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Pandora(改稿版)  作者: あすか@お休み中
第2章:反逆の少女たち
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原田が背負うもの

 西和台高校の授業が再開されたのは、次の週の月曜だった。


 朝の陽ざしの中、聡史が自分の席で、じっと何人かのクラスメートの登校を待っていた。

 待っている相手の一人は当然、柏木。

 姉に関して、何か情報を持ってきているはずであって、柏木の登校を待ち切れないでいた。


 もう一人は原田。

 自分が超人だと分かったとたん、険悪な雰囲気となった。

 原田にも聞きたい事がまだあった。そのためにも、仲を戻す必要がある。


 最後の一人は岡田妹。

 これはほとんど興味本位。

 立ち直って、登校してくるのか? それだけである。


 三人の内、最初に登校してきたのは岡田妹だった。

 ストレートのロングヘア。黒縁メガネに、ギブス。

 いつもどおりの姿だったが、聡史は岡田妹の表情の変化に気付いていた。

 今までのよく言えば儚げな、はっきり言えば生気がなく、どこを見ているのかも分からなかった表情が、きりりと引き締まっていて、言い方を変えれば、普通の女生徒になっていた。

 あの時、何かが起きた。

 覚醒みたいなもの?

 聡史が岡田妹の変化に理由を見つけようとしていた時、原田が現れた。


 鞄を持って、にこやかにクラスメートたちに挨拶をしながら、自分の席に向かってきた。

 聡史はいつ目が合っても挨拶できるよう、近づいてくる原田を目で追う。

 隣の席から向けている聡志の視線は、無視する気が無ければ、当然いつか目が合って、挨拶を交わしあうはずだと言うのに、原田の視線は聡史には向かわなかった。

 無視かよ。

 その思いは、口には出さず、心の中だけに閉じ込めた。


「おはよう」


 原田が目の前まで近づいて来た時に、聡史から声をかけた。

 聡史の声は聞こえているはずだと言うのに、原田は顔を向けもせず、無視してそのまま自分の席についた。


「話があるんだが」


 周りに聞かれたくない。そんな気持ちから、小さめの声で言ったが、隣の机と言う至近距離なのだから、聞こえない訳もないのに、今度も原田は聡史の言葉に何の反応も示さなかった。


「梶原と関係あるんだろ?

 柏木たちにちくっちゃってもいいのか?」


 無視する原田に対し、聡志としては気はすすまなかったが、脅しの言葉を向けてみた。

 さすがに無視する訳には行かないと判断したのか、原田が睨み付けるような視線を聡史に向けた。


「何?

 挨拶、返せばいいの?

 おはよう」


 仲がこじれているところに、脅しっぽい言葉を口にしただけに、原田の口調には怒気が含まれていた。


「一時限目が終わったら、美術室に来てくれ」


 それだけ言うと、聡史は原田に向けていた体を真正面に向けなおした。

 そして、一番心待ちにしていた柏木はその朝、姿を現さなかった。


 一時限目と二時限目の休憩はわずか10分。

 聡史は授業が終わると、柳たちに付け入る隙も与えず、教室を出て校舎の一階の片隅にある美術室に向かった。原田がやって来たのは聡史に遅れる事1分ほどしてからだった。


「来たわよ」


 原田の表情は険しい。超人と知って聡史を嫌った時よりも、嫌っている感じなのは、梶原との事で脅したからに違いない。


「話は二つ。

 まず一つ目。梶原と関係あるよな?」

「そんな訳ないでしょ」

「誰かが裏切ったとか、梶原に嘘つきとか言った言葉を総合して判断すると、そうなるんだな。

 それに、柏木が持っていた原田が倒れた超人の前に立っていた画像。

 あの時、かばいはしたけど、梶原と同じ武器で超人を倒したんだろ?」

「もし、中島君の言うとおりだったとして、何が目的なの?」

「手短に言う。

 俺はテロリスト側の超人たちに、襲われて重傷を負った。

 その時、超人たちを倒してくれた人物を探している」

「超人たちを倒した?」


 原田の目が大きく見開いた。

 誰? どの事件の話?

