売国の種
結希の祖父の葬儀が終わった次の日の事だった。
そこは都心の一角にそびえたつ海外ブランドの高級ホテルの一室。シャンデリアの灯りが照らし出す中、中世欧風貴族の館に似合いそうなソファに腰かけているのは、60を過ぎていると思われる恰幅のいい男で、名を寺井豪と言った。
男の視線の先には閉じられたドアがあり、その向こうにも中世の欧州をイメージさせる空間が続いていた。
「で、あなたが我々に協力してくれると?」
寺井の言葉は閉じられたドアの向こうに立つ人物にだった。ドアの向こうは寺井のところからは見えないが、左右には寺井を警護する屈強な男たちが立ち、ドアから少し離れた位置に相手の男は立っているのだろう。
「ええ。
私をこの国の王に任じてくれるのなら」
閉じられたドアが重厚なためが、男の声はこもり気味で少し小さく聞こえた。
「確かにあなたのポジションなら、我々の目的達成に役立ってくれることでしょうが、どのようなプランをお持ちで?」
「まず、松下は邪魔じゃないですか?」
「彼は強硬派ではありますが、国民からの不人気は我々にとっては好都合ですがね」
「だからと言って、外国勢力と松下なら、国民は松下をとるでしょうね。
外国勢力がアメリカと言うのなら、分からないかも知れませんが、それがあなたのお国では我が国の国民は誰も信じないでしょう」
「手厳しいですなぁ」
「で、その松下を排除すれば、当面副大統領の山橋が代行する訳ですが、この男はお飾りであって、何かをできる男じゃありませんよ。
国家の弱体化が進みますよ」
「なるほど。
しかし、一番我々の懸念事項でもあり、手に入れたい技術でもある鋼鬼の技術はどうなりますかな?」
「当然、お渡ししますよ」
「いいでしょう。
あなたの計画に必要なリソースの提供に、全面的に協力させていただきましょう。
これから、あなたはコードネーム”フーバー”を名乗ってください。
そして、全ての約束が果たされ、我々の最終計画が実行に移され、この国を制圧した折には、倭国の王に任じさせていただきますよ」
「よろしくお願いします」
それはフーバーと寺井が話し合った日から数日後だった。結希の攻撃で負傷し、生け捕りとなった鋼鬼を公開処刑する会場に姿を現した松下は、何者かの狙撃により暗殺され、山橋が大統領代行となった。山橋はフーバーが言ったとおり無能な男で、何ら行動を起こす事もなく、無為な時を過ごし、それを見かねた高山の計らいで、捕らえていた杉本の更迭を解き、首都の警護を再び任じた。
そして、何の行動も取らない政府側の隙をついて、山本は超人を開発し終えていた。




