超人少女たちのいる教室
一時限目の授業が終わると、聡史は原田の机に寄せていた自分の机を元の位置に戻した。
「さて、どうやって、誰から友達を作ろうか」そんな聡史の思いは一瞬で不要になった。
何人もの男子が聡史を取り囲んだ。
「前は帰宅部だったらしいけど、こっちではどうする?」
「あ、まだ決めてないんだ」
「体育得意か?」
「それなりかな」
「趣味はなんなんだ?」
「スポーツもやるけど、音楽も好きだし」
一つ一つ答える間もないくらいの質問の連続の中、聡史は機嫌よく答えて行く。
「この中に、探している生徒がいるかも知れない」そう思うと、みんなと仲良くして行かなければと思っている聡志は、笑みを絶やしていない。
「なあ、なあ。一つ聞いていいかな?」
ほんの少しできた質問の嵐のすきに、聡史が逆に言葉をねじ込んだ。
「何?」
聡史を取り込んだ男子生徒たちは聡史を見つめ、続く言葉を待った。
「教室の中に、空いている机が多いけど、どうして?」
「ああ。あいつら、今日仕事なんじゃね?」
「仕事?」
高校生が授業をさぼってバイトしていい訳がない。
それも、こんな大勢。
そう感じた聡史の顔は怪訝さ全開だった。
「あ。休んでいるあいつらは超人なんだよ。
だから、今日は何かの作戦なんじゃないかな」
「超人」その言葉に聡史の顔が強張った。
強張った顔で、さっきまで浮かべていた笑みを突然失った聡史に、一人の生徒が問いかけた。
「どうしたんだ?」
「超人と言っても、ここにいるのは政府側の超人たちだ。
普段は普通のクラスメートだから、心配いらないよ」
聡史は暴れ回るテロリスト側の超人を思い描き、恐怖しているのだろうと思った別の生徒が言った。
聡史がその生徒に目を向けた。
「どうして、ここにそんな超人たちがいるんだ?」
「知らなかったんだ。その事。
でもまあ、会ってみれば、君も好きになるよ。
かわいいからな」
「好きになんて、なれる訳がない。俺は」
真っ赤な顔で勢いよく立ち上がり、絶叫気味に聡史はそこまで言って、口を閉じた。
「なんなんだ?」
「どうしたんだ?」
聡史を取り囲んでいた男子生徒たちが目を点にして、聡史に視線を集中させた。
「あ。いや。すまない。何でもない」
真っ赤に火照った顔はまだ少し赤いままだったが、小さくそう呟くように言うと、椅子に腰を下ろした。聡史がこの高校に転校してきたのはある力を探すためだったが、それは超人たちとは相反するもの。それが一つの学校の中に併存していると言う事に戸惑っていた。
「まあ、まじかわいいから。なあ」
「そうそう」
ちょっと異様な気配を含んだ空気を追い払おうと、聡史の周りの生徒たちが口々に言い始めた時、チャイムが鳴った。
「かわいい?
女の子の超人が多いのか?」
聡史がぽそりとつぶやいたのは疑問形だったが、その時には取り囲んでいた生徒たちは、チャイムに気を取られていて、その言葉には誰も反応を示さなかった。
「じゃあ、またあとで」
軽く片手をあげて、自分の席に急ぎ始めたクラスメートたちの姿をぼんやりと見つめている聡史の耳に、新たな言葉が届いた。
「超人嫌いなの?」
感情が無い言葉? いや、冷たい言葉?
