男の超人の存在理由
桐谷が机にむかい、目の前の書類に目を通していた。その部屋の中に他に人はおらず、桐谷が時折書類をめくる音だけが、静寂を乱していた。音から音までの間隔は等間隔ではないが、続いて起こる事はなかった。
桐谷が書類をめくった。
次の音まで、しばらくの間がある。
そこに、別の音が割って入った。
それはせわしなく刻まれるドアのノック音だった。
ゆっくりとした間隔でないところが、急用である事を物語っている。
桐谷が書類から目を上げて、ドアに視線を移した。
「どうぞ」
「失礼します」
一人の男が、ドアを開けると、早足で桐谷の前までやってきた。
「大変な事が起きました」
「何があったの?」
「梶原が政府の治安維持特殊部隊の超人を人前で襲い、自害しました」
そう前置きした男が、聡史たちの高校で起きた事件の詳細を報告した。
「危ないと思ってたんだけど、暴走してしまったのね。
圧倒的な力を行使した人たちの一部は心を病んじゃうみたいなのよね。
梶原の場合、襲った相手、白木たちは仮にも自分の生徒だった訳だから、心の傷は大きかったはずだわ」
「でも、原田たちからの話では、自分の力に溺れた狂気に包まれていたようですが」
「きっと、自分の心の重荷を軽くするため、梶原は弱者が強者を倒すと言う事に正義を求めたんだわ。
その結果、その考えに全てを支配されるまでに、心が病んだって事なんだと思うわ」
「そんなものでしょうか」
「不幸中の幸いなのは、梶原が白木たちを殺したのは自分だと言ったことね」
「確かに梶原の言葉だけを見れば、白木達を襲ったのが複数だとはとれなさそうで、柏木たちも犯人は梶原単独と思っているようです」
その言葉に桐谷がにやりと微笑んだ。
「そのまま、その言葉を利用しましょう。
原田に、しばらくは行動を控えるように伝えておいて」
「分かりました。
あと、中島とか言う超人は何者なんでしょうか?
話から行くと、政府側と同じタイプだって話ですが」
「うーん。どう言う経緯でその力を手に入れたのか謎ね」
「しかし、これで政府側の超人は女性にだけしか適用できないと言うのが、嘘だと言う事が実証されたわけですね」
「そうね。少女たちの遺伝子を解析した結果、女性だけと言うのは確認できていなかったのは事実。
でも、男性に適用できない私たちの知らない何かの理由があると言う可能性が無い訳じゃなかったんだけど、これでそれも無くなったわね」
「でも、どうして、そんなデマを」
「うーん。分かんないわね。
もしかすると、男の超人が存在していて、それを隠すためとか」
「どうしてですか?」
「そうねぇ。
ホラー映画とかであるじゃない。ほっと一息、終わったと思ったら、まだだったってやつ。
少女たちを片づけて、終わったと思ったら、さらに強力な男の超人がって、ね」
「マジですか?」
「知らないわよ。でも、他に何か理由、ありそう?」
「うーん。分かりません」
「でしょ。
まあ、それはそれとして、柏木が中島と言う子を尋問したんだったら、その子の正体は何かつかんでいるはず。
野田に聞き出すように言っておいて」
「いいんですか?
そんな積極的な動きをかけさせて。
柏木たちに変に思われて、感づかれないですか?
野田がスパイだって事」
「これだけ事態が動いているのよ。
ここ一番の大勝負の時が近づいてきている。
そう思わない?」
「分かりました。
野田に伝えます」
そう言って立ち去る男を見送ると、桐谷は立ち上がり、窓の向こうに広がる光景に目を向けた。太陽は傾き、広がる街の向こうに沈んでいく気配を漂わせていた。
「誰のための明日がやって来るのかしら」
桐谷がぽそりと言った。
大勝負の時が近い。そう感じ取っていたが、その勝者が自分だとは感じ取りきれていなかった。




