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テンプレ転生

『目覚めなさい。神崎玲二かんざきれいじ



 誰かが俺の名前を呼ぶ声が聞こえる。

 長い時間眠っていたようにも思える程の倦怠感の中、目を開けるとそこには真っ白な世界が広がっていた。


 そんな世界にポツンと佇む1人の女性。

 煌びやかな法衣を身に纏い、ただ立っているだけだと言うのに不思議と神々しさを感じる。



「あんたは……誰だ?」


『私は女神。名をアルテュールと申します』


「女神?」


『はい。ただ、女神と言ってもあなたが住んでいた世界の……地球を見守る女神ではありません』



 女神、だと?確かに目の前の女性から感じるオーラと気品は女神を連想させる。

 けど、何故女神が?

 俺は夢を見ているのか?



「どう言う事だ?」


『神崎玲二。あなたは2017年8月19日の15時27分に頭上から落下して来た植木鉢が頭に直撃し、即死として地球から魂が離れてしまいました』



 は?即死?

 植木鉢が頭に直撃して?

 は!?



「ちょ、ちょっと待ってくれ!俺は死んだのか!?」


『残念ながらあなたは死んでしまいました。あなたがここに居るのが何よりの証拠です』


「ここは死後の世界なのか!?」


『そう捉えて頂いて構いません』


「そんな……」



 俺が死んだ?嘘だろ?

 高校2年生という青春真っ盛りの時期に、夏休みに入って色々と思い出を作る事が出来るこのタイミングで?

 もう誰にも会えないのか?父さんにも、母さんにも、姉さんにも、親戚や友達、まだ見ぬ未来の仲間にも!?

 嘘だ……!



『心中ご察しします。ですがもう、これは覆せぬ運命。あなたはもう地球での生を全うする事は出来ないのです』


「そんな……」


『ただ……』


「……ただ?」


『本来であればあなたは83歳で癌に罹患し、それが原因で天寿を全うする筈でした』


「なんだって?」



 どう言う事だ?

 俺はまだ死ぬ筈じゃ無かったのか?



『こんな事はあってはならない事なのですが、地球を管理する神の不手際により予定よりも早くあなたは死ぬ事になってしまったのです。あなた方人間の理解の範疇で言うと、誤って命の灯火を消してしまった……といった所でしょうか』


「な!?」



 そんなふざけた事があるのか!?

 馬鹿な!



「ならその地球の神とやらに取り計らってくれよ!神なら一度の過ちもやり直せるだろう!?俺の死を無かった事に出来る筈だ!」


『申し訳ございません。……神々の規定により如何なる理由があろうとも一度死んだ生物を蘇らせる事は禁じられているのです。例えそれが神の不手際だったとしても』


「そんな……」


『ですがその、今回は余りにもイレギュラーな件の為、特例措置が取られる事になったのです』


「特例措置?」


『はい。本来であれば一度肉体を離れた魂は輪廻の輪に回帰し次なる生を待つのですが、もしもあなたが望むのであれば、私が管轄する世界にこれまでの記憶を引き継いだままいくつかの特典を添えて転生させる事が認められました』


「異世界転生、なのか?」


『そうなります。あなた方日本人であればこの概念は比較的理解しやすいと存じております』



 異世界転生、だと!?

 そんなの、知っていて当たり前の事じゃないか!

 年頃の男なら誰でも一度は夢見る絵空事!

 しかも記憶を引き継いで特典もあるだって!?

 そんなの……まさしくラノベの出来事じゃないか!



「その話、もっと詳しく!」


『私の管轄する世界、名をアリシアと言うのですが、この世界は地球とは全く異なる文明を築いています。まず第一にこの世界には科学というものが存在しません。その代わりに古来より魔法によって文明は栄えてきました』



 おお!魔法!



『地球でいうファンタジーの世界、と言う事になります。文明も生活水準も全く地球とは違う為、その世界で生き抜くにはさぞ苦労を伴うでしょうがそれでも良いと言うのであれば、私が責任を持ってアリシアへと転生させてもらいます。もし、これを拒むのであればあなたはこのまま輪廻の輪に戻り、次なる生を待つ事になります。当然地球で培った記憶や経験は白紙になりますが。どうされますか?』



 そんなの、決まっているだろう!



