第1話「頭のおかしい美少女軍人」
ハローみんな! 私の名前はLena・Charlotte!
誰もが認める超絶可愛い女子高生!をやるはずだった17歳おんなのこ。何故やるはずだったかって?
実は私、ヴァンクール帝国って言う国で産まれたんだけど、血縁関係だの領地問題だのがあったりしてなんか訳も分からないまま厳しく育てられて、物心ついた時には既に戦場に放り投げられて血と腐臭のトラウマを植え付けられていたんだよ。
もう酷い話だよね。思い出せば4歳くらいの時には人の死体を山ほど見てきた気がする。
十数年戦場に立った今となってはもう人間の血と肉の塊なんて見飽きたくらいだよ。最近じゃあ爆撃の中でも心地良い寝場所になってるくらいだもん。
死体は特に焼死体なんかはそこら辺にゴロゴロ転がってるのが日常茶飯事だしね、慣れちゃった。
……でもまぁ、その実こうやって余裕ぶっているけれど私もいつかはああなるんだろうなぁって……思ったり、思わなかったり。
そんなこんなでこのモテモテ確定の私の美貌は戦場と言う名の地に落とされて一生『キャッキャウフフのカワイイ女子高生』をやる権利を失ったのだ! 誠に遺憾である。
そしてそんな語りを一人で開いていると片手に持っていた無線に荒々しいノイズが走り出す。
「敵地発見!会敵に移ります!」
「障壁を砲弾の嵐で埋め尽くせ!」
前方で細かく指示をしている拠点指揮官達、安全区域であるこの場所まで爆音は鳴り響き伝わってくる。
そう!私はなんと今、敵の本拠地ルクセンライト王国を落とす為にその要であるタナトス州を中心に攻め込んでいるのだ。
つまり絶賛戦争中なのだよ!
で、実際戦争相手国であるルクセンライト王国ってどんなところかって言うとよくわかんない。
上の人達は貿易が盛んで物資貯蔵庫が沢山あるから戦争の鍵になるって言ってた。
ただヴァンクール帝国に匹敵する程のかなり巨大な国だから簡単な相手じゃないってことは理解できるね。
じゃあルクセンライト王国を支える要となるタナトス州はどんなところか、これは私でもわかる。
『死の山脈』って言われていて霧がすっごい濃くて前がほとんど見えないんだって、しかも自然発生する毒素が霧に被さって侵入出来ないようになってる。
そのタナトス州には10万人もの人が住んでいて他国との閉鎖、交渉を絶っているんだ。タナトス州の人達はその毒素に対抗する唯一の解毒薬を持っていて、その住人達も毒素に対抗する身体を鍛えているから地の利が凄くて難攻不落って言われてる。
そして物資豊富なルクセンライト王国に解毒薬を売ることでタナトス州の人達は困らず生活しているんだそうな。
ルクセンライト王国は解毒薬を他国に回してないためタナトス州は難攻不落になる。
そしてルクセンライト王国は巨大な国で真っ向からの勝負は負け戦、一気に本拠地まで攻め込むにはタナトス州を越えないと行けない、つまり完璧な防壁が出来上がるのだ。
我が国ヴァンクール帝国はルクセンライト王国と対立関係にあるため常に冷戦時代を保っていた。
だけどある時、ヴァンクール帝国の爵位の1人がルクセンライト王国の暗殺者によって毒殺されたのをきっかけに宣戦布告も最後通牒も無しに戦争が勃発した。
実はヴァンクール帝国は常時他の国とも戦争しているためルクセンライト王国に全戦力を回せる訳では無い。つまり──
……え?小難しすぎて何言ってるか分からない? 言ってる私もよくわかんない! よし解決だね。どうせ戦争なんて流れに乗ってやってればいいんだよ、理由なんてわからなくて大丈夫! 情報戦は上の人達の仕事だしね。
──と言うわけで簡単にまとめると、私は今そのルクセンライト王国及びタナトス州攻略のため、最前線での指揮を任されたのです!
だけど私に寄越された兵士が僅か20万人……。
ルクセンライト王国は推定300万人以上の兵がいると聞いている、これ負け戦じゃない?
「中佐、ウォール障壁占領しました!」
おっと、言い忘れていたけど私は見ての通り軍人、階級はなんと『中佐』!結構偉かったりする。まぁ指揮を任されるくらいだしね。
今はタナトス州に行くまでの一番の障害になるウォール障壁を抑えている、無事占領出来たみたいで何より。
それにしもウォール障壁って……なんか頭痛が痛い。私は頭を片手で抑えながら隣に置いてある無線機に視線を合わせず返答をする。
「はいよー、ウォール障壁は本拠地の直線上でこっちもがら空きだから絶対に死守しておいてね~」
それにしても本拠地までの道のりが長すぎでしょ……ルクセンライト王国にたどり着くまでにタナトス州を落とさなくちゃいけないのに、そのタナトス州に向かうためにウォール障壁を突破しないといけない。ルクセンライト王国は戦争開始前から既に敵軍を進行させておりタナトス州に至るまでのいくつかの戦地を確保していたのが活きた格好だ。
うーん、いくら考えてもやっぱりこれ絶対負け戦だよね……?
