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Pandora(改稿版)  作者: あすか@お休み中
第2章:反逆の少女たち
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勢ぞろい

 緑広がる地方都市、政府側に捕らえられた杉本に心を寄せる柿崎連隊長が率いる小さな軍の駐屯地の庁隊舎の一室のドアを聡史がノックした。


「中島です。ちょっと遅れました」


 そう言って、ドアを開いた。

 部屋の中は、ここの軍人と思われる人たちと共に、桐谷と柏木、そして小鳥遊未来が着席していた。その表情は厳しく、杉本に続き、野田と岡田兄が捕らえられた事への対応を話していたらしい事を聡史はすぐに感じ取った。


「その子をどうして連れて来たの?」


 聡史に向けられた桐谷の視線は厳しい。あまり超人たちの事に関わらせたくない岡田妹を、この場に連れて来た事を不快に思っているらしいと、聡志は感じ取った。


「あー。話をすると長くなるんだが、」

「貴明くんを助けるために来ました」


 聡史の言葉を遮るように言った岡田妹の言葉に、桐谷と柏木の表情が変わった。


「どう言う事?」


 怪訝な表情で、桐谷が突き刺すような視線を向けたのは、岡田妹にではなく、聡志に向けてだった。岡田兄が拘束されたと言う情報は、桐谷の下に届けられてはいたが、岡田妹には伝わらないように配慮していた。それを聡史が漏らしたのかと言う叱責の意味を込めていた。


「言っておくが、俺じゃない。

 テレビで流れている」

「杉本さんはともかく、彼の事なんかテレビで名前を出す必要なんて、無いじゃない」

「本当ですっ!」


 テレビで貴明の名など出る訳がなく、聡志の言っている事は嘘だと言わんばかりの桐谷に、岡田妹が言った。


「ここのモニター、テレビ映らないんですかっ?」


 椅子から立ち上がり、叫び気味に言ったのは柏木だった。


「残念だが、映らない」

「中島君、テレビではなんと?」


 テレビが映らないと言う軍人の言葉に、一瞬がっかりした表情で椅子に腰を下ろした柏木だったが、すぐに聡史に視線を向けてたずねた。


「杉本さんと同じ容疑で捕らえたとだけ」

「死刑の可能性だってあるんですよね?

 真を助けたいんです!」


 力を込めていたためか、兄ではなく、真と呼んだ。


「真って……」


 柏木がぽそりと言った事に気づいた桐谷が、周りを見渡し、小首を傾げている者たちが他にもいる事を確認し、言葉を付け足した。


「ごめんないさい。

 真と言うのは、この子の兄、岡田貴明の本名なの。

 ちょっと都合があって、本名を隠しているの」


 桐谷たちはともかく、軍側の人たちとしては、決して見過ごしていい話題ではなかったが、今ここで、それを取り上げる理由は無いと考えたのか、その事には何も触れなかった。


「貴明君、いいえ真君を助けたいと言う気持ちは分かるんだけど、あなたは巻き込めない」

 桐谷がきっぱりと言った。


 超人たちよりはるかに強い。柏木でさえ、それを認めている彼女を戦力としないとはどう言う事なのか?

 怪訝な表情の聡史の前に進み出た岡田妹が、桐谷に反論した。


「もう私は大切な人を失いたくないんです」


 どう言う意味だ?

 過去に大切な人を失った事があるのか?

