5話 サクヤ魔法の練習
ここにきて、半年が過ぎたある日、ふと、記憶が戻ってきた。
俺は、独身35歳。メタボではないが、小さくて小太りなため”まめだぬき”と陰では呼ばれていた。
作曲家の端くれで、”交響詩 魔女と魔王”を書いた。電子データを作って、演奏してくれそうな楽団へのプレゼンに回っていたのだ。なかなか良い返事をもらえなかった。
体力も精神も疲労が重なり、ボーッと公園のベンチに横になって目を閉じた。暗いくらい道を一生懸命走ると、段々明るくなってきて、真っ白な中に突入することになった。そして、長い長い時が経ち、気が付くと、この世界に居て子どもの身体になっていた。
これは転生と言っていいのだろうか?。
昔流行った異世界ものをよく読んだので、もしやと期待したのだが。
35歳の俺は前の世界。この世界は5歳。小さな手、小さな足、そして活力の溢れる身体。しかし、前の世界の記憶は定かではない。
お約束だと、神様らしい人が出てきて、(ピンポーン。覚醒おめでとう。)と頭の中に声がするはず。
(この世界は、あなたが夢見ていた魔法の世界なのだ。そして、あなたにはこの世界の平和に貢献する使命がある。出会う人たちと共に歩め。 プツン。)って。
そして、チートなるものを幾つか貰える。なんてことはなかった。何も無かった。
白い服を着た少女が、手伝ってほしいことがあるから召喚したようなことを。それに神様ではないのでチートは得られないと。やっぱり。
「サクヤー。 おきろーー。」アヤが乗っかってきた。
「わかった。わかったから。お腹をおさないで。」
先ほどのは、夢なんだ。
いつもの通り、顔を洗って、食卓に着く。
今日は、村の西へ10分ほど歩いて、森の中に少し開けたところに来た。ここは、俺の魔法の練習場になっている。アヤは父親のダンガと一緒に猟にいった。俺は足手まといになるので留守番ということである。練習場は50Mほどの円形で、北側は岩が露出した壁になっている。
「ファイアー!」って声を出す必要はないけど、声を出して炎を飛ばす。
魔法は等価である。何もないところから何かが産まれることはない。
回りの木々から炭素を、周囲から酸素を集めて、炎をイメージする。空気中に拡散させると、広範囲で瞬時に爆発した。風上だったので。巻き込まれずに済んだが危ない危ない。今度は風で動かして、そこで「ファイアー」だ。うまくいったが、何に使えるか??。
やはり生活に役立つ身近な魔法を考えていこう。
火つけの魔法は、アヤでもできて、結構多くの人が使っている。
水系の魔法は、普及していないようだ。確かに空気中の水分を集めても僅かだから。もっとも水源があればその必要もない。しかし、汚水や飲めない水を目の前にしたら、有効だと思う。
で、練習した。近くの小川から水を吸い上げる。ほぼ純粋なので不味い。
井戸にある水を持ち上げて桶に移すの方法をとして、移動魔法を編み出した。しかし、魔力の消費が大きいので、普通の人には使えない。が、コップ一杯ぐらいならば使える。
すなわち、必要な魔力は重さと移動の高さに比例することがわかった。それでも、ちょっとしたものを手元に取り寄せたいときには便利な魔法だ。
今の俺の魔力量では、小石を50Mほど先まで投げられる程度である。
まだまだ、保有できる魔力量は増加中である。
土魔法では土を柔らかく耕すこと、光魔法では灯を灯すことができた。闇魔法では擦り傷程度ならば治せるようになった。
(うーん、どこまで魔力の規模を上げられるのかよくわからない。使いすぎると身体がだるくなって、休みが必要になる。)