決断
人の目では追えない速さで、岡田兄が動いた。
少女たちの動きも速い。
早さはほぼ互角。
少女たちの繰り出す攻撃。
一対一なら、かわせるかも知れないが、相手が多すぎる。
少女たちの攻撃が、次々に岡田兄を襲う。
攻撃力が倍増された超人の攻撃に、岡田兄が吹き飛んで行く。
その光景に、聡史は両手の拳を握りしめ、決断を迫られていた。
岡田兄を助けるため、立ち向かうべきか、このまま成り行きを見守るべきか。
聡史は覚悟を決めた。
自分の願いを叶えるために必要なのは柏木たちではない。
必要なのは岡田兄妹の力。いや、もしかすると原田も。
そう思うと、勝手に聡史の体が動いた。
立ち上がろうとする岡田兄を襲おうとしていた少女を聡史が止めた。
それは超人の能力。
一瞬、みんなの動きが止まった。
「お前も超人だったのか?
テロリストか?」
「残念だが、俺はテロリストではない。
が、超人だ。しかも、お前たちと同じタイプの」
「そんなはずはない。
私たちのタイプは女の子にしか、適用できない」
「俺も、そこんところ、よく分かんないんだよね。
なんで、そんな話になっているのか」
「ふん。そんな事ある訳がない」
そう言って、一番近くの少女が聡史に殴り掛かった。
殴りかかってくる少女の腕を左腕で巻き込むように掴むと、少女に横に向けていた体を回転させながら、右手で殴り飛ばした。
恐るべき速度で吹き飛ばされた少女。
少女が立ち上がろうとする瞬間、少女の姿が見て取れた。
戦いの状況は原田には断片的にしか、視認できていない。
少女の制服はずたずたで、その衝撃の激しさが見て取れる。
始まってしまった戦いを止める術は原田にはない。
「本当にパワーは私たち並み?
どう言う事?」
聡史の攻撃力を目の当たりにして、柏木がぽそりと言った。
止まって聡史を見ていた少女たちが、戦いに参戦し始めた。
攻撃力の高い聡史に、その多くの戦力を振り向けた。
超人と言えない戦闘力の無い岡田兄には、二人の少女だけ。
一方、ほぼ無抵抗だった岡田妹が薄っすらと目を開けた。
その瞳に映った光景は、ずたぼろになりながら立ち上がろうとしている岡田兄を少女が蹴り飛ばそうとする瞬間だった。
その瞬間、うっすらとだった岡田妹の目が大きく見開いた。
「真ぉぉぉ」
岡田妹が叫んだ。
原田達の視線が岡田妹に向かい、柏木も驚いた表情を岡田妹に向けた。
「真って、誰?」
そんな思いが脳裏によぎった瞬間、岡田妹の首を締め上げていた少女ははるか先の地面に突っ伏していた。
そして、岡田妹の腕を背後からねじ上げていた少女ははるか後方に吹き飛ばされていた。
一瞬の出来事。
予想外の事態に、戦いが止まった。
柳たちには何が起きたのかすら分かっていなかった。
「嫌、嫌、嫌ぁー」
突然、岡田妹が叫びながら、地面に突っ伏した。
「油断しちゃったってとこかな」
岡田妹に吹き飛ばされた少女がそう言って立ち上がった。
「大丈夫だ。安心しろ」
岡田兄は大声を上げながら、妹のところに駆けつけようとしていた。
少女たちが岡田兄の動きを阻止し、岡田妹に再び攻撃をかけようとし始めた時、柏木の声が響いた。
「やめなさい。もう終わり。
引き上げるわよ」
柏木の意外な命令に超人たちだけでなく、原田達の視線も柏木に向かった。
動きが止まった超人たちの間を瞬間に駆け抜け、岡田兄が妹を抱きしめた。
「大丈夫。落ち着いて。何も心配はない。
俺が守るから」
「何なんだ?」
戦いから解放された聡史が、二人を見つめて言った。
「何をしている。なぜ戦わない?
それが君たちの使命だろ」
梶原がずいずいと進み出ながら、大声で言った。
「キャラが違うんだが、あいつ何なんだ?
原田、何か知っているんだろ?」
柳が原田に言った。
ちらりと視線を向けただけで、原田は返事を返さなかった。その瞳は怒りに燃えている感じだ。
「やっぱ、先生の事、信じらんないのよね」
柏木と梶原がお互い距離を縮める事なく、にらみ合っている。
視線をそらしたら、負け。そんな思いで、時間が流れて行く。
柏木がそんな時の流れから、抜け出した。
「岡田先輩。
後で落ち着いたところで、話を聞かせてくださいね。
真って名前についても」
柏木が地面に突っ伏している妹を背中から抱きしめている岡田兄に、目を向けながら言った。岡田兄は柏木の声が聞こえていたのか、聞こえなかったのか分からないが、何の反応も返さなかった。少し寂しげな表情を浮かべた柏木は、少女たちに視線を戻した。
「みんな、行くわよ」
柏木が校舎に戻り始めると、少女たちも続いて引き揚げ始めた。
校庭で行われた戦い。少女たちは一塊ではなかった。
それぞれの場所から、柏木の背中を目指して歩いている。
一人の少女が梶原の数m先に差し掛かった時、梶原が大きく一歩を踏み出しながら、右手を差し出した。
その手には大きめのボールペンのようなものが握られていた。
「あっ」
原田の声が少女達に届いた時、梶原の手に握られていたボールペンのようなものは梶原の目の前の少女の脇腹に接触していた。




