第一話「シゲシゲ、別の意味で旅立つ」
本作は全体的に走り書きとなってしまった作品です。
「それでも読んでいいよ! 」
と言って頂ける心優しい読者様……ありがとうございます。
至らぬ所は多々あるかと思いますが、何卒温かい眼差しでお読み頂けると幸いです。
それでは、本編……どうぞッ!
<……ワシは茂谷茂雄、今年で九三歳の後期高齢者じゃ!
スナックのママさんからはシゲシゲと呼ばれておるが、
正直‘ゲジゲジ’と呼ばれておる様で少し不愉快じゃ!
さて、そんな事よりも……婆さんに先立たれて早三年
数多くの趣味に生きてきたワシじゃが、最近は一人寂しくてのぉ。
……今、唯一楽しみにしておる事と言えば
寝る前に風呂へゆっくりと浸かる事だけじゃ!
これが至福の時間なのじゃよ~……じゃが、ある日の事
風呂に入ると急に胸の辺りが苦しくなった。
ほぉ成程! ――>
………
……
…
「これが孫が言っておった‘ヒートシンク’じゃな!
やっと理解出来たわいっ!
……って、喜んでおる場合じゃなさそうじゃ。
く、苦しい……」
<――想像を絶する苦しみじゃった。
じゃが、大好きな風呂で人生の最後を迎える事が出来る上
いよいよ婆さんの所に行けるのかと思うと
ワシは甘んじてこの病を受け入れられると思ったのじゃ――>
「ばーさん! 今逝くぞい! ……」
………
……
…
「……#%”%”! ……#%”%”! 」
(何じゃ? 体を揺すられておるのだけは理解出来るが……ん?
……何処かに運ばれておるのか?
ううむ……また意識が遠のいて……)
………
……
…
《――小さな家の台所
鼻歌交じりに料理をする若いエルフの娘
……小気味良い音と香りに誘われ、茂雄は意識を取り戻した》
(こ……此処は何処じゃ?
おかしいのぉ……ワシの家は日本家屋の筈じゃぞぃ?
それに‘外人さん’がキッチンに居る様じゃが……)
《――意識を取り戻し
辺りを見回しつつその様な事を考えていた茂雄。
……すると、茂雄が目覚めた事に気がついたエルフの娘は
とても興奮気味に茂雄の元へと走り寄り――》
………
……
…
「!! ……”#$%&’&$#”$”#$”! 」
《と、茂雄に話し掛けた
だが、当然――》
(ううむ……さっぱり分からん。
外人さんの様じゃし……恐らくは英語じゃな!
よし……ワシが教育番組で培った英語力を試す時じゃ! )
《――‘さっぱり分からない’時点で違う筈なのだが
何れにせよ若干の勘違いをした茂雄は――
‘ないすとぅみーちゅー、あいあむ、しげお!’
――と、完全なカタカナ英語と完全なドヤ顔でエルフの娘に話しかけた。
勿論通じる筈も無く、エルフの娘は首を傾げていた》
(伝わらんのぉ……ううむ、一応日本語で話しかけてみるかのぉ……)
「ワシは茂谷茂雄と言う者じゃが……お主は何者じゃ?
……ここは何処なんじゃ? 」
《――恐る恐るそう訊ねた茂雄。
すると、エルフの娘は辿々(たどたど)しい言葉遣いで――》
「!? ……ふるイ……コトバならカイワできル!?
ここハ……ワタシノ……イエ!
ワタシは……エリアス……アナタ……たおれてタ! 」
《――身振り手振りを交えつつ
必死に状況を伝えようと努力しているエルフの娘。
その必死さが功を奏したのか――》
………
……
…
「おぉ! ……伝わって居るぞい!
しかし古い言葉と言われてものぉ……ワシは年寄りじゃし
言葉遣いなど古くて当然じゃよ!
……っと、ワシが倒れておった場所は何処じゃね?
迷惑でなければ連れて行って貰えるかのぉ? 」
「えっと……ワタシの……イエのまえニ……タオレテタ! 」
「……何じゃと?
