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みむらと俺とコスプレ集団。

長い長い梅雨が終わり、さあ出番だとばかりに太陽が存在を主張する8月。

俺、馬屋蒼太郎は真昼間なのにも関わらずぶらぶらと近所を徘徊していた。


丁度夏休みというのもあるが、元々今日入っていたはずのバイトが、休みになってしまったのだ。

バイト先の個人商店の店長が、ぎっくり腰で一旦店を休むとメールしてきたのが朝の七時。

今日は12時から入る予定だったので、それまで課題でもして暇を潰せばいいか、と軽く考えていたのが悪かった。

予想より早く終わってしまい、次をやる気にもなれず昼からの予定も潰れ。

ボロアパートの畳に大の字で寝っ転がっていたのだが、いくら夏休みとはいえこれはいかん、と取り敢えず外にでるか、と玄関に目を向けた。

そう、向けてしまったのだ。

そして、そこにいたのは「ひま?ひまなの?そといく?さんぽ!さんぽしよーよごしゅじん!」とでも言ってそうな、リードを咥えてつぶらな瞳をきらっきらさせる愛犬。


…長い付き合いだがあの目を見ないふりできた事は一度も無い。

そんなわけでクソ暑い炎天下の中、180後半の野郎と立ったら1メートルはありそうなもっさもさの黒い犬、という地獄のような組み合わせで青春時代の貴重な時間を無駄にしているのだった。


「あー、あっちぃ。なー、もう帰らねぇ?」

「…(ふぁさっ)」

「あっつ!わかったから!帰らないから離れろ!」

こいつ絶対確信犯だ。

ぴったり体をくっつけてから尻尾巻きつけるとか何処で覚えてきたそんなもん。

正直こいつさえ居れば北極でも凍死しないで済むんじゃないかとたまに思う。

「みむらー、コンビニ寄っていいかー?」

因みに名前はみむら(メス)。命名は弟。

寄り道ならいいらしく、黒い尻尾を振りながらよく行くコンビニの方向に引っ張られる。

みむらは入れないのに俺だけ涼んでいいのか、というのは置いといて何か足りないものはあったかな、と冷蔵庫の中身を頭に浮かべる。



…俺はみむらに引っ張られるままに、ぼーっと歩いていたから気づけなかった。

俺とみむらが歩いている道路に浮かび上がる、血のような色の魔法陣に。


「…っ!?……みむらっ!」

ドクン、と脈打つように震えたその魔法陣に穴が開き、突然の浮遊感に驚いて咄嗟にみむらを抱え込んだ。


「うわあああああっ!?」

そのまま青空がどんどん小さくなり、完全な暗闇に包まれて、俺は意識を失った。




◇ ◇ ◇



…おお、……だ。

勇者…が……でに…た。

…これで我々は救われる。


「…!!」

ざわざわとした雰囲気に、意識が引き戻されるのを感じた。

やばい、ここはどこだ?まさかまた終点まで寝過ごしたのか…?

みむら、お腹空かせてなきゃいいけど…と、まだぼんやりする頭で考えて、俺はやっと違和感に気づく。


…なんで俺は寝転がっているんだ?

いや、そこまでだったらやらかした、で済むのだ。

しかし腕にもっさりした感触がある。

実に覚えがある感触だ。

不審に思って重い瞼をこじ開ける。


魔法陣。


いや、ふざけてるわけじゃない。

体勢がうつ伏せなんだ。

で、床に光る魔法陣がある。

…カルト集団にでも誘拐されたのだろうか。


というかいやに体が重い。

三日寝て過ごした後のような状態だ。


取り敢えず、やっとはっきりしてきた頭で最後の記憶を探る。

えーっと、みむらと散歩してコンビニ行こうとして魔法陣に…魔法陣?に落ちて…?

どういう事だ?

…とうとう頭やられたか?

魔法陣なんて現代において存在するわけが、いやでも実際それ以外に思い当たる節はないし。

「…様、」

そもそも魔法とか実在しないと思ってたんだが…

どちらかと言うとお化け屋敷等では、ビビってる奴を全力でからかいに行くポジションだった。

「…者様、」

いやちょっと待て、みむらは無事なのか?

最後の記憶では咄嗟に抱え込んだような気がするが…

「勇者様!」

「…うるせぇ!」

ごちゃごちゃとなんなんだよさっきから!



◇ ◇ ◇



…しまった、ついやってしまった。

いや、だって現実逃避ぐらいゆっくりさせてくれてもいいじゃん?

ただでさえ魔法陣だし勇者様!とか言ってくるしていうか目の前で口開けてアホ面晒してるおっさん王様みたいな格好してるしでワースゴイデスネーナンノコスプレデスカーオマエガシテモジュヨウカイムナンデスケドネーフザケンジャネーヨっていう精神壊滅状態なのにどうして揺すられながら至近距離で勇者様!とか言われなきゃならん。

俺は悪くない。たぶん。


うわ、さっきから揺さぶってきてたウザい奴も司祭っぽいコスプレしてる。

無いわー。

これが女の子だったら別にいいけど、野郎のなんざ見て何の得があるんだか。


「ゆ…勇者様…」

…なんか司祭っぽい奴震えてるし。

そんなに大きい声出したつもりはなかったんだが…


「も、申し訳ございません、勇者ミムラ様!その者には後程罰を与えますので、どうかお許しください!」


やばいなーこれ完全空気悪くしちゃったなーと遠い目をしていると、さっきの王様っぽい人がいつのまにやら土下座で震えていた。

…って、勇者ミムラ?ミムラって、みむらのことだよ…な?


「…んー。ごしゅじん、ごはん」

「あー、わかったから静かにしてなさい。」

「…ん。」


ったく、みむらはすぐこれだ。

もう少し我慢というものを

…ん!?


「ごしゅじんどうしたの?」

ぎぎぎ、と音がしそうな動作で見下ろすと、寝ぼけまなこの少女が目を擦りながら俺を見上げていた。

ふわふわと波打った黒の髪に金色の目。

あどけなさが残る小さな顔に、バランスよくパーツが配置されている。

桃色の唇に、小さめの鼻、眠たげに伏せられた大きな目。

無表情だと、まるで人形のようだ。


そして、一番の特徴は、側頭部から生えた髪と同じ色の耳と尻尾。

さらに極め付きで「ごしゅじん」呼び。


「お前…まさかみむらか…?」



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