表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
Pandora(改稿版)  作者: あすか@お休み中
第1章:すべてを与えられし少女
24/107

取り引き

 突然の大統領からの電話に小出は身構えていた。その緊張で、受話器を持つ手に汗が滲みだしていた。


「君のところで、生きた人間の遺伝子操作が成功したと聞いたが」


 松下はいきなりそう切り出して来た。

 やはり推測どおりの事だったが、松下の言葉は断定ではなかったため、小出の脳裏に否定すると言う選択肢が一瞬浮かんだ。

 それは結希の治療が完了するまではこの事を内密にすると言う小田との約束を守るためではなかった。この技術を松下が欲しがっている事は小田の話から知っていた小出としては、この技術を取り上げられる事を恐れたのだった。

 だが、否定するには、嘘だとばれれば命が無くなる事と天秤にかけて決断しなければならない。とするなら、答えを出すのは簡単だった。


「確かに行いましたが、いったいどこから、その情報を?」


 少し間が空いたが、小出は肯定した。


「私の部下に杉本と言う軍人がいてね。

 その杉本と言うのは、君が治療した大西理乃とは親戚関係にあるんだ。

 この計画はその杉本君が理乃くんを使って企てたものなんだよ。

 すなわち、その力は我々のものだ。

 その力を我々、国に差し出してもらおうか」


 小出は今回の事が全て国側の仕組んだ事だった事は理解した。

 ここで拒否れば自分だけでなく、家族にも危険が迫るかもしれない事は明白だが、小出は即決できないでいた。


「どうした?

 なぜ黙っている」


 電話の向こうから、厳しい口調で迫ってきたが、まだ小出は答えを見つけられないでいた。

 小出が迷っている理由は金でも野望でもなかった。

 それはただ名誉、いや劣等感を晴らしたいだけだった。

 小出は子どもの頃より、ずっと兄と比べられてきた。それは全戦全敗で、その兄はこの国一番の大学で教授をしていて、今なお比べられると敗北感に包まれずにいられなかった。

 そんな状況を一発大逆転する材料が、この技術だった。

 世界に変革さえ及ぼしかねない技術の開発者。その名誉はこれまでの全敗を一掃できるほどのものだった。


「返事はどうした。

 全てを私に差し出せ」


 大統領の口調に、怒気がこもり始めた事に気づいた小出だったが、無条件に出す事は躊躇せずにいられなかった。


「で、で、ではこれでどうでしょうか?」

「なんだ。私に条件を出す気か?

 今から、人を行かせてもいいんだぞ」


 その言葉の意味の中に、死と言う選択肢も含まれている事は小出もすぐに気づいた。


「で、で、ですが、それではあの技術は手に入りませんよ」


 これが小出が考え付いた切り札だったが、見事に松下は食いついて来た。


「どう言うことだ?」

「今のところ、私がもらったのは高速治癒、再生だけで、それ以外はこの治療が完了した後となっております」

「では、すぐにでもその情報を小田から入手し、我々に差し出せ」

「まだ完了していないのです。

 小田からは彼女が治った後、遺伝子を元に戻す事も依頼されています」

「それはどうしてだ?」

「高速治癒や再生の遺伝子が組み替えられたままだと、普通の人間ではないからです。

 それと、元に戻す組み換えと言うものが成功すれば、小田の孫娘も元に戻す事になっています。

 小田の孫娘は開発されたすべての遺伝子が組み込まれているとのことで、それを戻すために、全ての情報が提供されることになっています」

「そ、そ、それは本当か?」


 さっきまでとは違って、松下の声が上ずっている。


「すべての技術が組み込まれた者。

 高速治癒、再生だけでなく、鋼鬼が持つパワーもそこに含まれているに違いない。

 いや、もっと多くの超越した力も開発されていたらしいが、そんな者と戦ったら、どれくらいの犠牲者が出るのだろうか?

 いや、そもそも勝てるのだろうか?」


 電話の向こうから聞こえてくる松下の声は、自分に語り掛けたものではなく、独り言だと言う事は小出には分かっていた。電話で独り言を言ってしまうほど、衝撃の事実。


「大統領、小田の孫娘ですが、私の手で元の普通の人間に戻せば、何の憂いにもなりません。

 それに全ての情報は大統領に差し出しますが、一つお願いをお聞き入れいただけませんでしょうか?」


 今こそ、自分の要求を押し込むチャンス。

 小出はそれを見逃さなかった。


「何だ?」

「はい。この技術を私が開発したと言う事にしていただけませんでしょうか?

 そして、大統領の下、この技術の研究を私の手で続けさせてもらえませんでしょうか?」

「ふむ。それでかまわんが、それには障害があるぞ」

「分かっております。それに関しましては、考えが」


 小出は大統領と声を抑え気味にして、しばらく話を続けていた。


「はっ。お前もとんでもない奴だな。

 まあいい。そういう奴の方が私にとっては好都合だ。

 お前に名誉をやろう。

 我々には力を。

 分かったな」


しばらくすると、大統領が呆れ気味の声で、そう言った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