なんとかこちらの最初の奇襲で陣地の要となるウォール障壁を占領出来たけど私の兵力の2割もつぎ込んだので良い戦果とは言えない。陣形を崩さないためにもこの場所は絶対に取られる訳にはいかない。
え? もし奪取されたら? ……その時はもう、寝る。と言うか……
「あーなんか……来てない?」
私は他人事のように呟く。
遠目でうっすらとしか見えないが上空には20機ほどの航空部隊が指揮拠点であるこちらに向かって飛んできた。いやぁ……あれは味方でしょ、きっと。私たちの為に物資とか運んでき──
「230度上空で敵軍発見! 高度およそ10000、距離85000!」
「馬鹿な……あの霧の中潜り抜けてきたのか!?」
「中佐、指示を!」
あー……なんで現実逃避させてくれないのかなぁ。
「うーん……えーと、逃げる?」
流石に空からタナトス州の毒霧を抜けて来るのは私も想定しておらず逃避行動を進言してみた。
「もうこの距離では危険です!」
「じゃあもうアレ落として!」
「えぇ……!?」
私は無邪気に命令する。いやだって逃げれないなら迎え撃つしかなくない? と言うよりまだ17歳の私に判断求められても困るんですけど、誰だよ中佐。
私は渋々した表情で深い溜息をつきながら肩の力を抜き、全身で大きく息を吸いあげて兵士に向かって大声で喝を入れた。
「どうせ私達の本拠地はここ一つだ! 敵はここを通り過ぎることが出来ない! つまりは対面して戦う事が出来る、わが軍の防空技術を思い出せ! 地と空どちらが強いか愚かなルクセンライト王国の兵士共に証明してやれっ!」
「そ、そうか! 俺たちの防空の方が優れている! これは防衛出来るぞ!」
「中佐の言う通りだ、敵に目にものを見せてやれ!」
「「オオォぉーっッ!!」」
うん、いや私が言うのもなんだけど馬鹿なのこの子達。勝てるわけないよね? 空よ? 空。お空様。天から見下ろす戦闘機様相手に地面で這いつくばってる私たちが勝てるわけないじゃん。
素直に両手上げよう? ね? 誰だよこんな酷い指揮した奴。
「敵との距離45000! 第一航空軍防空部隊撃墜よーい!」
「対空部隊固まるな! 散って敵の注意を分散しろ」
わぁ……始まっちゃったよ。私死にたくないので降参しますね。
中佐専用の軍服に身を包んだレナは最前線の指揮領地で静かに両手を上げた。
そして、ちょうどその頃敵の航空部隊もレナの本拠地を目視出来る距離まで迫っていた。
◇◇◇
ルクセンライト王国兵は奇襲の第一歩として大胆にも戦闘機でタナトス州の霧を抜けるという行動を試みる。濃い霧に前が見えない状態の中、幸運にも互いの戦闘機が衝突する事もなく無事霧を抜ける事に成功していた。
「ふぅ……流石にタナトス州を抜けるのはこちらからでも難儀だったな」
「だがこの奇襲は成功した。このまま敵の最前線地を潰してヴァンクール帝国まで乗り込んでやる」
突然霧の中から戦闘機が突飛してくれば誰もが反応出来ずに眺めるしかない、事実地上で交戦しているヴァンクール帝国兵達は何が起きたのかもわからずそのまま戦闘機を見逃してしまっている。大いに成功と言える作戦だった。
そして敵陣間近まで迫る頃──
「敵地まで残り10000、敵が見えたぞ!! ……って」
遠方で一人両手をあげて降参を示している少女、見た目からして指揮官と一目でわかった。
超長距離望遠鏡で覗くと少女の戦意が完全に喪失しているのが見て取れた。
「お、おいあのガキ指揮官か? 冗談だよな?」
「そんな事より降伏してるぞ、捕虜は生かしておけって言われてなかったか?」
「アホ! こんな状況で生かしておけるわけないだろ!」
「馬鹿他の兵をみろ! こっちに先端向けて───ッぐあァァ!」
「お、おい! 応答しろ! 対空砲が───うわァぁーッ!!」
レナの謎の降伏宣言によって敵航空軍が混乱、為す術もなく数機が対空砲に撃墜されていく。
それを当の本人は知る訳もなく、周りにいた兵士は自分達の対空砲と防空技術に歓喜し、レナへの信頼度は増すばかり。
「えぇ……なんか敵軍混乱してない?」
そんなレナは自らの行いが功を奏したとも知らず疑問を抱くばかりであった。