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200ハート2017シリーズ

チョコに添えて……宗良side

作者: 刹那玻璃

 同級生で幼馴染み……。

 それが定位置で、当たり前だった。

 友見名ゆみなは、世話好きと言うより心配性でお節介な奴で、捨てられている子猫や子犬を拾っては、


「……うえぇぇぇん、そうちゃん。お家で飼っちゃ駄目だって……」


と顔をグシャグシャにして、泣きながらやって来た。


「じゃぁ、元のところに置いとけって‼」

「だって、だってぇ……可哀想だもん……」


 しゃくりあげる友見名に、宗良そうらはため息をつく。


 いつもそうだ。

 友見名の泣き顔には、自分は本当に弱い。


 無理矢理渋い顔を作り、


「……解ったよ。一緒に飼い主になってくれる家を探そう」

「ほ、本当?」


うるうるとした目で見つめられ、何度もうなずく。


「本当‼ほら、行くぞ‼」


 手を引っ張り連れていく。




 結局、猫は飼い主は見つかったが、子犬は見つからず、両親には怒られたものの、宗良の家で飼うことになった。

 時々、友見名はやって来て、一緒に散歩に行く。


「シロ‼」


 友見名の声が聞こえると、シロと名前をつけた子犬は尻尾を振る。


「わーい。久し振りだね。シロ。元気だった?」

「お前の方が大丈夫かよ。また学校休んで。風邪を引いたのか?」

「うん……大丈夫だよ~‼ほら、馬鹿は風邪引かないって言うでしょ?」

「おい、風邪引いてない俺に嫌みか?」


 シロのリードを引きながら、睨むとへにゃっと笑う。


「あ、違った?じゃぁ、夏風邪はなんとかが引くって……」

「それも、夏に風邪ひいた俺に……」

「アハハ‼宗ちゃんは馬鹿じゃないよう~‼ね?シロ」


 普段通り、晩秋の河川敷を歩いていく。

 宿題のことや、12月になり、冬休みになったらどうするつもりで、クリスマスに何が欲しいのだと話していると、ふと、思い出したように友見名は振り返る。


「あ、そうだ~‼あのね、この間病院に行ったら、ちょっと気になるから12月に検査しましょうって言われたんだ」

「え?検査?」

「うん。でも、多分、お母さんに言われたけど、アレルギーだと思う。だからね?入院前に遊園地に行こうかと思ってるんだ。宗ちゃんも行こうよ」

「遊園地~?」

「駄目~?」


 上目遣いで見つめる幼馴染みに、


「お、お前、わざとやってるだろ~?お前のおねだりに、毎回頷くと思うなよ‼」

「……お母さんに特別チケット買って貰ったのに……あの、有名なアトラクション優先で遊べるのに……じゃぁ、良いもん。他の子誘うから……」

「……く、くぅぅぅ……」


友見名が言っているのは、前に二人で帰り道、行きたいと話していた遊園地のニューアトラクションである。

 優先券は別途お金がかかる。

 それに、普段は2時間以上待たされると噂に聞いていて諦めていたのだ。


「……わ、解った。行く」

「やったぁぁ‼宗ちゃんありがとう‼じゃぁね、今度ね?約束だよ?」


 いつも以上に頬を赤くして、喜ぶ友見名を家に送る。


「じゃぁね?シロもまたね?宗ちゃんもありがとう‼」


 何度も振り返り手を振る友見名が家に入っていくのを見つめ、シロとゆっくり帰っていったのだった。




 当日は、友見名の両親も一緒で4人で向かう。

 が、友見名と宗良の楽しみにしていたアトラクションは、二人は必死に遠慮すると言われた。

 二人はお土産を選ぶと言い、アトラクションのあとに、待ち合わせすることにした。


「わーい‼楽しみだね~‼」


 はしゃぐ友見名に、何処と無く表情の固い二人。


「どうしたんですか?」

「あ、いいや……」


 友見名の父の友介ゆうすけは微笑む。


「友見名がいつもよりはしゃいでいるから、大丈夫かなと思ってね?」

「いつもごめんなさいね。宗良君」


 頭を下げる母の名緒子なおこに、首を振る。


「いえ、友見名と来たいねって言ってたんです。連れてきてくれてありがとうございます」

「宗ちゃん~?置いてくよ~‼」

「こらぁ‼先に行くな~‼……あ、行ってきます‼後で、待ち合わせの場所に。友見名~‼」


 友見名の背を追いかける宗良を二人は、見送ったのだった。




 幾つかのアトラクションをこなすと、宗良はベンチに座り込む。


「おい、何でジェットコースター系ばっかりなんだよ‼」

「え~?面白いもん。宗ちゃん、もしかして絶叫系は嫌いなの~?」

「……き、嫌いじゃない‼」

「ほんと~?」

「ホントだ‼じゃぁ次は⁉」


 隣に座った友見名は、笑顔からスッと表情を消す。


「う~んとねぇ?宗ちゃん。お願いがあるの」

「何だ?」

「あのねぇ?退院したら、またシロと散歩に行こうね?」

「あぁ。風邪引いたら困るから暖かくしろよ。退院したら冬だぞ」


 目を大きくした友見名は、へにゃっと笑った。


「うん。あ、そうだ。入院中に宗ちゃんのマフラー編んであげる~‼お揃い‼」

「そんなのして歩けるかよ‼」

「え~?一緒が良かったのに」


 しゅーんとしょげる幼馴染みに、


「……色違いなら、してやってもいい」

「ほんと?」

「……あぁ。短いのとか、穴が開いてたらしないぞ」

「うん‼頑張るね‼」


嬉しそうに……頬を赤くして笑った。




 遊びに行った翌日には入院した友見名の家に、シロと毎日歩いていく。

 しかし、名緒子もおらず帰っていく日が続いた。


 クリスマスにもプレゼントを用意していたが、渡すことができず、携帯を持たせてもらっていないため、自宅の電話の近くにと台所のテーブルで宿題をしていた。