「転生させてくれ!お願いだ!」


『分かりました。ではまず、転生する際の年齢を決めて下さい。選べるパターンは2種類。0歳か、18歳かのどちらかです』



 0歳と18歳?

 エラく年齢差が激しいな。



「その2つの違いは何なんだ?」


『0歳ですと、産まれる家庭の生活水準、地域、家族構成をあなたの意思で決定する事が出来ます』


「例えば?」


『貧乏な一般家庭に産まれるか、貴族の裕福な家庭に産まれるか。比較的平和な地域で産まれるか、争いの絶えない地域で産まれるか。兄や弟、姉や妹、祖父母や父母の有無など自由に決める事が出来ます。厳密には、あなたの要望にあった家庭の子供として転生させるという形です』


「成る程。なら18歳の場合は?」


『アリシアでの成人年齢が18歳なので、転生した瞬間基本的な事は何でも出来るようにはなっています。武器の扱いや魔法の扱いなど、直接この場で特典として付与する事も可能です。ただ、この場合新たな人間をそのままアリシアに誕生させる事になるので家族や友人は居ない天涯孤独の身で始まり、どのような地域に転生するかは完全にランダムになります』



 どちらの年齢で転生するのが良いとはハッキリとは決めれなさそうだな。



「他に何か無いのか?」


『そうですね……どちらも転生した時点でアリシアの言語は理解出来るようにはなりますし、容姿もある程度決める事は出来ます。強いて言うなら18年間ゆっくりと知識を蓄えながら成長するか、基本的な知識を付与したまま転生し、冒険者なり商人なり好きな役職に就いてすぐさま人生を謳歌するかの違いでしょうか』



 意識や記憶がはっきりしたまま赤ん坊から成長するのは少し厳しいものがあるような気がするな。

 となると、



「成る程。ならさっき言っていた特典とはどういったものなんだ?」


『魔法の習得属性の有無と、18歳の場合に限りますが

 身につけている装備と所持金の種類と量を予め決める事が出来ます』


「習得属性の有無?」


『はい。アリシアでは[炎][水][雷][土][光][闇]の属性の魔法があるのでどの属性の魔法を習得させておくかを決めておけます。これはどちらよ年齢でも共通です。ただ、一度習得した属性の魔法は消える事がありませんし、努力や気合いで新たな属性の魔法を習得する事は出来ません』



 それなら全属性の魔法を習得した方が良いに決まっているじゃないか!

 全属性の魔法を使えるなんて、どうせ勇者とかそういう特別な人間だけなのだろうし!



「なら、全属性の魔法を習得で」


『全属性……ですか?本当にそれでよろしいのですか?』



 当たり前だ!何を迷う事がある。



「勿論!」


『分かりました。それでは魔法の特典は全属性習得という事で話を進めます。次に転生する年齢はどう致しますか?』



 ある程度の知識が備わっているなら例え天涯孤独の身であっても18歳からスタートした方が楽に決まってる。

 装備や所持金も設定できるようだし。



「18歳からのスタートで」


『分かりました。それではまず所持金ですが、上限を金貨千枚とさせて頂きます。金貨一枚の値段が日本円にして約1万円です。そして金貨20枚あれば普通の一般家庭の4人家族が1ヶ月不自由なく過ごす事が出来ます。それを踏まえた上で所持金はどう致しますか?』



 そんなの、上限一杯以外に選択肢なんてないだろう。



「金貨千枚で」


『麻袋に入っているとは言え、結構重いですよ?持ち運びも不便で盗賊なんかに会うと間違いなく奪われてしまいますし』



 盗賊か。やっぱり居るんだな。

 でも、全属性の魔法を習得する以上特に問題は無いだろう。



「問題ありません。金貨千枚でお願いします」


『分かりました。それでは最後に装備の有無ですが、こちらはどうなさいますか?まずは武器で、アリシアで使用されている一般的な武器は[剣][槍][斧][弓][杖]の五種類になります。他にも地球独自の武器でもあなたが具体的に想像出来る範疇であれば再現は可能です』



「選んだ武器によって得意不得意は発生するのか?」


『そうですね。武器は1種類しか選べませんがその選んだ武器ならばアリシアで生活する18歳が習得すべき闘術は身につけており、若干ですがそれを上回るだけの技術は備えさせてもらいます。勿論地球独自の武器でもある程度は扱えるようにします』



 それならやっぱり……



「俺は剣を選ぶ」


『剣ですね。それですと身につける装備は鎧に限られますが、どのような鎧に致しましょうか?』



 どのような鎧?