 記憶をまさぐっている表情で、原田が黙り込んでいる。


「その人物はこの学校の男子生徒」

「それはない」


 原田はきっぱりと言い切ってしまった。


「なぜ?」

「中島君は政府側でもない。

 テロリスト側でもない。

 それに、もう私の事を疑っているようだから、言っちゃうけど。

 ここに入っている組織の者に、男子生徒はいない」

「岡田先輩。

 俺はそう信じている。

 仲間なんじゃないのか?」

「あの人たちの事は最近まで知らなかった。仲間じゃない。

 でも、手出しはするなと言われている。

 それだけよ」

「じゃあ、そうだとして、君たちの組織は超人全てと敵対している訳だ」

「だったら、どうだって言うのよ。

 超人なんて、この世に存在していてはいけないのよ」

「それは俺も同意する」

「自分が超人のくせに?」

「言っただろ。超人に襲われたって。

 それで大怪我をした俺の体を元に戻すために、超人の技術が使われたんだ」


 原田の表情に動揺が浮かんだのを聡史は感じたが、そのまま話を続けた。


「なりたくてなった訳じゃない。

 超人ってだけで、一括りにすんな。

 人間だって、同じだ。いい奴もいれば悪い奴もいる」


 原田は何も答えない。


「一つ目の質問に関する答えは、Yesだと言うことでいいな」


 聡史の言葉に何の反応も返さないまま、原田が別の話を始めた。


「ねぇ。どうやったら、超人の技術を使って、元の体に戻せるの?」


 原田からの予想外の言葉に、聡史の目が点になった。


「初期型の政府側の超人たちが、テロリスト側の超人たちと激突した戦いに巻き込まれて、私は兄を失い、父親は大けがをして入院しているの。

 元に戻らない。ずっと寝たきり」


 原田の表情はさっきまでの不機嫌さから一転して、悲しげな表情を宿している。


「だから、超人が嫌いなのか」

「そうよ。政府側だろうが、テロリスト側だろうが超人は大っ嫌い。

 任務と思って、クラスメートの超人たちとはにこやかに接してはいるけど、超人ってだけで憎しみが湧いてくる」

「そんな事より、さっきの話、超人の技術を使えば、重傷を負ったとしても治せるって事なんでしょ?」

「超人の治癒、再生力を使えば、たぶん治るだろうな。

 そして、柏木が言ってたよ。

 テロリストたちがいなくなれば、超人なんて存在しない方がいい。

 超人は元の人間に戻せるってね」

「じゃあ。私のお父さんを超人にして、怪我を治した後で、元に戻せるって事?」

「可能性は否定しない」

「お願い。協力して」


 原田の表情がまた変わった。哀願。そんな表情で、聡史に頭を下げている。


「それには、まず俺の姉貴を救い出す必要がある。

 それが、そもそもの俺の目的だ。

 だが、姉貴を助けようとすると、超人たちと衝突する可能性がある。

 超人たちに勝つ力。それを持つ人たちに協力してもらうために、あの日、超人たちを倒した者たちを探しているんだ。

 それが岡田兄かどうか、君たちの仲間かどうかなんてのは二の次だ。

 君たちの組織も、その力を持っているんだろ?

 協力してくれるか? 組織として」

「組織として……」

「当たり前だろ。

 こう言ってはなんだが、原田一人で何ができる?

 超人の力を持っている俺でさえ、一人きりでは何もできないんだ」


 原田が顔を強ばらせているのは、組織を動かせる位置にない。そう言う事だろう。


「柏木も、協力してくれるかも知れない。

 そうなったら、原田たちの組織の上の人を紹介してくれないか。

 直接、俺が話しをする」

「分かったわ」


 そう言っても、自信がないのか、原田の表情に余裕はない。


「大丈夫だよ」


 原田の代わりに、聡史がそう言って、ばんばんと原田の背中を叩いた。


「勝手に触らないでよ」


 原田が真っ赤な顔で怒って言った。

 なんでだぁ。

 いつも自分は俺たちにするくせに。

 そう思いつつも口に出せず、笑ってごまかそうとする聡史だった。

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