確かワシは風呂に入って……胸が苦しくなり意識を失った筈じゃよ?
一人で……それも裸でここまで歩いて来たとでも言うのかのぉ? 」
「わからナイ、けド……アナタ……ふく……きていタ。
からだ……そのままだっタ……」
「ふむ……」(もしやとは思うが、ここは天国なのかも知れんのぉ……)
《――茂雄は更に勘違いをしたまま、エリアスにある質問をした》
………
……
…
「理解が出来んのじゃが……ここは天国なのかのぉ? 」
「てん……ごク? ……シゲチャニ……シゲ……チャヌ!
シゲシゲ……ハ、いきてルヨ?
もしかしテ……場所がワカラナイ? 」
《この少女にとって茂雄の名前は発音しづらかったのか
少々苦労しつつもエリアスはそう返答した。
一方、茂雄は――》
「ううむ……ワシの名前は言いづらいんじゃな?
それにしてもシゲシゲとは……懐かしいのぉ。
……ってここは日本の何処なんじゃ? 」
《……と、更に質問を続ける茂雄だったが
エリアスは首を傾げつつ、茂雄に対し訊ね返した――》
………
……
…
「ニホン? ……聞いたコトナイ。
ここハ、エリュシオン……ノ……モリ」
「……エリュシオンの森じゃと?
そんな森があったかのぉ? ……しかし日本を知らんじゃと?
……ならば一体ここは何処なんじゃ?! 」
「シゲシゲおちついテ! ……ニンゲン、すむとこロ。
……ココカラ……ちかイ!
ダイジョウブ……しんぱいシナイデ、まずハ……ショクジ……シテ」
《そう言いつつ茂雄の前に食事を置いたエリアス。
……一方、納得こそいっていない様子の茂雄ではあったが
些か腹は減っていた様で――》
「……ううむ、頂くには頂くがのぉ?
っとぉ?! ……この料理、とんでもなく美味いぞぃ!!!
って、うぐっ! ……腰がぁっ!!! 」
《――エリアスの手料理に興奮し
勢い良く立ち上がった茂雄は……勢い余り
‘ぎっくり腰’を発症させてしまった。
だが、次の瞬間――》
「シゲシゲ?! ……‘@!”#!&’#!”?’ 」
《――茂雄に対し何やら呪文を唱えたエリアス
すると、茂雄を苦しめる痛みは嘘の様に消え去り――》
………
……
…
「……何じゃ?! ……お主今何をしたんじゃ?!
何年ぶりじゃろう……ギックリ腰どころか
腰の痛み自体がまるで無く成ったぞい!?
《――そう興奮気味に訊ねた茂雄に対し
至極普通の事の様に――》
「……なにッテ、まほうデ……なおしタ……ダケだヨ? 」
《――そう答えたエリアス。
そして、この返答に依り
流石の茂雄もこの異常事態に気がついたのか――》
「何、魔法じゃと? ……おかしい、何かがおかしいぞこの場所は! 」
《――そう言いながら立ち上がり窓の外を見た茂雄。
その瞬間、茂雄の視界に入ったのは
辺り一面に木々が生い茂る豊かな森の風景であった――》
………
……
…
「お、御主は……こんな森の奥深くに娘一人で暮らして居るのか?
車は? ……高層ビルは!? ……年金は?!
……どうやって生活して居るのじゃ?
それら全てが魔法で生み出せる訳じゃ無いじゃろう!? 」
「ワタシ……ヒトリでくらしてル。
クルマは……ばしゃノコト?
コウソウビル……ワカラナイ……ナンキンは……タベ……モノ? 」
「南京はかぼちゃの別名じゃろう!
……ワシが言って居るのは年金じゃ! 」
「……ネンキン? ……ワカラナイ、キイタコト……ナイ」
「ね、年金が……無い……じゃと?! 」
《エリアスのこの発言に茂雄は絶望した》
===第一話・終===
最後までお読み頂き本当にありがとうございます。
引き続き次話もお楽しみ頂ければ幸いです。