緊急事態
「ここは……?」
冷たい地面。薄暗い空間。
俺は今、どこにいるんだ?
「うっ……」
前後の記憶がハッキリしない。
俺は一体何をしていたんだ?
「ふん。目が覚めたか。随分と長い昼寝だったな。盗っ人」
前の方から声が聴こえる。
……薄暗くてよく分からないが誰かが座っているのか?
それに目の前にある柵は……違う!柵じゃない!ここは牢屋か!?
「まぁイシュト様の雷魔法をまともに食らったんだ。死ななかっただけ大したものか」
雷魔法……?
そうだ思い出した。
俺はあの騎士にあらぬ疑いをかけられて捕らえられたんだ。
それも雷の槍とか言う魔法を使われて。
よく見たら所々火傷したような傷があるし、今になって少しずつヒリヒリとした痛みが襲ってきた。
「それにしても……お前は一体どうやってイデア様の鎧を盗み出したんだ?あれは国王様でも滅多に立ち入らない場所に厳重に保管されていたというのに」
「俺には一体何の事か分からない。俺は無実だ。こんな所に詰められる言われは無い」
着ていた鎧は全て剥ぎ取られ、ポーチや刀、金貨の入った麻袋は全て没収され、見すぼらしい布で出来た服を着せられている。
これじゃまるで奴隷だ。
「ま、そりゃ口を割るわけないよな。無実の罪を解き続ければ罪が軽くなるかも知れないんだからな。だが、今回は盗んだ物が悪過ぎたな」
「どう言う事だ?」
「イデア様の鎧は……イデア様が遺した遺物は各国の国宝として厳重に保管されているのは知っているな?理由は来たるべきイデア様の血を引く者が現れるその時の為に。それ故にイデア様の血を引く者に遺物を渡す際に偽物を渡すような事があってはならない為、遺物の模造品は愚かよく似たデザインのものですら作成する事は許されていない。だからこそ、盗んだ物が悪過ぎたと言うんだ」
「あれが偽物だという言い逃れが出来ないということか」
「そうだ。神事の際にはどの国もあれを祀る習慣があるからそれぞれの遺物がどんなものなのかはその国の住人であれば必ず知っている。どうあっても見間違えようが無いんだよ。あれがイデア様の鎧であると」
アルテュールのやつ……!
確かに俺は『その世界で最も軽く丈夫で上等な鎧』が欲しいと願ったが何もそんな面倒なものを寄越さなくてもいいだろう!
「ま。己が愚かさを悔いながら大人しく裁きを受けるんだな。お前が犯した罪じゃどんな奴でもお前を救う事なんざできやしないよ」
「だから俺は無実だ!」
「はいはい。それは俺じゃなくて神官に言ってやってくれ。無駄だと思うがな。ほら。丁度いいところに迎えが来たぞ」
「出ろ。罪人。これより貴様を裁きの場に連れ出す。貴様の罪の重さがどれ程のものか決めるんだ。大人しくついてこい」
「だから俺は!」
「言いたい事があるのなら裁きの場で発言しろ。今回は事が事だ。国王様も直々に見に来ていらっしゃる。それどころか国中の民衆も大勢集まってきている。無用なやりとりで待たす訳にはいかない。さぁ来い!」
クソ!
(おいアルテュール!どうなってるんだ!)
『私にも分かりません。あなたに渡した鎧は確かに貴重なものではありますが国宝と呼ばれるような代物ではありませんし、あなたが盗人扱いされる言われはないのです』
(だが現に俺はこうやって罪人扱いだ!)
『えぇ。私もずっと神界から見ていたから分かります。これは一体どういう事なのでしょうか……』
(心当たりは無いのか?)
『無い、ですね』
(それならあんたが神託を下したとかいう祈祷師に俺の無実を訴えてくれ!それで万事解決だろう?)
『それが……神託は本来神と人を結ぶ数少ない手段の1つ。なので神託を受け取る側の人間は酷くエネルギーを消費し、一度神託を受け取ると数ヶ月は神託を受け取れないのです。しかも神と繋がるだけの力を持つ人間はこのアリシアにも数える程しかおらず、この王都には1人しか居ないのです』
(ならどうすればいいんだ!)
『とにかく誤魔化して下さい。これが何かの間違いであると気付いてもらえるかも知れません』
(そんな無責任な!)
『えぇ分かっています。あなたには転生早々苦労をかけますが、どうか穏便に事が進むよう頑張って下さい。祈祷師がダウンしてしまっている以上私の方からそちらに干渉する事は出来ないので……』
そんな馬鹿な話があるのか!?
神が引き起こした事故の後始末を俺自身でしなくちゃいけないのか!?
「何をグズグズしている!早く来るんだ!」
『重ね重ねあなたには本当に申し訳ない。どうか良き方向に事が進むようこちらからお祈りしております』
神様直々の祈り、か。
何の役に立つんだか。
まぁでも相手も同じ人間だ。これが本当にアルテュールの言う通り、何かの間違いならまだ希望はある。
どうやら発言はさせてもらえるみたいだし、何とか諦めずにやってみよう。