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嫉みと自惚れの痴話喧嘩 -Twin Passing-  作者: ほたる
退屈な日常と怠惰な熱情
2/2

悪魔的自己紹介 〜 Hers Underplot 〜

辺りが夕闇がかり、やっと忌々しい陽の光が失われてきたころ、私は目が覚めた。

優秀な従者がアイロンがけした清潔なシーツ、私の身には大きすぎるサイズのベッド。

気持ちのいい寝起きを迎えるには十分な設備で、私は毎日の始まりを迎える。

同じことが同じように起こる、昨日と大差ない今日。

なんてことはない、いつもと同じ一日の始まり。


私の名前はレミリア・スカーレット。

この紅魔館の主であり、由緒正しき吸血鬼の家の生まれだ。

人間ではない。

万が一にもご存知でない人のために、吸血鬼についてざっと紹介しておこう。

吸血鬼とは、簡潔に言えばとてもすごいものだ、なんてふざけた文言はさて置き。

吸血鬼とは、人間を含む生物の血液を主食とする種族である。

いくつかの身体的特徴を持ち、その他を圧倒する優れた種族だ。

例えば大きな能力のひとつとして、私たち吸血鬼はその身に携えた翼を用いて自由に空を飛ぶことができる。

空を翔ければ山一つを一瞬で飛び越えることも容易い。

また、腕力のことを言えば、鬼の連中にも負けずとも劣らない力を持っている。

例え身の丈以上の大岩だろうとも難なく持ち上げることができ、非力な人間ならば赤子どころか大の大人であろうともその腕を一捻りである。

そして忘れてならない能力、それは類い稀なる再生能力がある。

ちょっとした擦り傷ならものの数秒で、万が一片腕をもがれようとも ー私がそんなヘマをするはずがないがー 、時間をかければまた同じように元に戻る。

急所を破壊されない限りそれはその身体の主人の意思とは関係なく発動する。

……噂では首ひとつになってから復活した仲間がいるらしいが、同じ吸血鬼といえどそれは流石に引くわ。


とまあ優れた身体能力を持つ私たち吸血鬼だが、それをノーリスクで行使できるかといえばそんな美味しい話はない。

残念ながら弱点とするものが存在する。

1番の有名どころといえばやはり陽の光だろう。

これを浴び続けると私たちの身体は霧のように蒸散し、終いには跡形もなく消え去る。

とはいえ、これは傘ひとつでどうにかなり、私はそこまで気にしていない。

他にもまだある、例えば流水である。

私たちの身体は流れの速い水に弱く、川を渉ることはできないし、雨も少し苦手だ。

しかしながら、空を飛ぶための翼があるし、毎日傘を持ち歩くのでこれもなんてことはない。

他にも炒った豆とか、銀で作られた弾丸とか、あとはなんかの魚の頭とか、よく分からない小さな弱点はまだまだ数え切れないほどに多い。

ただ、私はそれほど気にしていない。

多くの枷を、私はこの優れた身体でいるための投資だと割り切っている。

そもそも材料とか関係なく弾丸で貫かれれば誰でも痛いでしょ。


つまり吸血鬼は凄い、ふざけていても大真面目だ。

いくら弱点を狙われようが関係ない。

そもそも、本当の弱点は誰にも言わないものだ。

どんなに気持ちよく酔っ払おうが親友のパチュリーにすら話すことはないだろう。

知られてもいい情報などかけらも重要ではない。


さて、メタ的な自己紹介はここまでにしておくとして。

私がちょうど起き上がろうと思ったその時、扉をコンコンとふたつ叩く音が鳴った。


「お嬢様」


涼しげな声色で私を呼ぶ声が聞こえる。

私が起きたのと同時に合わせて来たのだろう。

なんとも"勘のいい"良くできたメイドだ。

彼女は十六夜咲夜、私の掛け替えのない優秀な従者だ。


「御食事の用意ができております」

「ええ、すぐ行くわ」


彼女はおそらく次の仕事に取りかかっているのだろう。

音もなく消えたが、もうすでにその気配はない。

本当によくできた子だ。

彼女の毎日の仕事ぶりに感心しているところで、私のお腹がぐぅ、とひと鳴きした。

吸血鬼も人間と同様に空腹はある。

そのスペックに大きな差はあれど、感情、思考、神の悪戯かその容姿もさほど人間とは変わらない。

血液が主食だと言ったが、古典的な首筋に犬歯を突き立てるような方法はもう随分としていない。

何百年と同じでは飽きるもので、最近は優秀なコックによってアレンジされた逸品の数々を頂くことにしている。

食事は私の数少ない娯楽のひとつだ。

その領域まで昇華させてくれた咲夜への感謝を私は忘れない。

退屈な毎日に散りばめられたスパイスのようで、私の灰色の人生を彩る欠かせないものとなっている。

変わらない毎日の少しだけ変わるもの、それすらないのならば、生まれきっての娯楽主義者の私にこの世はほとんど地獄である。

さて、お腹の虫が疼きだしたところで、そろそろ向かうとしよう。

私の弾む心を表すように、起きたばかりにも関わらず食堂へと向かうその足取りは軽かった。

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