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Pandora(改稿版)  作者: あすか@お休み中
第2章:反逆の少女たち
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新たな犠牲者

 いつも始業直前に登校してくる原田は、まだ登校してきていない。その日の学校の中は、生徒たちも職員室も騒然としていた。もちろん、聡史の教室の中も騒然としていた。事の当事者である柏木達と、自分の席で一人座っている岡田妹を除いて。

 そして、その柏木たちは自分たちの席について、じっと、原田が登校してくるのを待っていた。


 廊下につながるドアから原田が現れると、柏木達が素早く席を立った。その瞬間、教室の中をぴんと張り詰めた空気が包み込んだ。

 クラスメートたちが見つめる中、柏木達が原田を取り囲んだ。


「ねぇ。原田さん」

「あ。おはよう」


 取り囲んでいる柏木たちに敵意が浮かんでいる事は感じていたはずだが、原田は普段通りの挨拶をした。


「白木さんたちを殺したのは、やっぱりあなたね」


 そう言いながら、柏木が原田に向けて差し出したスマホの画面を、何? 的な表情で、原田が目を向けた。

 そこに映し出されていたのは、道路に転がる迷彩服の男と、それを疲れた表情で見下ろす原田の画像だった。


「それ本物か?」


 聡史が原田たちのところに、やって来た。


「そう言えば、中島君も共犯だよね。

 白木さんたちが殺された時、原田さんが体育館にいたって言ってたけど、嘘だよね?」

「何で、俺が嘘つく必要あるんだ」

「これ、見てみなさいよ」


 柏木が原田に向けていたスマホを聡史に向けた。


「中島君も知ってるよね?

 昨日、超人が二人、殺されたってニュース。

 この画像見てどう思う?

 原田さんが超人を倒したところ。そうとしか見えないでしょ?」

「は、は、ははは」


 聡史自身も柏木の言うとおりだと思いつつも、そんな思いを吹き飛ばそうと、大げさなくらい笑い出した。


「何が可笑しいの?」

「これは殺された超人を見て、恐怖している原田の姿。

 俺にはそうとしか見えないが」

「何でよ、そんな訳ないじゃない」

「人は自分が見たいものしか見ないんだな。

 柏木たちは心の奥底で原田をまだ疑っていたんだ。

 だから、これを見て、そう思ったんだな。

 だって、よく考えてみろよ。

 超人を普通の人間が倒せるのか?

 それに体育館で原田を見たと言ったのは、俺だけじゃないんだぜ。

 野田も言ったじゃねぇか」


 柏木たちの視線が野田に向かうと、野田も静かに頷いてみせた時だった。退院して間もない梶原が教室に駆け込んできた。


「柏木さん。一人貸してくれないか?」

「はい?」


 怪訝な表情で柏木がふり返り、ドアの所で息を切らし気味な状態で立っている梶原を見た。


「不審人物が旧校舎にいるらしいんだ」

「そんなのは、私たちのミッションじゃなくないですか?」

「迷彩服を着ていると言う事らしいんだ」

「それは確かなんですか?」

「私たちだけでは確かめに行けないんだ。

 誰か一人貸してくれないか?」

「野田さん、他のクラスの子、誰か連れて行ってくれるかな?」

「分かった」

「ありがとう」


 柏木に拝むような仕草をしている梶原の横を野田が通り過ぎると、梶原も教室を後にした。


 迷彩服を着た不審者と原田。聡史は両者を天秤にかけていた。

 不審者が超人だとすると、再びあの力が使われるかも知れず、その瞬間を目の当たりにできるかも知れない。

 原田が本当に超人たちを倒したとしたら、原田とその背後の組織を味方にしなければならない。

 聡志が下した決断は、この場で原田の味方をするだった。


「この子を連れて行きなさい」


 柏木が指示を出した。


「待てよ!」


 自身の体を盾のようにして、原田の前にそう言って立った聡史に、柏木がきつい視線を向けた。


「この子を庇うって事は、君も仲間って事なのかな?」

「中島君、もういいよ。

 巻き添えにできないから」


 柏木とにらみ合い状態に陥った聡史の腕を持って、原田が言った。


「柏木さん。

 私は何もしてないけど、疑いがあるってんなら、どこにでも連れて行ってくれてかまわないよ」


 そう言い終えると、原田が聡史の前に回り込んだ。


「しかし」

「いいの」


 ふり返って原田が見せたにこりとした笑顔に、聡志は続けるべき言葉を失い、そこで言葉を詰まらせてしまった。そんな聡史の前で、原田は柏木の配下の少女たちに両腕をがしっと抱え込まれてしまっていた。


