臓器林の毒リンゴ
黄金のどんぐりのホラー処女作です。
『私はもう先が長くない…と思う…。隠れなきゃいけない…。人目のつかないところに行かなきゃ…。
みんなに感謝してるよ…。
でも、探さないで。』
● ● ● ● ● ● オレンジ ● ● ● ● ● ●
この日記が、リンゴが最後に残したメッセージだった。
僕の名前はオレンジ。リンゴとは小学生からの幼馴染だ。勿論、リンゴもオレンジもあだ名。
リンゴはショートカットの良く似合う可愛い女の子で、ほっぺたがいつも赤らんでいるからリンゴと呼ばれている。
僕は小さい頃からオレンジ色の服ばかりを着ていたからオレンジだ。
僕らは小学生の生き物係で一緒になり、中学ではクラスは遠くなったけれど、高校で再会しクラスメイトになったのだ。
ところが、リンゴはある日を境に突然学校に来なくなってしまった。今までは一度もこんな事はなかったから僕はとても心配した。
周りの態度がおかしい。クラスメイト達は心配とは口に出しつつも、誰も何故りんごが失踪したかを議論しない。先生までもがこの件については日常茶飯事な事であるかのようにスルーするのだった。
もっとも、この異様な雰囲気自体はりんごの失踪だけに起因することではない。違うクラスメイトの1人であるイチゴ(お察しのように僕らはお互いをフルーツの名前で呼ぶことが流行ってるのだ)が自殺してしまったのだ。イチゴは雑木林の中で首を吊っていたそうだ。何故かイチゴの身体は傷だらけになっていたらしい。DVでも受けていたのだろうか…?
だがそれにしてもおかしいことがある。リンゴの父親の反応だ。リンゴの父親は、可愛いリンゴの肉親だとはにわかに信じ難い浮浪者のようなオヤジだ。その小汚くてヒョロ細い外見から僕らは裏ではリンゴの芯と呼んでいる。
リンゴの芯は、リンゴと2人暮らしをしており、愛娘のことを大切にしていたはずだ。けれども、リンゴを探そうとするどころか、僕らが心配で尋ねてきても僕らを避けるように接するのだった(まぁ元々寡黙ではあるが…どことなく不自然さを感じる)。
僕ら、というのは僕とリンゴの幼馴染であるパインが、リンゴの情報集めに協力してくれてるのだった。パインは髪型がいつもパイナップルのように爆発しているからそう呼ばれている。ガリ勉メガネなやつだが、情報収集といえばこいつが適任だ。こいつの分析力はいつも解決の鍵になる。
しかし、物事とは上手く進まないものである。
リンゴの仲良かった友達を中心に調査していってもなかなか相手にしてくれないのだ。
リンゴの親友の1人のメロンに話を聞こうとした。メロンは高校生とは思えない身体の発育ぶりで、制服の上からでも思わず見惚れてしまう体のラインがはっきり分かるのだった。その美貌は男子の注目の的であった。
リンゴとメロンとイチゴは3人とも馬術部で一緒だった。
メロンにとっては、親友2人の悪い知らせは想像できない程、心を締め付けているのではないかと思う。
メロンもなかなか、僕とパインの聞き込みに抵抗があるようであったが、失踪の直前までリンゴとよく恋愛の相談をしていたことまでは教えてくれた(リンゴの恋模様の中身が気になる…)。
そう、僕はずっとリンゴのことが好きだった。小さい頃からずっと一緒にいて、友達として仲良い自負はあったが、いつからか恋心に移り変わっていた。
リンゴの安否が心配で夜も眠れない。
調査を進めても進めても、有益な情報は得られなかった。
最後の頼みで、担任の先生(いつも紫色のネクタイをしたるからグレープと呼ばれてる。若くてイケメンの先生だか正直悪趣味だ…。)にも聞き込みをしたが、グレープはひどく怯えた様子でその話はダメだ、と頑なに聞き込みに応じなかった。
もう一回日記を見に行こう。僕は、パインに提案した。
パインも確かめたいことがある、と同意した。
「お邪魔しまーす…」
僕達の突然の訪問に、リンゴの芯は驚いたのか慌てふためいていた。
「お前ら帰れ…!娘はここにいない…!」
「日記だけ拝見させてください!それで帰りますから…」
リンゴの芯は慌てた様子で奥の部屋に戻ってしまった。
「リンゴの芯怪しいな…俺あいつにもう一回話聞いてくるわ…!オレンジは日記を確認しといてくれ!」
僕はリンゴの日記をもう一度確認しに向かった。
『オレンジへ
私を探してくれてありがとう…。本当に嬉しかったよ…!
でもね、私はもう手遅れなの…。今みんなに会ったら後悔しちゃうと思う…。
オレンジくんに会いたい会いたい会い会いたい会いたい会いたいいいい
辛い思いはもう私のことは忘れて…。』
日記にはリンゴの筆跡で書かれた手紙が挟まっていた。
リンゴは家に出入りしてたのか…!とりあえずは無事でよかった…!