 やっぱり上質で丈夫で軽いものか?

 いや、折角だし世界一のものを頼もう。



「その世界で最も軽く丈夫で上等な鎧であれば何でも。動きやすいものならデザインは任せるんで」


『それですと……この鎧が条件に当てはまりそうですね。分かりました。剣もその条件に沿うものでよろしいですか?』



 流石女神。

 何も言わずとも理解してくれている。



「勿論」


『では次に容姿はどう致しますか?性別は今のまま固定で男性になってしまいますが』



 容姿も好きに決めれるんなら万人受けするような美男子が良いだろう。

 醜悪な容姿で開始早々人生ハードモードは御免だからな。



「アリシアで一般的に容姿端麗といった姿にしてもらえれば大丈夫です。ただ絶世の美男子といったレベルの容姿はやめて下さい」



 別に俺はハーレムに憧れがあるわけじゃないし、あんまり目立ち過ぎて生きづらくなるのは嫌だ。折角の異世界、自由に謳歌したいからな。



『分かりました。では最後の特典ですが、あなたが思い浮かぶ好きな能力を1つだけ付与させて頂きます。私が叶えられる範囲であれば、どんなもので構いません』



 おぉ!来たよこれ!



「例えばどんな能力が実現可能なんだ?」


『過去に転生した方の例で言いますと、魔力無限化、体力無限化、不老不死、瞬間移動、時間停止、空間操作、精神操作などでしょうか』



 完全にチート能力スキルの代表格じゃないか!

 これはもうどんな能力にするか決まったようなものじゃないか?

 でも一応他にも聞いておこうか。



「逆にどんな事なら不可能なんだ?」


『言葉1つで世界を破滅させる能力や、死者蘇生の能力、他の世界に転移する能力、無から有を生み出す能力など神の領域に達する力は付与する事は出来ません』



 あくまでも人間の範疇で実現可能なものか。



『ちょっとした小話ですが、あなたが生活していた地球だけに限らず、アリシアで生活する人間は不老不死というものに憧れを抱いているようです。死なず老いず、生涯を自らの赴くままに過ごすその力。若くして亡くなってしまったあなたにとってはうってつけでは無いでしょうか?神と言えども不老不死の人間を殺す事は出来ませんから。あなたがもし不老不死を選ぶのであれば二度と今回のような事故を繰り返す事も無いでしょう』



流石に二度目は無い!

……と、言いたいところだが何があるか分かったもんじゃない。

髪と言えでも失敗をするという事が分かったし、何よりも折角の異世界なんだ。死に怯えず自由に満喫したい。

あわよくば不老不死の力を利用して勇者になってもてはやされたり……

これはもう決まりだな。



「不老不死で。また神の間違えで死んでしまうのは御免だからな。そうじゃなくても死ぬのは嫌だ」



 長く生きれば多くの別れもあるのだろうが、家族の居ない天蓋孤独の身からスタートするなら家族との別れという1番辛い悲しみを味合わなくても良い。

 それに魔法があるような世界なんだ。エルフとか長命の種族が居るかも知れないし、そういう長く付き合っていける人とだけ深く絆を結べば寂しさで死にたくなることも無いだろう。



『分かりました。不老不死の能力ですね。……それでは以上で転生の準備が整いましたのであなたをアリシアの世界へと転生させます。覚悟はよろしいですね?』


「当たり前!むしろ、ワクワクすらしているさ!」


『ふふ。それは頼もしいですね。……あ、1つ伝え忘れていましたが、特典とは別にあなたはこの死後の世界での記憶と経験を有したまま転生するので転生した後も私と神託という形で更新が可能になります。神託といっても心の中で私を呼び出してくれれば会話する事が出来るので何か分からない事が出てくれば呼んでください』



 凄いな。

 アフターケアも万全じゃないか。



『それではあなたに良き人生が訪れる事をお祈りしています』



 女神が何か呪文のようなものを呟くと、視界は暗転し、次に俺の目の前に広がった光景は場の開けた草原だった。


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