「行くわよ」


 柏木がそう言い終え、廊下を目指し始めると、原田の両脇を固めた少女たちもそれに続き始めた。後を追うようにして、廊下に出た聡史だったが、できる事は原田の後ろ姿を見送る事くらいで、奪い返すなんて事はできやしなかった。


「何があったんだ?」

「あれは原田さん?」

「あの画像の事じゃない?」


 普段とは違う柏木達の行動に、異変を感じていた生徒たちが私語を交わし合う中、聡史は少しずつ小さくなっていく原田の後ろ姿を見続けていた。


「マジ、やばくね?」


 背後からした柳の声に、聡志がふり返った時、新たな危機を知らせる悲鳴が聞こえた気がした。


「きゃああああ」


 それは大きな声ではなく、ガラス越しに外からかすかに聞こえて来た気がした。

 その悲鳴に気づいた何人かの生徒たちが、騒ぎ始めた。


「今、何か聞こえなかった?」

「悲鳴だったみたいなんだけど」


 校舎の外からと感じ取った聡志が、廊下の窓を開いて、身を乗り出して外の様子をうかがった。


「人殺し」

「助けてぇ」

「テロリストだぁぁ」


 明らかに異変を知らせる声がはっきりと、しかも次々と聞こえてきた。

 旧校舎とつながる地上にある渡り廊下を何人かの生徒たちが、こちらに向かって駆けて来ているところから言って、殺人を犯したかも知れないテロリストらしき人物は、旧校舎にいるらしい。その相手は、梶原が不審者と言っていた相手に違いない。

 梶原は柏木に頼んで、超人の少女を連れて行ったはず。としたら、超人同士の戦いになれば、少女の側に分がある訳で、たとえ犠牲者が出ていても、その決着はすぐにつくと思っていた聡志の視界に意外な人物が姿を現した。


「柏木さんたちを呼んでくれぇぇ」


 血相を変えて、少しよろけ気味で最後尾から駆けて来ているのは梶原だった。その前には野田の姿もあった。

 梶原と野田が連れて行った超人少女の身に何かあった。そう感じ取った聡史が、戸惑いの表情を浮かべながら、窓から外の様子を眺めている生徒たちの背後を駆け抜け、階下を目指した。

 聡史が一階にたどり着いた時、柏木たちが梶原から話を聞き始めたところだった。


「先生、この騒ぎは何があったんですか?」

「すまない。」

 柏木」


 その言葉の意味を素早く悟った柏木は、その場から一瞬にして姿を消した。原田を連行していた超人の少女たちも、お互い頷き合ったかと思うと、姿を消した。旧校舎に向かったに違いない。

 柏木達に代わり、聡志が梶原の前に行き、柏木の質問を繰り返した。


「で、何があったんですか?」

「旧校舎にいた不審者は、テロリスト側の超人だったんだ。

 そいつに襲われて、秋野さんが……。

 私が付いていながら」

「そいつに超人少女の秋野さんがやられたって事ですか?

 彼女たちの方が強いんじゃないのですか?」

「白木さんたちの時と同じなんだよ。

 何か武器みたいなものがある感じで。

 奴は白木さんたちも自分がやったと言っていたし」


 梶原の話が終わるや否や、聡志も旧校舎に向けて駆け出していた。



 旧校舎は新校舎とつながる渡り廊下の先にある古めかしい木造二階建てで、白壁ではなく、壁に板が多く使われている事と、照明が少ないこともあって、中は少し薄暗い。

 聡志が旧校舎にたどり着いた時、すでに一般の生徒たちはおらず、柏木たちの声だけが、少し湿っぽい空気の中に響いていた。


「秋野さん、秋野さん!」

「なつみ、しっかりして!」


 上階から聞こえてくる事を確認した聡史が、階段を駆け上がり始めた。


「大橋さんに電話して!」

「わ、わ、分かりました!」

「秋野さん!」


 聡志が二階に駆け上がった時、秋野なつみと言う少女だったはずのぐったりとした肉塊を柏木が抱きかかえ、嗚咽していた。

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