しかし、手紙はどういう意味なのだろう…。思うに、オレンジは病気なのだろうか…。どんな重い病か分からないけど、少なくとも僕達のことを気遣って、会わないようにしてるのかもしれないな…。
会いたいけど、忘れて…か…。僕も会いたいよ…リンゴ…。
オレンジの目元から、ぽろぽろと涙が溢れた。
ゴンッ…!
鈍い金属音とともに、オレンジの頭に激痛が走った。
● ● ● ● ● ● メロン ● ● ● ● ● ●
私の名前はメロン。リンゴちゃんとイチゴちゃんとは馬術部の仲間でもあり、オレンジ君、パイン君含めてクラスメイト。
私には好きな人がいる。高校生の恋愛なんて所詮若気の至りだ、なんていう人もいる。けれど、私の恋は本気だ。
いかに本気かどうかは、この前たくさんリンゴちゃんに語ってきたの!
ところで、最近イチゴちゃんとも話してたんだけど…部活中に下着を盗まれたりして…
信じたくはないけど、この学校にストーカーがいる気がするの…
これは後から聞いた噂だけど、オレンジ君…リンゴちゃんのこと絶対好きだったと思うんだけど…しつこくアプローチしてたみたいで…
もしかしたら、オレンジ君って…いや…まさか…。
疑いたくはないけど、最近やたらリンゴちゃんの話聞き込みしてるみたいだし…
私はイチゴちゃんの訃報のショックで立ち直れないのに…
毎晩、毎晩、イチゴちゃんが夢に出てくるの。ナイフを持って私を追い掛け回している夢を…。ごめんね…イチゴちゃん。
オレンジ君は、ほんとに空気読めないし、変態そうで気持ち悪いな…。
● ● ● ● ● ● イチゴ ● ● ● ● ● ●
私の名前はイチゴ。
リンゴと、メロンとは心置きなくなんでも話せる関係だった。だった…。
この前、リンゴから聞いた話で私は衝撃を受けた。
グレープ先生と、メロンが最近付き合いはじめたらしい。リンゴは直接メロンから聞いて、びっくりしたけどお似合いだと思うし応援したいと思うって…。
確かに、メロンはモテるし実際良い子だけど、私達は秘密は無しの関係だったはずなのに…。
私は、リンゴやメロンに比べたら地味かもしれないけど、グレープ先生はそれでも私のことを愛してくれてた。私が、部活動の悩みを相談した時から先生は優しくしてくれて…。生徒と先生の恋愛はまずいとは思ってたけど、先生なら本当に信頼できるって思って1年間付き合ってきたのに…。
あり得ない…。あり得ないよ…。
私は、後日放課後にメロンを呼び出した。
「グレープ先生と付き合ってるってどういうことよ!なんで私には相談してくれなかったのよ…」
「イチゴちゃんが、先生と付き合ってたなんて知らなかったよ…まさか生徒に二股なんて…」
「先生も先生だけど、メロンもメロンよ…。モテるのは知ってたけど、よりによって先生にいくなんて…!」
「誤解よ…!先生からアタックされたんだもん…」
「そんなこと聞きたくないわ…!事前に相談してくれればよかったのに…!明日たち親友だと思ってたのに…!」
「そんなこといったらイチゴちゃんだって私達に教えてくれればよかったのに…!なんでも話せる仲じゃなかったの!?
もう何が何だかわからないよ…嘘つき…!あんたなんか消えちゃえ…!」
ガタゴトっ…!
気のせいか教室の外で物音がした気がする。
だか、そんなことは気にしてられず、とにかく泣きじゃくりながら教室から駆け抜けた。メロンの馬鹿…!先生の馬鹿…!
