魔法少女の独白 -unfinished prologue-
月明かりが差し込む午前二時。
この広い屋敷を動き回るにあたり、魔道書を奪われたのは大きな大きな痛手だった。
永い時をのうのうと過ごしてきたツケが回ってきた、私はそう思った。
私の荒くなった息遣いを除いては、ここはとても静かだった。
館の皆はすでに寝静まっているのだろうか。
そんな中、私だけは違った。
ぐちゃぐちゃに乱れた髪、小さな音を立てて零れていく汗、普段の私が見せることのない姿で彼女を探していた。
そうまでして駆け回るのには理由があるのだ。
これはただの二人だけの喧嘩だ、だから無関係な者を巻き込むわけにはいかない。
この紅魔館ではよくある日常だ、だからこそその日常の範疇から超えちゃいけない。
今まで私を支えてきたはずの両肢はすでに根を上げ、止まることのない震えを堪えられていない。
衰萎しきった腹部の筋肉が自らの危機を痛みへと変え必死に訴えかけている。
だが、その危機を管理者たる私にはどうすることもできない。
喉の奥の水分は枯れきったか不快な嘔吐感に変わった。
でも、それでも、止めなくてはいけなかった。
たわいもない喧嘩で終わらせられなかったら、大事なものが壊れてしまう、そんな気がした。