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天災軍師  作者: 依依恋恋
第Ⅰ章「現代・天災軍師編」
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第5話「他の兵士は全滅したのに私は生きてるのできっと主人公補正」

 

「────」


 まただ。

 またこの夢だ。

 その夢を見る度に思い出す、でも夢から覚めると忘れる、夢を見ていたのかすら思い出せなくなる。

 最近はそんな事が続いている。


 腹部が熱い、寒い、──痛い。

 気が付くと私は見た事も無い場所に転がっていた。

 周りにあるのは岩だけだ。そして腹部から新鮮な血が流れ出していた事からそれほど時間が経っていないことがわかった。

 私は何故こんな場所にいるのか、それは時を待たずに思い出した。

 あの時地面が崩壊し、地割れのように空いた穴に落ちてしまったのだと。


 ああ、''また''生き残っちゃった。


「アリス」


 私の上で軽い気絶をしているアリスに優しく呼びかける、穴に落ちた際私がクッションがわりになったおかげで怪我は無いようだ。


「んあ……ちゅう、さ……?」


 意識が戻ってきたアリスはゆっくりと体を起こす、それに伴い体重が一点に傾いて私のお腹にのしかかる。

 ……うん、物凄く痛い。

 アリスは私の上にのしかかっている状況にようやく気づいたのか、段々と青ざめていきながら目を見開かせる。


「……ちょっとどいてくれないかな」

「ご、ごめんなさい!ごめんなさい!」


 状況を理解したアリスが頭を下げならすぐに退けてくれたが、それでも足りないのか更に謝る。


「ごめんなさい!すみません!申し訳ございません!こんな私を庇って……」


 レパートリー豊富な謝罪を繰り返すアリス、いつもの強気なアリスは何処へ。


「別にいいよ、結果両方生きてるならそれが最善だったってこと……痛っ……」


 起き上がろうと腹部に力を入れると切れ目から激痛とともに血がどっと流れ出す。尖った岩が多いせいか、裂け目がかなり深い感じがした。


「中佐、怪我をっ!も、申し訳ございません……!」

「大丈夫、大したことじゃないから」

「しかし……」


 顔を俯けたまま冷や汗を流すアリス、いくら大した事ではないとはいえ上官に庇われその上怪我まで負わせたとなれば本来失脚では済まない痛手なのだろう。でも私は寛大なので許す!

 それに今応急手当出来るようなものもないし、出血多量で死ぬこともなさそうなので布でも巻いて傷口を抑えるしかなさそうだ。


「とりあえずここを出たいから肩貸してくれる?足を挫いちゃったみたい」


 立ち上がろうとするも自分の足に力が入らないことを悟る。落下した時に体制が取れなく足から着地したんだと思う、片足を強く捻挫してしまっている。

 はぁ……お腹に足にとボロボロで身体中が痛い。


「……わかりました」


 アリスはアリスでバツが悪そうな顔をしている。そこまで卑屈になる必要もないんだけどなぁ、アリスは他と違って今まで自分自身の力で進んできたから誰かに迷惑をかける行為が少なかったのだろう。

 私は少し困ったような顔をしながらこの大穴からの脱出を試みた。


 ◇◇◇


 大失態だ、いくら付き合いが長いとはいえ、自分の指揮官に怪我を負わしてしまった。

 しかも本来護衛である私が庇われるなど護衛失格だ。


「中佐、歩けますか?」


 左肩に中佐の腕を回しゆっくりと立ち上がる。思えば帝国最強の一角と謳われた中佐が訓練以外で怪我を負ったところなんて今まで見たことがなかった。

 どんな過酷な戦場に赴いても無傷で帰還し、彼女が参戦した戦争は敵味方含めて壊滅するというありえない噂すら耳にしたことがある。

 私はずっと中佐を見てきたけど戦争に同行するのは今回が始めてだった。だから本当にその噂が真実かどうか、確かめる事ができた。


 ──結果は噂の通りだった。まさに天災、中佐に何かの呪いがかかっているのかと疑うほどの惨状が引き起こされてしまった。

 おそらく中佐は狂っている、狂っているが正気を保っている。狂気と正気が混濁して彼女の人格を作り上げているのだと思う。

 傍から見ればただの優秀な軍人と変わらない、それは彼女が正気を兼ね備えているからだ。だけど現実は違う、中佐は本来戦場に出るほどの精神は残っていないはずなのだ。

 過去に戦死した上官の軍事資料を見たときに中佐の事に関しての記述が載っていたのを覚えている。

 本来9歳を越えてから戦地に送り出されるのが帝国の習わしだけど、中佐の父親は軍人の中でもかなり偉く、4歳の頃から戦場に連れて行かれ、援護や死体漁りなどを任されていたらしい。

 そして10歳を迎える頃には重度のPTSDを発症して戦線を離れる事となった、物心着く前から死体を見ていればそうなるのは当然だ。中佐は病院生活を余儀なくされてその代わりに安全な後方での待機を命じられ、それで幕は閉じたと思っていた。

 ……だけどここからがもっとひどかった。


 ──11歳には再び戦場に送り込まれていたのだ。


「アリス?」

「は、はい?なんでしょうか?」

「なんか顔色悪いよ?」

「き、気のせいですよ」


 そんな中佐の修羅に満ちた人生を想像したらそれだけで顔色も悪くなって当然だ。それを乗り越えて今もなおこの戦場で、それも最前線で奮闘している。……本当に尊敬出来る人だと思う。


「アリスの髪……なんかいい匂いがするぅ……」

「……」


 こう言う自由気ままなところを除けば、尊敬出来るんですけどね……。


「あ、ここ上手く登れそうです」


 丁度突出した岩が多い崖を見つける、光の挿す地上へ50メートル以上はあるがなんとか登っていけそうだ。


「うーん……でも少し急斜面すぎない?ロープかなんか持ってないの?」

「ないですね、カメラしかもってません」

「逆になんでカメラ持ってるの……」

「敵国調査の為ですよ、最前線で一個大隊を受け持ってる私なら上手く撮影してくれるだろうと上官から渡されました」

「うへぇ……普通そんなことしないよ。隠密部隊ならともかく最前線の一兵士に渡すって……いやアリスならやり遂げるだろうけど」


 全くです。本当上層部の考える事には反吐が出てしまう、才能がなければ排除され、才能があればこき使う。私にとって帝国の一番嫌いな理念の一つだ。


「まぁ私に任せてください、中佐を背負っても軽く登れますよ」


 崩れなさそうな岩に手を乗せて慎重に着実に登り始める。崖を登ったのなんて人生で初めてだ。


「さすが帝国最強の兵士だね」

「中佐にだけは言われたくありません」


 中佐は私の指揮官ですが年も地位も違うため、同じ場所にいることが少なく、こうしてちゃんとした会話をするのは久しぶりだった。中佐は相変わらずで冗談とマイペースを言う素敵な人で安心した。

 そして幾人もの兵士が大穴に落ちたというのに、辺りに響き渡るのは私と中佐の二人だけの会話だった。


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