そんな風に感じ取りながら、聡史が声がした方向に振り向くと、原田が机の上で頬杖をつきながら、聡史を見ていた。
冷たく突き刺すような瞳だが、口元にはかすかだが笑みが浮かんでいるように聡史は感じた。
黙ったままお互いの心の中を探るかのように、相手に向けたままの視線を動かさない二人の耳に教室のドアが開く音が届いた。
先生が教室にやって来た。
「起立」
「礼」
「お願いします」
「着席」
聡史がお辞儀を終え、机を原田の机に寄せて着席すると、原田が聡史にさっきの返事を催促するかのように、再び小声で言った
「超人嫌いなんだぁ」
「いや、そんな事はない」
聡史としては変な先入観を持たれても困るし、原田の意図が分からないので、無難な答えを返して、にこりと微笑んだ。原田は聡史の言葉に何も返さなかったが、その瞳には疑いが宿っているように感じた聡史が付け加えた。
「俺、マジ光栄だよ。超人たちと友達になれるチャンスがあるなんてさ」
原田の表情が笑顔になったが、それは好意的な笑みではなく、聡史の言葉を鼻で笑っているかのようなものだった。
「さっきさ、好きになんてなれる訳ないって、自分で言ったじゃん」
原田はきっちり聡史の言葉を聞いていたようだ。
「あれはそう言う意味じゃなくて、恐れ多いって言うかさ、まあ、そんな感じ?」
聡史が疑問形で話を終わらせた。
「ところでさ。どうして、ここにそんな超人たちがいる訳?」
聡史は原田の追及を防ぐ意味と、自分が抱いた疑問の解消を目的に言葉をそのまま続けた。聡史の言葉への答えとして、原田が人差し指で指し示した斜め前の空間に視線を向けた。
授業を受けるクラスメートたちに混じり、点在する主のいない机。
原田がどこを差しているのか、全く分からない聡史がたずねた。
「なに?」
聡史の言葉に、原田が顔を近づけて小声で囁いた。
「二つ隣の列の前から2つ目の席。
今はいないけど、政府側の超人たちのリーダーの席」
「リーダー?」
「そう。リーダーがこの学校の生徒だから、みんなここにいるの」
「マジかよ!」
聡史はあまりにも安直な? 信じがたい? 話に授業中だと言う事を忘れて、叫んでしまった。
「こら。お前。確か、今日転校してきた生徒だよな」
先生が聡史を睨み付けた。
「すみません」
聡史はにこりとした微笑みを言葉に添えて、ご機嫌を取ろうとしたが、先生の視線は聡史に向けられたままだった。それを弾き返そうと、真剣なまなざしを先生に向け続ける。
さあ、授業来い!的な態度に、先生は視線を手にしていた教科書に戻した。
真剣なまなざしを黒板と先生に向け、時折ちらりと机の上のノートに視線を落とす聡史の手はノートの上に鉛筆で、黒い線を描き続けている。
その手が止まり、鉛筆を手放すと、ノートを机の端に押しやり、原田との机の境界を越境させた。
「なんで、そんな奴がここにいるんだよ」
ノートを見続けずに書いた文字は所々乱れ気味で、文字の大きさも少しばらついている。
「近くに暮らしているらしいのよ。
それに、ここの女の子の制服、かわいいから」
原田が聡史の文字の下に、そう書き足した。
チェックのスカート、濃紺のブレザー、白いブラウスに赤いリボン。どこにでもあり気な制服。
「近くに住んでいるのはいいとして、かわいいは冗談なんだろ?」
「マジに決まってるじゃない」
「信じられん」
原田はそれには何も書かずに、聡史にノートを押し返した。
「超人たちのリーダーってくらいだから、いかついのか?」
聡史が新たな質問を書いて、原田に渡した。
「ばか。女の子に失礼よ」
原田が書いて来た言葉は聡史には驚きだった。
超人たちのリーダーが女の子とは、聡史にとっては意外だった。
かわいいと言った制服。
それは眺めるためではなく、自分が着るため。そう言う事かと、聡史は理解しなおした。
「柏木さんはかわいいわよ。私とどっちがかわいいかって事は聞いちゃだめだけどね」
聡史が女の子がリーダーと言う事に驚いている事など気付いていない原田が、一度ノートを引き戻し、そう付け加えて、にこりと微笑んで締めくくった。
聡史はついまじまじと原田を見た。
胸の辺りまで伸びた巻き髪がかわいいだけじゃない。
二重のまぶたの下に輝く大きな瞳に挟まれた鼻は、高いとは言わないがすらりとしていて、容姿はきれいな部類に入る。
では、柏木さんと言うのはどっちなんだ? 原田並みにかわいいのか、それともやっぱ全く逆?
そんな事を思っていると、ある疑問が浮かんできた。
「超人のリーダーって、どうやって決まるんだ? やっぱ、力か?」
「ばかね。総選挙よ」
「マジかよ?」
「う・そ」
そう書いて、ノートを押し返して来た原田は笑いを抑えている感じだ。