それから、メロンとはしばらく口を聞けなくなった。
相変わらず、部活ではストーカー被害を受けているし、踏んだり蹴ったりだ。
グレープ先生に会いたいな…。私は先生を信じているよ…。ちょっと魔が差しただけだよね…。
無意識的に、私はグレープ先生家までの帰り道を歩いていた。
感傷的な気持ちの時ほど、夕焼けの美しさが心に滲みる。
スっ…
誰かに突然後ろから布を顔に当てられた。全身の力が脱力した…。
● ● ● ● ● ● グレープ ● ● ● ● ● ●
私は某高校で教師をしている。生徒からはグレープなんてあだ名をつけられてるそうだ。
私は、もともと女性には目がないが、とりわけ現役の女子高校生は最高だ。
若さというものはお金に換価できない価値が圧倒的にある。これから発育していく果実に、期待を込めながら果肉を貪るのは最高なのだ。
教師をしているからこそ分かることであるが、生徒の悩みは実に多種多様で複雑である。複雑だからこそ、救いの手には簡単に綻び始める。
そして、救いの手にすがる者は実に盲目である。もとより、自分の悩みを直視できないが故に悩みの沼に引きずり込まれるのだから、自分の救いの手に浸透しそれを神格化してしまうのだ。
私は、常習犯だ。はじめは、教師としての熱意に溢れていた。教師が生徒の悩みを解決したいと思うのは当然のことであろう。しかし、いつからか欲に溺れてしまった。罪の意識はあった。
口から出まかせが出るようになり、純粋無垢な果実の甘みを貪る。たくさんの果実を毟りとってきてしまった自覚はあるのだ。
ある日、僕のところに一通の手紙が届いた。簡単にいえば、脅迫状であった。
「お前の悪業は全て分かっている。証拠もある。全てを曝露されたくなければ、金を払え。」
どこの誰が送ってきたか、本当に証拠が実在するのか、確証はなかった。だが、もう終わりにしたいと思った。私は、脅迫に応じた。曝露されて懲戒処分になるかどうかはともかく、自主的にこの職業をやめたいと思う。
そう決心したときに、イチゴの訃報が入った。正直心が張り裂けそうだった。あらゆる感情が沸き立ったが、恋人というよりは教師として、大切な生徒を失うことは、私のような人間でも心が痛む。
続いて、リンゴの失踪も知らされた。このリンゴという生徒、実に不思議な生徒であった。生徒たちと密接な距離いたからこそ、なおさら不思議に感じる。
まず、馬術だ。部活動にはよく来るがこの子は多分スポーツが好きではない。競争に熱くなれるタイプの生徒ではない。そんなことは女子にはよくあることだが、馬を見る目も不思議なのだ。悲愴感と高揚感が混ざっている目をしている。馬が怪我した時、誰よりも早く手当をしてあげてるのは彼女だった。心の優しさのある子なのはよく分かっていたが、なにかが腑に落ちないのだ。
次に、父親だ。リンゴの父親には、かなりお世話になった。果実たちを弄ぶ時は、リンゴの父親のホテルを使わせてもらっていた。あまりに頻度が高い時には、家の近くの雑木林ですることもあった。そんな話はともかく、この父親、何かを隠している気がする。これは直感だ。確信はない。
確信はないが…僕は早くこの職を離れるべきだと思う。生徒たちに迷惑をかけておきながら、最後に救ってあげられないのは心痛むが、リンゴの件からは早く手を引かなければ。
罪には向き合うつもりだ。逃げるわけではない。けれども…明日にでも辞表を出そう。
● ● ● ● ● ● パイン ● ● ● ● ● ●
俺の名前はパイン。パイナップル頭のパインだ。
俺は、昔からコレクションをするのが好きだった。カードゲームもハマってきたし、何かを収集するのに喜びを感じていた。
いつしか、それが捻れて、下着泥棒をするようになった。盗む時の緊迫感と、被害者の困る顏が、表現できないが俺を興奮させるのだ。
最近は、馬術部の下着、特にイチゴの所持品を漁るのが趣味だ。自慢ではないが、クラスメイトの下着はそこそこ窃取済みである。だが特にイチゴには魅力を感じる。
イチゴの魅力は語り尽くせないが、何よりメロンやリンゴのような高嶺の花ではなく、どこにでも咲いてる道端の花ではあるが、俺にとっては可憐に感じるのだ。
やがで、イチゴの所持品は何でも集めたくなってきた。というよりは、イチゴの生態が気になってきたのだ。イチゴが普段何を考えて、何が好きで、何の悩みがあるのか。イチゴのことは何でも知りたくなった。
イチゴは優しい子だから、俺みたいな陰キャラにも声をかけてくれる。でも、俺にだけは特別な笑顔をしているようにも感じる時があった。
俺のストーキングはエスカレートとしていき、イチゴの後をつけて行動を把握したくなるようになってきた。
そんなある日の放課後、俺はイチゴとメロンの会話を聞いてしまった。
「もう何が何だかわからないよ…嘘つき…!あんたなんか消えちゃえ…!」
メロンがそう言い切る時には僕は慌ててその場から逃げ出していた。事実を受け入れられなかった。
メロンとイチゴを弄んだ変態グレープにも怒りが湧いたが、誰よりもイチゴに殺意が湧いたのだ。
イチゴが俺に見せてくれた笑顔はなんだったのか。俺の気持ちに薄っすらでも気付いてくれているのだと思っていた。それを土足でぐちゃぐちゃに踏みにじられた気分だった。
後から調べていたら、リンゴの芯もグレープにホテルの部屋を貸して、今回の件を黙認していたらしい。イチゴを穢れさせた当事者全員が許せなかった。
まずは、リンゴの芯。こいつからだ。
僕は果物ナイフを持ってリンゴの家に押しかけてた。リンゴの芯を刺し殺してやろうとした。
「待ってくれ!落ち着いてくれ!グレープの件を黙認していたことは謝る…!この通りだ…!