 そんな視線を聡史が岡田妹に向けた。


「あの子がどれだけあなたの事を思っていたと思っているの。

 あなたが超人たちと戦えば、今までの彼の苦労は全て無駄になっちゃうのよ」

「でも」


 どうすべきか悩んでいるのか、岡田妹の言葉が止まった。

 ほんの少し前に立っている柏木の表情が、悲しげな事に聡史が気付いた。

 失恋。

 そう感じたに違いない。

 が、本当に真と目の前の岡田理保の二人が恋人同士と言うのは、聡史としては信じきれないでいた。

 あの廃工場で理保が真に発した言葉は、柏木が貴明に好意を抱いている事を感じてのような気がする。

 仮にも二人が恋人同士なら、あんな言葉は出ないはずだ。

 柏木のやる気を出すためにも、はっきりさせたい。


「あー、あのう」


 が、これはばくちだ。悪い方に転ぶかもしれない。

 そう言う思いが、聡史の言葉をそこで止まらせた。


「なに?」


 桐谷がそう言って、聡史を見つめた。

 岡田妹も聡史が何を言おうとしているのか、じっと見つめている。


「あ、あ、愛する人は自分の手で助けたい。

 そう言うもんじゃないですかねぇ」


 混乱している聡史の思考回路は、かえって柏木を刺激しそうな言葉を吐き出させてしまった。


「は、ははは」


 聡史が頭をぽりぽりとかいて、照れた表情で取り繕ったが、振り返った柏木の表情はさっき以上に落ち込んでいそうだった。

 他の者達からは、「こいつ、こんな時に何を訳の分からない事を言ってるんだ?」的な厳しい視線が聡史に向けられている。


「そんな事言うくらいだから、本当の兄妹じゃないって知ってるんでしょうけど、私たち二人は別にそう言う関係じゃないから」


 どうしようかと思っている聡史の耳に、岡田妹の言葉が届いた。

 視線を向けた岡田妹の表情に照れは見えない。

 と言う事は、この言葉は真実に違いない。

 二人の関係はよく分からないが、予想通り恋人同士ではない。

 そう確信した聡史が、「聞いていたか? 柏木!」的な視線を柏木に向けた。

 岡田妹を見つめる柏木の目は大きく見開いていて、嬉しそうな表情を浮かべた。

「やったぜ」心の中で、聡史はガッツポーズを決めた。

 もっとも、二人が恋人同士でないからと言って、真が理保に惚れていないと言う事にはならない。と言うより、真は理保に惚れている。

 その可能性は高いと聡史は踏んではいたが。

 緩んだ聡史の表情と、柏木の表情に視線を行ったり来たりさせていた桐谷が、ぽそりと言った。


「そう言うこと」

「とにかく、連れてきてしまったものはしかたがないわね。

 君たちも空いている席に座って」


 今度は大きな声で、桐谷が言った。

 その言葉に応えて、聡史と理保が並んで席についた。


 真がいないだけで、反政府側の主だった人物が勢ぞろいした。


「今までの話はね、杉本さんや野田さんたちが連行された場所の特定と、新たに現れた政府側の超人について、君のお姉さんに聞いていたところなの」


 そう言って、桐谷は聡史たちが現れるまでの話をかいつまんで話した。


 それによると、杉本達が連れて行かれたであろう場所は現段階では不明。

 杉本に賛同する軍の一部に、その場所をつきとめるために動いてもらう事になったらしい。

 政府側に男の超人の存在が確認でき、未来は桐谷が元々言っていたとおり、この技術は男も女も関係なく適用できると明言し、その事は最初から分かっていたとまで言った。

 だと言うのに、女性にしか適用できないと言いだしたのは、所長の大橋だと言う事だったが、その理由は聞かされていないとの事だった。

 そして、「希望」の再確立に向けて、運動能力を数倍に引き上げる遺伝子の開発も終えていると言う未来の言葉に、この場にいる全員が凍りついたと言う事だった。


「と言う事で、杉本さんたちを救い出そうとすると、男の超人だけでなく、さらに強力な超人たちを敵に回さなければならないのよ」


 桐谷はそう言って、これまでの話を締めくくった。


「杉本さんたちが捕らわれている場所が分かったとしても、なかなか奪還するのは容易ではなさそうだ」


 柿崎が渋い表情で言った。


「だったら、なおさら」


 聡史の横で、理保が言った。


「ねぇ、教えてくれない」


 理保の言葉を遮ったのは桐谷だった。


「あなたは超人たちよりはるかに強いって聞いてるのよ」


 桐谷の言葉に、一番驚いた表情をしたのは未来だった。


「えっ? 超人たちより強い?

 そんな女の子が何人もいるの?

