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天災軍師  作者: 依依恋恋
第Ⅰ章「現代・天災軍師編」
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第4話「未知」

 

 私達が未知を知らなくても、未知の方から来てくれる可能性はあるのではないか。

 なんて、どこかの書物で読んだ気がする。


 だってこれは、──私達にとって未知だったから。


 現在は西暦3150年、第一次世界大戦、第二次世界大戦、第三次世界大戦、そして第四次世界大戦が終わり世界が枯渇に向かう中。ついに訪れた。


 ──それは戦争でも、ましてや自然災害でもない。


 もっと大きく、巨大な《未知》の到来。


 人類が対抗しなければならない存在でありいつしか訪れる脅威。

 西暦2000年代の地球なら対抗できていたかもしれない、かの時代は平和で今より遥かに危機感がなかった。しかし反対に知恵、技術、戦力、そして何より余裕があったと、書物には載せられていた。

 第三次世界大戦は今の私達には理解出来ない情報戦だったらしい、戦争だというのに力より知恵が必要。当時脅威とすらされていなかった日本という臆病で楽観的な国が猛威を振るった記述は歴史でも有名だ、現に私達の母国語は旧日本語となっている。


 それほど激戦を繰り広げていたあの時代ならもしかしたらこの脅威に立ち向かい、拮抗出来ていたのかもしれない。

 だがこの時代、そして私達はあまりにも無様だった。


 戦争中に突如訪れた大きな揺れ、それは全世界を襲った。

 地面が脈動し、飛翔していると言っても過言ではない、あまりにも異常な出来事だった。


「なんなの、これっ!地震じゃない!」

「分かりません!中佐、ここは危険です!外へ!」


 大陸に地割れが響き、岩山が崩壊していく。

 私達が篭っていた小屋も崩壊し、間一髪で外に出るものの強すぎる振動に身動きが取れない。

 数歩遅れて出てきたアリスに崩壊した小屋の破片が迫る。


「アリス危ないっ!」


 いくらアリスでもまともに立てない状況ではまずい。

 私はバランスを崩しながらも腰に下げてたカービン銃を素早く手に取り、落ちてくる破片に向けて片手で撃ち落とした。


「助かりました中佐っ」


 アリスは笑顔で返事をするも焦りが消えない。私自身も状況を掴めずただただ焦燥に息を呑むばかりだ。


「また核兵器でも撃ったの?それとも新型?」


 この枯渇した時代に核兵器を作るだけの余力があるとは思えない、それに核兵器は世界で取り決めた最終禁止事項だ。安易に使えば全世界を敵に回す事になってしまう。

 となれば一体この揺れは何か、振動は収まるばかりか一向に強まっていく。


「中佐っ!」


 アリスが驚愕の叫びをあげながら上空を指さした。地面とは真逆の空を見上げると同様に驚愕した。

 灰色の空に赤色のヒビが入っていたのだ。見えるはずもない月は紅く染まり円型の魔法陣のようなものを描いていた。


「なに、あれ……」


 まるで幻想でも見ているかのように異変が次々起こり始める。

 空が不穏な音を奏でながらヒビを大きくし、やがて時を待つことなく。──割れた。


 何が起こっているか全く分からず、あまりの光景に私はその悲劇を眺めている事しか出来なかった。


「──っ!」

「中佐──ッ!!」


 空だったものが破片となって飛び散り降ってくる。


 どんな原理で構成された破片かも理解できなく、それが物体なのかすら怪しいまま落ちるであろう場所から必死に逃げる。


「ちょ、ちょっと冗談でしょ!?アイスクリームみたいな雲が割れた!!」

「言ってる場合ですか!!」


 破片は硝子を大きくしたようなもので地面に落ちると割れるような音が響き渡る。そしてその破片が直撃した兵士は物量に従って血と肉を散りばめてその実態を証明していく。

 どこまで逃げればいいのかも、いつまで逃げられるのかも分からない状況にただただ生存本能に従って地面を蹴る私とアリス。

 ──しかし、逃げることすらも諦める出来事が目の前で起こる。


「な、なに……!?」


 ついに地面が崩壊していたのだ。

 比喩ではない、まるで地球の中は空っぽと言わんばかりに地面が崩れ、底の見えない穴に落ちていく。

 遠目に見える敵軍ルクセンライト王国と自軍ヴァンクール帝国の兵士達が混乱し地面に落ちていき、それでも武器を取り戦争をする者、戦争を放棄して逃げる者、逃げられないと判断し祈る者とで混沌に満ちていた。

 当然私達も逃げられるはずもなく、その身を巨大な大穴へ吸い込まれるように落ちて行ったのだった。



 ◇◇◇



 荒野に足をつけて自らの勝利を噛み締めると共に己が戦果を自負する軍勢が立て続けに地上を襲う。その軍勢の奥にいる一人の男は口角を上げて傀儡の群像を見下ろしていた。

 彼の名は『グラーフ』。異世界では類稀なる剣士──魔法剣士の使い手であり、国を震撼させた一国最強の戦士だ。その男は地球と言う大地を踏みしめて胸を躍らせていた。


 ──初の試みだったが成功した。いや、大成功だった。

 我々がこの地を侵略するにあたって大事なのは奇襲の初撃だ。その初撃である大魔法『ディザスター』により齎される天変地異はこの侵略の形成を決める大切な攻撃だったが……これが思ったより損害が大きく大成功となった。


 まさか奇襲とはいえ戦いどころか抵抗すらなかったのは意外だったな。完全に一方的な蹂躙で終わった。

 こいつらが負けた理由はたったひとつだろう、簡単なことだ。彼らは魔法を使えなかった、それだけである。


 来てみれば彼らは争っていた、戦争中だったらしい、何やら見たこともない武器を使っていたがそんなことは些細な情報だ。我らの侵略を予知することは疎か予測しておくことすら怠けていた奴らに抵抗する手段があるはずもない。

 そしてこの星、地球と呼ばれる世界に来るのは当然初めてだったが噂通り人の形が我々とそっくりだ、オマケに言語まで同じとは驚きだ。流石に我々の世界と表裏一体なだけはある。


「抵抗する者は殺せ、抵抗しない者も殺せ、平民は価値がないから殺せ、地位や高貴がありそうな奴は捕虜として捕まえろ、我らの国で戦果として公開処刑させる」


 兵達は敬礼すると一斉に散らばり地球人に向かって攻撃し始めた。前衛では巧みに剣を使い、後衛からは魔法で支援をする、よくある戦術だがこれ以上はない。

 魔法の知識がない地球人達は混乱も宛らなす術なく、倒れていく。その一方的な光景はまさに快感だった。


「グラーフ隊長、目視で確認出来る範囲はほぼ掃討致しました!進軍いたしますか?」

「ふむ、ご苦労。進軍はしない、先鋒がいるからな」


 恐らく先ほどの『ディザスター』でほぼ壊滅したのだろう。圧倒的な戦力差に数十分と満たずに終わってしまった。

 ここまで手応えの一つもないと返ってつまらないものだ。

 グラーフはその呆気なさに大きく欠伸をする、地球と言う異世界に対し完全な勝利と制圧を確信していた。




 ──それが現世界、異世界含める全世界最大の失態だったとも知らずに。


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