だが君のような学生が殺人を遂げたら一生親に顔向けできないぞ…!俺に提案があるんだ…!」
リンゴの芯の提案は次の通りだった。
まず、グレープに脅迫状を送りつけて口止め料として大金を払わせる。
その大金の一部だけでもいいからリンゴの芯に分ける。そのお金はリンゴの芯が、イチゴを殺害するための道具の準備に充てる。余りは、リンゴの芯が自らの借金に充てるそうだ。
リンゴの芯は、イチゴを帰り道に襲って、クロロホルムで眠らせてあとは人目のつかないところでしっかり殺害する。
要するに、汚れ仕事はリンゴの芯が引き受けるから、命乞いをさせてくれないかとのことだった。
どさくさに紛れて、リンゴの芯が大金を手にするのは腑に落ちないが、よく考えたら僕は感情に走るばかりで、殺人を遂げる準備も勇気も不足していた。
いっそのこと計画に乗るのもありだなと思った。
俺は、グレープに脅迫状を送った。憎悪と嫉妬の念を込めて書いた。リンゴの芯に、ホテルの監視カメラの映像を提供させればグレープの人生は終わりだ。
カッコいい顔して下衆なことしやがって…。
グレープは簡単に、金を支払ってきた。よっぽど、曝露されるのが怖いんだろう。きっとこの反応からして、相当な常習犯なんだろう。イチゴやメロン以外にも沢山の被害者がいるはずだ。一生ビクビクしながら、罪を背負うがいい。
俺は、約束通り受け取った大金をリンゴの芯に渡した。証拠が残るのが怖かったから、諭吉一枚たりとも手はつけなかった。流石に、こんな大金を持ったことはなかったが、いざ目の前に大金があると禍々しく見えた。
だが、本当にリンゴの芯は計画を実行するのだろうか。考えてみれば、あんな借金まみれのカスに大金を渡したら持ち逃げされるに決まってる。まぁグレープへの復讐は済んだから、いざとなったら俺がこの手でイチゴに復讐をしてやる。
そう考えてるときに、イチゴが雑木林で自殺意 したとの噂を耳にした。当初のやり方とは違うが、リンゴの芯が手を下したのだろうか。確かめる必要があるな。
イチゴの訃報と同時に、リンゴの失踪の噂を知った。オレンジなリンゴに惚れ込んでるのは知っていたが、俺はリンゴがあまり好きではない。
以前馬術部の女子の所持品を漁ったことがあったが、リンゴの鞄の中身は独特であったことを覚えている。馬術部の仕事柄なのか、いつも本格的な医療箱を持ち歩いてるのだった。色んな女子の所持品を見てきたが、リンゴの所持品は女子というよりは獣医のそれだった。いつも日記をつけるマメな子だったようだし、俺のタイプではない。
オレンジの誘いを断りきれず、リンゴ探しを手伝うことになったが、リンゴの芯に用があるしちょうどいいと思い、リンゴ家に赴いた。
リンゴ家にいくと、リンゴの芯は俺らを避けるように接してきた。当たり前といえば当たり前だが、俺はリンゴの芯をいつ殺してもいいと思ってたくらいだから、虫の居所が悪いのだろう。オレンジが、リンゴの日記に夢中になってる隙に俺はリンゴの芯と接触した。
「おい。イチゴが自殺したって聞いたぞ。お前がやったのか?」
「当たり前だろ。ちょっと当初と計画は変わったが、しっかり処理はしておいた。残りの金は約束どおりもらうぞ。
ところで、リンゴの件なんだが…なんとかあいつを説得して手を引いてくれないか?話すと長いが、家の問題なんだ。お前のストーカー行為を全部あいつに押し付ければいい。噂を流せば自然に広がるだろう。」
俺にとってはリンゴはどうでもよかったから、了承した。自分のストーキングを擦りつけるいい機会だったし、オレンジを悪いように仕立て上げた。
しかし、オレンジは本当にリンゴが好きだったんだな。少々気の毒だから、リンゴ探しは形だけでも付き合ってやろう。
想像通り、オレンジの聞き込みはストーカーの噂をうけて難航した。オレンジがまた、リンゴの家に行きたいと言い出すから、リンゴの芯に噂を広めたことを報告しようと思い、付き合った。
「お邪魔しまーす…」
僕達の突然の訪問に、リンゴの芯は驚いたのか慌てふためいていた。
「お前ら帰れ…!娘はここにいない…!」
「日記だけ拝見させてください!それで帰りますから…」
とオレンジが言う。
リンゴの芯は慌てた様子で奥の部屋に戻ってしまった。
「リンゴの芯怪しいな…俺あいつにもう一回話聞いてくるわ…!オレンジは日記を確認しといてくれ!」
俺はそう言いリンゴの芯に接触した。
リンゴの芯はいつになく慌てていた。
「リンゴがいないんだ…大変だ…リンゴがいないんだ…」
「おいおい。お前この前は全然慌ててなかったのに今更何をそんなに慌ててるんだ。お前が言った通り、噂流しといたぞ。学校中、噂を信じてやがっ……」
ゴンッ…!
