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Pandora(改稿版)  作者: あすか@お休み中
第2章:反逆の少女たち
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呼び出し

 お昼休みが始まり、あちこちでお弁当が広げられ始めている教室の中で、柳が聡史の前にやって来て、机の上に自分のお弁当を置くと、お弁当箱のふたを開いた。柳のお弁当の香りだけでなく、時折風が近くの人のお弁当の香りを運んで来て、食欲を刺激する穏やかなひと時。

 そんなひと時に似つかわしくない、ちょっと殺気立った一団が、教室の片隅にいた。それは柏木をはじめとした超人たちで、岡田妹の前に立っていた。


「悪いんだけど、ちょっと来てくんないかな?」

「すみません。すみません」


 どこを見つめているのか分からない視線で、岡田妹がか細い声で何故だか謝っている。

 そんな岡田妹にかまわず、超人たちの一人が彼女の右腕を掴んで立ち上がらせた。


「その子をどうする気よ」


 無抵抗に近い岡田妹に代わって、鳥居が席を立って声を上げたかと思うと、柏木たちの前まで、ずかずかと歩み寄って行った。

 私は抵抗しますよ。そんな感じの鳥居のオーラに、周りの生徒たちに緊張が走った。


「これから、この子のお兄ちゃんと話をするのよ。

 ちょっと、それに付き合ってもらうだけ」


 冷たく柏木はそう言って、鳥居を押しのけて、廊下につながる教室のドアまでの道を確保した。

 廊下を目指して歩いて行く柏木達に、岡田妹は歩く機能だけがある人形か何かのように、視線も定かでないまま、手を引かれ廊下の向こうに消えて行こうとしている。


「待ちなさいよ」


 鳥居のその言葉に、柏木たちは何の反応も示さないが、鳥居もあえて追いかけて、柏木たちを止めるような事はしなかった。

 柏木たちの姿が廊下の向こうに消えると、緊張感も一気に消え去り、何事も無かったかのように私語がかわされ始めた。

 柏木たちの行為に反発しても無駄。

 そんな雰囲気の中、聡史が立ち上がった。


「悪い、柳。俺、ちょっと行ってくる」


 パンとジュースが入っているビニール袋を机の奥に押し込みながら、聡史は立ち上がると、すたすたと柏木たちの後を追うかのように、廊下を目指し始めた。


「待ってくれよ。俺も行くぜ」


 柳も聡史に続いて教室を後にした。




 体育館の裏。

 全く不良かよ。と言う場所に柏木達は岡田兄を呼び出していた。

 向かい合っているのは柏木と岡田兄。

 他の超人たちは岡田妹を連れたまま体育館の壁に隠れていて、岡田兄の視界に入っていない。その岡田妹はと言うと、ほとんど強制的に連れて来られてしまったと言う状況を理解していないのか、相変わらずの態度なだけのか分からないが、騒ぐこともせず、ただどこかに視線を向けたままぼぉーっとした感じだ。

 聡史と柳は校舎の出口付近で身を潜め、その状況をじっと盗み見していた。


「あ、あ、あのさ。

 岡田先輩に聞きたいことがあるんだけど」


 柏木の口調は威嚇でもなければ、怒気を含んでいるようでもない。

 なんだか、今から告る気か? と言うようなどぎまぎとした雰囲気を感じてしまう。


「何?」


 一方、貴明の声は怪訝さ全開である。


「白木さんたちが殺された時なんだけど、先輩が体育館にいなかったって言う人がいるんだよね」

「白木さんたちを襲った犯人を捜しているって訳だ。

 で、その犯人の候補が俺って訳?」

「ごめんなさい。でも、これも任務なの」


 その言葉が合図だったのか、他の超人たちが岡田妹を引きつれて、柏木の後ろに立った。

 超人たちに捕えられた妹の姿に、岡田兄の顔色が変わった。


「貴明くん」


 兄の姿にぽそりと、妹がつぶやいた。


「理保を離せ」

「なんで、そんなに」


 独り言のように言った柏木の声はどこか悲しげで、次に発した声は絶叫気味に思えた。


「本当の事を言ってよ。でなきゃ、この子に痛い目に遭ってもらう事になるのよ」

「どうする?」


 隠れて見ている聡史に柳が言った。

 立てた波で、水面下に潜んでいたものが、水上に顔を出すかも知れない。

 岡田兄の力を試そうとした策がうまく進んでいる聡史としては、何もする気は無い。

 今にも飛び出しかねない柳の腕を持って、引っ張って引き留めた。

 そんな二人の横をすり抜けて行く影があった。

 柏木達の前に飛び出して行ったのは、原田と鳥居だった。


「いい加減にしなよ」


 そう怒鳴ったのは鳥居だった。

 女の子たちに後れをとるまいと、聡史の手を振り切って、柳も飛び出した。

 もう策は潰された。そう感じた聡史が、柳に続いた。


「そろいもそろって、邪魔する気なの?」

「やり方が気に入らないのよ。チョーむかつくのよね。

 なんで、女の子を人質にしてるのよ」

「分かったわよ」


 きつい口調で柏木はそう言ったかと思うと、岡田妹を捕まえている超人に解放するよう合図を送った。


「理保」


 駆け寄る兄の姿を見て、妹が少し嬉しそうに口元を緩めた。

 岡田兄は妹の所まで駆け寄ると、そのまま両手を広げて、心配そうに、愛おしそうに妹をぎゅっと包み込むようにして抱きしめた。そんな二人の姿に、柏木の表情がどこか寂しげだと聡志は感じていた。


「行くわよ」


 元々、岡田兄の事を真剣に疑っていなかったのか、柏木は彼らに固執する事もなく、そのまま立ち去って行った。


「なあ、中島。

 兄妹であそこまでするのか?」

「兄妹なんだし、別にしてもおかしくないんじゃね?」


 柳の疑問を平然とした顔で一蹴する聡史を、原田がしかめっ面で話しかけてきた。


「中島君って、妹さんがいるの?」

「妹はいない。あね……」


 聡史が一瞬、口をもごもごさせてから言いなおした。


「俺、一人っ子」

「だったら、それって妄想?

 お兄ちゃんに抱きしめられたくなんかないわよ」

「だったら、弟は?」

「弟? 私いないから分かんないけど、小さいんならかわいいから、いいかも。

 でも、高校生の弟なんて、嫌よ」

「そうなんだぁ」

「原田さん。中島君ががっかりしているじゃない。

 きっと、男の子はかわいい妹さんを抱きしめたいんだよ。

 特に中島君はリアルな妹さんがいないから、そう思えちゃうんだよ。

 ねっ?」


 鳥居が小首を傾げながら、聡史に言った。


「は、はは」


 苦笑いで、誤魔化す聡史の横をすり抜けて、岡田兄妹が歩いて行った。


「は! 大変だ」


 その後姿を見つめながら、柳が言った。


「俺たち」


 聡史たちは頷き、柳の次の言葉を待った。


「お昼食ってねぇのに、もうじき昼休みが終わっちまうよ!」


 柳は旧校舎の時計台を指さした。

 みんな慌てて教室目指して駆け出した。

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