第三話「シゲシゲ、二度絶望する」
《――エリアスの気遣いに依って
彼女の自宅に居候する事と成った茂雄。
……転生前、多趣味であった茂雄は帰宅後
エリアスに対し、今まで自分が行ってきた趣味の説明を山の様にしていたが
少しも嫌がる事無く、茂雄の話す日本での話を
食い入る様に聞き続けていたエリアス。
だったのだが――》
………
……
…
「素敵な趣味ですね~……って!
気がついたら夜ですよ?!
……ご飯の支度しなきゃ! 」
《――窓の外に目をやり、慌てた様子で立ち上がると
台所で料理を作り始めたエリアス》
「おぉ?! これはすまん事をしてしもうたのぉ……
……気持ちが良い程聞いてくれるもんじゃから
つい調子に乗ってしもうたわい! 」
「いえいえ! ……とっても魅力的なお話でしたよ?
私もこの世界の事、シゲシゲに沢山お話しなきゃですね! 」
「そうじゃな~ぜひとも聞かせて貰いたいのぉ~」
《――暫くの後、遅めの夕食を取り終えた二人。
だがその一方で、茂雄は第二の絶望を迎える事となる――》
………
……
…
「美味しく出来てて良かったです! ……と言うか
……やっぱり一人で食べるよりも
二人で食べた方が美味しいって事ですかね♪ 」
「うむ! ……しかし
エリアスさんは良い奥さんになるじゃろうな~
料理上手で器量良し……世の中の男が放っておかんじゃろうて! 」
「へっ?! ……い、いやそんな!
で、でも……ありがとうございますっ……あっ!
……そう言えばシゲシゲが言ってた
‘湯船に浸かる’……ってどう言う事ですか? 」
「ん? ……どう言うも何もそのままの意味じゃよ? 」
「そのままと言われても……湯船ってそもそも何ですか? 」
「湯船が分からんじゃと?!
……風呂に入らん事は無いじゃろう?!
念の為風呂の説明もするが……体を洗ったりする場所じゃよ?! 」
「あっ! ……森の湖の事ですね! 」
「ん? 違うぞい? ……こう、湯船が有ってじゃな……」
「シゲシゲ……ですから湯船が分からないんです。
……湖に船を浮かべでもするんですか? 」
「ううむ……兎に角、最後まで聞くんじゃよ!
……湯船と言うのは、温かく居心地の良い温度の湯が溜まった
人間の入れる大きさの器の様な物じゃ。
そして、その近くにはシャワーと言う
温度を自分で調節して使える道具があっての?
これは、頭を洗ったり体を洗ったりする時に使うんじゃよ」
《――と、身振り手振りを交えつつ
出来るだけ噛み砕いて説明してみせた茂雄であったが――》
「えっと……器で体を洗うんですか? 」
《と、要領を得ない返答をされ――》
「いまいち伝わらんのぉ……要するに!
冷たい水に浸かる事は無く、温かい湯に使って疲れを湯に流すんじゃよ!
冷たい水に入ったって寒いだけじゃろう?
血行を良くする事で体のコリを取ったりじゃな! ……」
《――と、若干興奮気味に説明する茂雄に対し
エリアスは彼女が知りうる限りの知識を一頻り語った後――》
………
……
…
「……私、これでも人間の使う物には詳しいんですけど
似た物すら……聞いた事が無いんです」
「ゆ、湯船が……無い……じゃと?! 」
《――茂雄は再び絶望した》
===第三話・終===