鈍い金属音とともに、リンゴの頭に激痛が走った。
● ● ● ● ● ● リンゴの芯 ● ● ● ● ● ●
俺はリンゴの父親だ。妻とはリンゴが小さい頃に離婚して、2人で暮らしている。普段は小汚い民宿(実際はほぼラブホテル)を経営しているが、ギャンブルに明け暮れた過去に背負った借金におわれて日々苦しい生活をしている。
次第に俺の民宿は社会の歪みに生きるやつらの御用達の場所となった。背中に龍が刻まれた男や、まともに会話を交わすことすらままならない薬物中毒者なんかはザラで、グレープのような真性のクズも出入りしていた。
こんな俺でも、愛娘は宝物だ。しかし、俺の愛娘は特殊な人間なんだ。初めてそれを現認してしまったのは、リンゴが中学生の時だったと思う。野良猫の死体を嬉しそうに持って帰ってきたのだ。年頃の娘の部屋を覗くつもりはなかったが、明らかに鼻をつく異臭がするのだ。
俺は自分の目を疑ったか、そこにはバラバラに解体された野良猫の死体があったのだ。俺は自分のやってることを誇れる人間ではないし、犯罪を黙認することを続けてきた。
そんな俺に、娘を問い詰めたり、叱ったりする勇気はなかった。しかし、娘は普段は変わったところは全くないのだ。こんなダメ親父にも愛想をつかず、家事をやってくれるし、まともに学校で部活動を頑張っているらしい。
娘に1つや2つ変わった趣味があっても、娘がいてくれるだけで十分な幸せを味わっていたのだ。
だからこんな俺にできることといえば、担任であるグレープに信頼してもらうことだった。グレープの野郎は、違う意味でイカれたやつだから、普段手を貸してやってる以上は俺の娘を悪く扱うことができるはずがない。
だが、ついこの間グレープのせいで、俺は殺されかけたのだ。パインだかなんだか分からないが、明らかにストーカーを繰り返してた拗らせ学生だ。だが、たかが高校生のストーカーだ、何とか言いくるめてやった。
借金地獄から抜け出せる良い機会であったし、リンゴには申し訳ないがイチゴの殺害計画を打診し、引き受けた。
クロロホルムは俺の民宿のお得意に調達させた。俺の民宿が闇取引の場になることは多いが、俺が闇取引の当事者になるのは初めてだ。
ある日の夕方、俺はイチゴを襲った。イチゴは夕焼けに見とれていたため、全く俺を認識せず気を失った。
さてどうやってイチゴを始末しよう。愛娘の友達の命を奪うのはなかなか躊躇いがあった。ひとまず、俺の部屋に隠そう。そこからだ。
俺は気絶しているイチゴを家につれこんだ。相当強く気を失っていたのだろうが、ガムテープで口を縛り、念のためバットで殴りつけたが、全く起きる気配もなかった。イチゴの額からは思ったより血が流れた。家の中で死なれるのは困るな。場所を移して、遺体はどこかの山奥に埋めよう。
俺はイチゴを運ぶ準備をはじめた。この様子ならまだまだ起きないな…タバコを一服してから取り掛かろう。
俺は、タバコを吸いに外に出た。気が高ぶったせいか、いつもより本数を吸ってしまった。
いけない。だいぶ時間をロスしてしまった。早くイチゴを運ばなければ。イチゴを置いてる部屋に戻った。
………………………!?
「お父さんが…したの…?」
リンゴが帰宅していた。リンゴはイチゴに寄り添って座っていた。リンゴだけには見せたくなかった…。親友が自宅で怪我をして倒れているなんて想像もしなかっただろう。
しかし、不自然だ…。俺が与えた外傷から流れた出血量をはるかに上回る血が飛び散っていた。
イチゴに近づいて俺は思わず膝から崩れ落ちた。イチゴの体には腹部に細かい創傷があった。近くには血だらけのハサミが落ちていた。いつも、リンゴが持ち歩いていた医療箱の中の物だろう。
「お父さん…イチゴが…どうしよう…」
「リンゴ…お父さんは許されないことをしている…けれどもこれは俺とお前で生活していくためなんだ…」
「私は何もしてないよね…?そうだよね…?そうって言って?」
「………。これは俺がやってしまったことなんだ。今日ここであったことは全部葬ろう。いいかリンゴ、お前は何もしてない何も見ていない。部屋に戻っていなさい…」
リンゴに見られてしまった。俺がさっさとイチゴを始末していれば…。しかし、リンゴよ…俺は信じたくないが…。いや、また思いに耽って時間をロスしてしまえば悪業が明るみになるリスクが…。
しかしイチゴをどうやって処理しよう。考えてみれば、イチゴは家とは違う方向に歩いていたな。きっとグレープの家にでも向かっていたのだな。本当にやつは罪な男だ。