 じゃなくて、この子が早川結希?」


 未来はきょろきょろと視線を行ったり来たりさせながら、答えてくれる人を探そうとしていたが、誰も反応をしないので、独り言になってしまっていた。

 桐谷も未来の言葉など無かったかのように、話を続けた。


「でも、あの子はあなたが超人たちと戦う事を避けたがっているの。

 ううん、正確には恐れている風なんだけど、その理由を教えてくれない?」

「それは」


 理保がそこまで言った時、柏木のスマホが鳴った。


「野田さんから」


 この場のみんなに出ていいか? 確認しているかのような戸惑いの表情で、柏木が言った。

 桐谷が頷くと、柏木が電話に出た。


「はい」

「野田さん?」


 野田のスマホを使って、彼女たちを拉致した者達からの電話だと誰もが思っていたが、柏木の反応を見ると、本人らしいかった。


「えっ? 大橋所長と一緒なの?

 うん、うん、うん。

 今の場所?」


 柏木はそう言うと、辺りを見渡した。

 言っていいのか? そう言う意図と受け取った桐谷が頷いて見せた。

 どうせ言わなくても、今使っている柏木のスマホである程度の位置は特定できる。

 となれば、この駐屯地にいるであろう事は誰でも推測がつく。

 桐谷もそう思っての事のはず。そう聡史は理解した。


「大津山駐屯地。

 うん、うん。

 じゃあ、待ってる」


 そう言って、柏木が電話を切ると、一斉に質問が柏木に向けられた。


「野田、本人からなの?」

「ここに来ると言うのか?」

「どう言う状況なんだ?」


 知りたい事があるのは分かるが、これでは誰が何を言っているのかさえ分からない。


「一つずつ行きましょう」


 桐谷の声が響くと、部屋の中に静けさが訪れた。


「電話の相手は?」


 静まった事を確認すると、桐谷が柏木にたずねた。


「野田さん、本人です」


 桐谷の最初の質問への答えは、それだけで十分だったが、次々に浴びせられる質問に一つ一つ答えるのを嫌ったのか、柏木は言葉を続けた。


「捕えられた後、偶然出くわした大橋所長が彼女を助けて、今は街の中にいるらしいです」

「真は?」


 柏木の言葉が途切れた瞬間に、理保が言葉を挟んできた。

 柏木はその問いに言葉では返さず、残念そうな表情で首を横に振る仕草で返した。


「その大橋所長と言うのは、信用できるのかね?」

「小鳥遊さんのお話では、この技術が男の人には適用できないと言う話にしたのは大橋所長だって話ですけど、それはきっと所長も誰かに言われてそう言う事にしなければならなかったんだと思います。

 私としては、組織はともかく、所長は自身は信用できると思います」


 柏木は、最後の部分は特に力を込めて言った。


「岡田先輩に言われただろ。人を疑う事も必要な事だって」


 聡史の言葉に、柏木が聡史を見た。


「でも、信じる事も大切です」


 聡史を柏木が睨み付けて言った。


「まあ、待て。その大橋所長はいずれここにやって来るのだろう?

 来て、会ってからでもいいだろう」


 柿崎が言った。


「来るのを待つのですか?」


 桐谷が困惑気味の表情で言った。きっと、迎え撃つ準備をしていなくていいのか? そう思っているに違いないと、聡史は思った。


「もちろん、それなりの準備はしておくが、来ていきなり敵対するような事は無いはずだ。

 そう言うつもりなら、そもそもここに来ると宣言などせずに、不意打ちしてくるだろうからね」


 桐谷の懸念を感じた柿崎が、桐谷に諭すように言った。


「なるほどね」

「とにかくだ。大橋が来れば、他の二人が捕えられている場所も分かるかも知れない。それに、政府側の戦力も明確になるだろう。

 今後の作戦は、大橋からの情報を得てから、考えようじゃないか。

 ただし、警戒は怠るな」


 柿崎の言葉で、話し合いは一旦お開きになった。

 大橋が野田を連れて来るまでの時間は、約二時間と見積もられていた。

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