伝え、

3人がおぼろげな記憶を擦り合わせてみると、

特にレイコより10歳以上年上のキヨコの母との記憶は、

まるで知らない女性であるような母の人生の一部に触れるような話ばかりだった。


院長のレイコからすれば夫に頼りきりで専業主婦しかしたことの無い世間に疎い女というイメージだった母の本当の生き方は、

人生のキャリアデザインを突き進むようなカッコいい昭和女子のそれなのであった。











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