グレープの家の近くで、自殺をしているように装えば…まずはグレープの事が調べられるだろう。
俺はグレープの家の近くまで直ぐに車で向かった。グレープの家の裏には、あまり人が立ち入らない雑木林がある。ここにしよう…。
俺はロープを使って、あたかもイチゴが自ら首を吊ったかのように偽装した。全ては生活のためだ…自分のためだ…。自分を正当化するように、心の中で自分に語り続けた。これでいいんだ…。これでいいんだ。
俺は帰宅して、怖いほどの日常が訪れた。お肉を焼いたいい匂いがする。リンゴが夕飯を先に作ってくれたのだ。
「悪いな…作ってもらって。あったかいご飯が1番だなリンゴ!」
「私料理上手くなれたかな?喜んでくれてよかった!」
愛娘との些細なやり取りでさえ、凍て付いた心を、芯から暖かくした。
しかし、リンゴの日常は壊されたようだ。みんなに会う気持ちが起きないから、学校に行きたくないと言い出してしまった。それどころか、少し自由にさせて欲しいと行き先を告げずに外出するようになった。
今まではこんなことはなかったが、俺には止める権利はなかった。
不幸中の幸いといえば、それでも家にはしっかり帰ってきてくれるのだ。
心の回復は、時間がかかってもいい。大きな幸せなんて望まないが、リンゴには明るい未来が待っていてほしい。そう願った。
学校では、イチゴの訃報の噂とリンゴの失踪が噂になっているそうだ。グレープも気が気じゃないことだろう。
ある日、オレンジとパインが我が家を訪ねてきた。
パインにはイチゴを始末したことを伝えなければ。しかし、このオレンジというやつ完全にリンゴに惚れてやがる。根掘り葉掘り聞いてこようとするではないか。
これ以上の厄介はごめんだ。俺はオレンジを避けるように接しつつ、パインと接触した。
「おい。イチゴが雑木林で自殺したって聞いたぞ。お前がやったのか?」
こいつは、本当に高圧的なやつだ。
「当たり前だろ。ちょっと当初と計画は変わったが、しっかり処理はしておいた。残りの金は約束どおりもらうぞ。
ところで、リンゴの件なんだが…なんとかあいつを説得して手を引いてくれないか?話すと長いが、家の問題なんだ。お前のストーカー行為を全部あいつに押し付ければいい。噂を流せば自然に広がるだろう。」
パインは了承してくれた。今はリンゴには時間が必要だ。そう感じていたからこそ、オレンジたちを遠退けるようにした。
それから、リンゴの外出は頻度が上がっていった。どこで何をしているんだろう。いつになったら学校に戻れるのだろう。ぶつけたい疑問はふつふつと湧いてくるが、喉の奥にしまった。
ある日のことだった。帰宅したリンゴは血だらけだった。怪我でもしたのかと思ったのは束の間、リンゴは血だらけのハサミを持っていた。
この子はどこで…何を…していたんだ?リンゴに対する親としての心配の心が、恐怖へと移り変わった。
一度生み出された毒は、更なる猛毒へと伝播する。考えるに、俺はとんでもないことをしてしまった。欲に溺れるあまり、宝物を壊してしまった。簡単な壊し方ではない。内側から毒を盛ってしまったのだろう。まだ、未来ある果実は、毒を帯びてしまったのだ。
リンゴは引きこもるようになった。時折、すすり泣く声が聞こえる。俺は見守ることしかできなかったが、そのままリンゴが部屋に篭っていてほしい気もした。部屋から出てきたリンゴを直視できる自信がなかった。
「お邪魔しまーす…」
我が家の冷たい静寂を破ったのは、オレンジたちだった。
「お前ら帰れ…!娘はここにいない…!」
「日記だけ拝見させてください!それで帰りますから…」
俺は慌ててリンゴの部屋まで向かった。今のリンゴに、こいつらを会わせるのは毒になる。何とかしなければ…。
…………!?
リンゴの部屋の扉は半開きになっていた。リンゴの姿は見えない。今朝部屋の前に置いておいたご飯は食べたようだから、今朝までそこにリンゴがいたのは間違いない。
俺が慌てているところに、パインが声をかけてきた。
「リンゴがいないんだ…大変だ…リンゴがいないんだ…」
「おいおい。お前この前は全然慌ててなかったのに今更何をそんなに慌ててるんだ。お前が言った通り、噂流しといたぞ。学校中、噂を信じてやがっ……」
オレンジが話途中で倒れた。
その背後には、リンゴの姿があった。リンゴは人差し指を立てて口にあてていた。シーっ…という意味か…?