 年が明けて正月も声が聞けなかった……。

 そして、新学期気分が抜け、周囲が中学校の事を話始めた2月14日、授業中に呼び出しのアナウンスが流れた。


『6年3組の田仲宗良たなかそうら君。至急職員室に来なさい』


 何だろう……。

 嫌な予感がした。

 本当に……ずんっと胸に何かが……。


 でも、周囲の視線もあり、遅くなりそうな足を動かして職員室に向かう。


「失礼します」


 扉を開けると、重苦しい空気とすすり泣く声……。


「田仲君。松浦まつうらさんのお父さんから電話が……」

「友見名……松浦さんの?」


 教頭先生に渡された受話器を耳に当てる。


「こ、こんにちは……お久しぶりです。おじさん」

『久し振りだね……宗良君。あのね……友見名が……』

「友見名、元気ですか?最近……」

『……実は、友見名は今朝……早朝、息を引き取ったんだ』

「え?」




 イキヲヒキトッタ……?

 イキ、ヲ……?

 ヒキトッタ……って……。




 言葉が頭の中で混乱し、上手くまとまらない……。

 ただ、耳に響くのは……。


『今日……帰りたがっていた家に連れて帰るから、一番会いたがっていた宗良君に会って欲しくて……』


 電話の向こうで、友介の声が湿る。


『元気になって、宗良君に会いたいって言ってたんだけどね……ごめんね……』

「……そ、そんな……事……‼何で……言って……‼」

『……友見名が、誰にも言わないでくれって……治るから、頑張るって……ごめんね……あ、はい。すぐに‼……ごめんね。友見名が戻ってきたから……』


 電話が切れた。


 動けなかった……。


 ただ、受話器を握りしめて、周囲の先生たちを見る。


「田仲君……受話器を……」


 教頭先生が受話器を受けとる。

 その時触れた手が、現実を受け止めるようにと言っているように……。


「う、嘘だ……嘘だぁぁぁ‼」


 職員室を飛び出し、上履きのまま走り出した。




 全速力で走り、友見名の家が見えたと思うと、一台の車が通った。

 乗っているのは、友介。

 その車を追いかけ、目的の家に着くと、車の後部の扉が開いていた。


 必死に近づくと、友介が振り返る。


「宗良君……」

「おじさん‼友見名は?友見名‼」


 家に運ばれていくのは……。


「友見名ーー‼」


 手を伸ばす宗良を友介は抱き締める。


「……ごめんね。友見名の体は……友見名の希望で献体されて……見せられないんだ……ごめんね」

「何で……何で‼」




 すぐに棺に納められた友見名の前で、泣き崩れているのは名緒子。


「おばさん……」

「……ごめんね。宗良君。言えずに、ごめんね」

「……おばさんも、辛かったんでしょ……」


 娘の幼馴染みの言葉に、ますます涙を溢れさせる。

 そして、思い出したように、


「……そ、宗良君……意識が混濁する前……最後に言っていたの。『宗ちゃん、ありがとう』って。『宗ちゃんに元気になったら自分で渡すから、今は渡さないで』って……で、でも……」


 友見名は……もう、渡せ……な、いから……。


震える手で、名緒子は二つの包みを差し出した。

 受け取った宗良はしばらく包みを見ていた。

 しかし、大きな袋を開けてみた。


 綺麗に畳まれた、青とピンクの二本のマフラーだった。

 青が宗良の、ピンクが友見名のらしい。


「……もう、一つは……バレンタインチョコなの。絶対にあげるんだって……そう言っていたのに……」


 泣きじゃくる名緒子は親族らしい女性に抱えられ、奥に入っていく。

 見送った宗良はマフラーを二本首に巻き、バレンタインチョコの入っていると言う袋を開ける。


 綺麗に包装されたチョコと、友見名が好きな犬の柄の封筒が入っていた。


「手紙……」


 取り出すと、表には、


『宗ちゃんへ』


と書いてあった。


 後ろはこれまたシールで貼られていて、開けると便せんを抜きとり開く。


 友見名の文字だった。

 食い入るように文字をたどり、呟く。


「『好きでした。さよなら』って何だよ‼これじゃ言い逃げじゃん‼返事も出来ないじゃないか‼それに、何で、俺に言わせてくれないんだ‼友見名‼」


 涙をボロボロ流しながら、宗良は叫ぶ。


 何度も何度も、失った存在の大きさと、伝えることが出来なかった思いを、叫び続けるしかなかったのだった。




 翌日から、宗良は青いマフラーを、ピンク色のマフラーをシロに巻いて散歩をするようになった。

 散歩のコースは一緒。

 本当は宗良は躊躇ったが、シロは道を覚えていてその道を歩く。


 途中は必ず友見名の家に……。


 暖かい時期はマフラーはしないが、毎日散歩は続いた……。




 もう、彼女はいない……。


 それでも宗良の心には生きている……。

200文字から溢れてしまう想いを書いてしまいました。


宗良の声は、『天空の城ラピュタ』のパズーの声でよろしくお願いいたします。

……え?あ、ドラゴンボールのクリリンで‼

それとも、ワンピースのルフィで‼

つまり、田中真弓さんです‼


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― 新着の感想 ―
[一言] 前の手紙から嫌な予感がしていましたが、やっぱり…。 これは反則です! まさか、バレンタインのラブレターで泣かされるとは! 今回は残された宗良視点だということで、遺された者の辛さでしたね。 …
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