リンゴはゆっくりとこちらに近づいてきた。俺は蛇に睨まれた蛙のように固まった。リンゴは俺の背後にまわるとゆっくりと俺の口元に何かをあてた。
全身の力が脱力した…。
● ● ● ● ● ● リンゴ ● ● ● ● ● ●
私はリンゴと呼ばれている。ショートカットが昔から好きだった。お父さんと2人で暮らしているが、決して裕福というわけではない。美容院どころか、床屋に行くのもお金がもったいないからお父さんがいつも私の髪を切ってくれていた。
私はオレンジ君たちと同じように小学校の時はいきものがかりをしていた。生き物が好きで好きでたまらなかったのだ。私はウサギやニワトリや金魚わ亀など、いろんな生き物を熱心にお世話した。
きっかけは、脱走したウサギが車に轢かれるという事件だった。私は泣きじゃくって、なかなかウサギのそばを離れなかったそうだ。あまりに私が落ち込むから、校庭にウサギのお墓を作ってあげようということになった。
私はそのウサギの死体を運ぶことを任されたが、その時にこの手でウサギの温もりともとに、ウサギの中身がぐちゃぐちゃになってるのを感じたのだ。私は急に、悲しみが興味に転じるのを感じた。このこの中はどうなっているのだろう…。
私は後日放課後にお墓に埋められたウサギを掘り返した。冷たく獣臭のするそのウサギを私はハサミで切り裂いた。自分でも理解ができなかったが、興味があったのだ。私は夢中になってその構造を観察した。
私は将来獣医さんになりたいた思った。自らの手で、たくさんの生き物の悪いところを治してあげたいと思ったのだ。
中学に入ってからも、私は理科の実験のカエルの解剖のためだけに本格的な解剖セットを買ってもらったり、解剖への興味は増していった。図書館では、図鑑を読み漁り、専門書も読む努力をした。
ある日、野良猫が車に轢かれてしまっているのを発見したことがあった。私は、これは解剖ができるチャンスだと思って、家に持ち帰ったことがあった。すると父は、驚き苦笑いをしたのだ。この時に初めて自分がしてることは変わってるという自覚を持った。少し、自分を嫌になったが、欲望は抑えられなかった。
私の家から少しいったところに雑木林がある。そこは普段人が立ち寄る場所ではないから何をしてもバレないだろう。私は、そこで野良猫の命を時折奪うようになった。
気付いてきたのは、私は生き物は好きだが、それ以上に生き物を壊すことが好きなのだ。
高校では馬術部に入った。馬術というスポーツに興味を持ったというよりは、馬という大きな動物と触れ合えることに興味をもった。馬の世話というのは、今までに経験のないくらい神経を使うものだった。
馬は、賢いからこそ、世話の愛情のかけ方が馬にも伝わるような気がした。私は、丁寧な世話を心がけたから、徐々に馬とのコミュニケーションもできるようになった。
隆々とした筋肉が非常に美しい。厩舎で私は、馬の身体を舐め回すように眺める毎日だった。私は高校生になり、自分の悪趣味の卑しさは理解できるようになったことから、雑木林に行くことはほとんどなくなったを
その代わり、馬を少しずつ傷つけることを繰り返すようになった。少し傷つけては、誰よりも早く治療にあたる。それを繰り返すことで、自分のストレスを解消していた。
高校では、オレンジ君に再会したり、メロンちゃん、イチゴちゃんと仲良くなれたことから、人並みに充実した学生生活を送ることができていた。
人並みに恋バナをして、人並みに便利をして、人並みに親孝行もしてきた。
ある日、帰宅すると、血だらけでぐったりとしたイチゴちゃんがいた。
「大丈夫??」
声をかけて反応をみたが、全くイチゴの反応はなかった。
私は事情が分からないが、イチゴは亡くなってるものと誤診した。私の中で欲望が渦巻いた。鞄には医療箱がある…。少しだけなら…。
気付けば夢中になって、イチゴを傷付けていた。もちろん、人間を傷つける経験は初めてだ。動物なんかより格段に興味深い。よく知ってる親友だからこそ、その内側に鮮血が通い、臓器の歯車が回ってる事実に興奮を覚えた。気付けばハサミはイチゴを深く切り裂き、あたりは血まみれだった。
私は興奮の中で、冷静さを取り戻し、流れ出る血を抑え拭き取り、壊した肉片を隠した。
父が、私がイチゴに寄り添うのを見かけた時には、表面的な傷がついてるだけのようにカモフラージュできていた。
「お父さん…イチゴが…どうしよう…」
「リンゴ…お父さんは許されないことをしている…けれどもこれは俺とお前で生活していくためなんだ…」
「私は何もしてないよね…?そうだよね…?そうって言って?」
「………。これは俺がやってしまったことなんだ。今日ここであったことは全部葬ろう。いいかリンゴ、お前は何もしてない何も見ていない。部屋に戻っていなさい…」
お父さんが外出していったのを確認して、私はイチゴの肉片を取り戻した。熱帯魚を鑑賞するかのごとく私はそれに見入った。狂気の中、私は冷静に夜ご飯を作らなければならないと感じた。
「悪いな…作ってもらって。あったかいご飯が1番だなリンゴ!」
「私料理上手くなれたかな?喜んでくれてよかった!」
イチゴの生姜焼き定食は好評だったようだ。
私は、自分の中の欲望を抑えていたネジが吹き飛んだのを自覚した。自己嫌悪と欲望の間に、私は人に極力会わないようにする選択をした。
『 私はもう先が長くない…と思う…。隠れなきゃいけない…。人目のつかないところに行かなきゃ…。
みんなに感謝してるよ…。
でも、探さないで。』
もし、私を探してくれる優しい人がいれば伝われと思い、日記を残した。
私は、お父さんが、イチゴをどこに隠したのかはおおかた予想がついていた。この街で、何をしてバレないのはあそこしかない。
私は、雑木林に向かった。
「イチゴ…ごめんね…」
イチゴの身体を弄んだ。グレープ先生が惚れ込むだけあって、イチゴの身体は美しい。ぐちゃぐちゃに破壊していけないの分かっていた。だからこそ、少しずつ少しずつ味わっていった。私の中の狂気は既に、立派な果実を実らせていた。
私は、雑木林に通い、自分の欲望を満たしていった。
しかし、イチゴが発見され、遺体が安置されるようになってからは、雑木林で欲望を満たすことはできなくなった。
欲望に溺れすぎるど、それを絶った時の禁断症状は恐ろしい。私の欲望の矛先は、野良猫に向けられた。
生き物には皆罪はない。けれども、私が生きるためにはこれが必要なのだ。捕食者は捕食される生き物の気持ちを考えることはできない。考えることができるのは、その頻度の調整、すなわち自らの欲望の調整である。
その欲望の調整がままならなくなった時が、捕食者の終焉だろう。考えずに補食を続ければ、必ずその種は滅びる。
私は野良猫をかつてなく激しく壊した。返り血で私の服は真っ赤に染まった。
私は、血だらけのハサミを持ちながら帰宅して絶望した。私が私じゃなくなっていく。私の欲望ではなく、私の心の奥に潜む悪魔の欲望に、私の人格が蝕まれるような気分だった。
私は、最後の理性で自分を律して、自分の部屋に引きこもることにした。平穏な日常という牢獄に自分を投げ入れた。時計の針の進む音が、心に鳴り響く。私は戻れるのだろうか?私に未来はあるのだろうか?私は何者なのだろうか?
禁錮されて数日経った時のことだ。
「お邪魔しまーす…」
オレンジ君たちが自宅を訪ねてきたのだ。
私は、オレンジ君とはずっと親友だったが、私に好意を持ってるのも知っていた。私はオレンジ君のことが嫌いじゃないし、もし告白されればずっとに一緒にいてもいいと思っていた。
こんな私のために、ずっとオレンジ君は頑張ってくれていたのだ。私は、オレンジ君の声を聞いて涙で目の前が見えなくなった。
『オレンジへ
私を探してくれてありがとう…。本当に嬉しかったよ…!
でもね、私はもう手遅れなの…。今みんなに会ったら後悔しちゃうと思う…。
オレンジくんに会いたい会いたい会い会いたい会いたい会いたいいいい
辛い思いはもう私のことは忘れて…。』
そう書き残して、私は隠れた。
オレンジ君が家に入ってきて、私の日記を見つけた。オレンジ君は涙を流している。オレンジ君が愛おしい…。
歪んだ愛は、歪んだ悪魔を呼び戻す引き金だった。私は、無意識にオレンジ君を父親の金属バットで殴っていた。
「ごめんね…ごめんね…」
私はそう呟きながらも、パイン君の頭をバットで殴った。
それを見ていたお父さんは狼狽していたが、私は人差し指を口にあてた。お父さん…こんな娘でごめんね…。
お父さんをクロロホルムで眠らせた。
私は、私の悪魔と自我をめぐって争うも、私の悪魔は3人を雑木林に連れて行っていた。
私の悪魔は、パイン君を冷静にバラバラにしていた。その手捌きは、身体に染み込まれつつあり、職人技だった。悪魔は芸術の趣味もあるのだろうか。私の悪魔は、宝石を扱うかのように丁寧に丁寧に真心をこめて、臓器を木の枝にくくりつけていた。私は、自分を消したい気持ちと表現できない興奮に苛まれていた。
● ● ● ● ● ● オレンジ ● ● ● ● ● ●
あれ、僕何してたんだっけ…。頭がズキズキする…。
心地悪い目覚めから身体を起こすと、そこは雑木林だった。目の前には、リンゴがいる。
「リンゴ…!」
リンゴは、リンゴの芯の頭部を木にくくりつけていた。
僕が起きたことに驚くとともに、リンゴは泣いていた。
「オレンジ君…私オレンジ君が好きだよ。こんな私のためにすごい時間をかけて探してくれてたよね…」
「大丈夫か…?リンゴ…これはどういうことだ…?」
「最後にありのままの私を見て欲しかったの。オレンジ君…会えてよかった…本当に本当にありがとう」
「まて、はやまるな…!リンゴ…!」
リンゴはその場でハサミを自分に刺した。ボロボロに泣きながらも、自分の身体を何度も何度も刺していた。
そのリンゴは僕が知ってるリンゴではなかった。顔つきは悪魔に取り憑かれたような悍ましいものだった。
やがて、リンゴは力尽きて意識が遠のいていっていた。
「好きってのは本当だったよ…ありがとう…」
リンゴの最期の言葉だった。その言葉を言う表情は、打って変わって、僕の好きないつものリンゴの表情に見えた。
僕は臓器林の中で、咽び泣いた。
法律の勉強の隙間を縫って書いています。
今後とも黄金のどんぐりの作品をどうぞよろしくお願いします。