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Pandora(改稿版)  作者: あすか@お休み中
第1章:すべてを与えられし少女
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真 vs 鋼鬼

 暑い日差しが町に立ち込める油の臭いを舞い上げて、むせ返らせている世界とは隔絶されたエアコンがぎんぎんに効いた閉ざされた部屋の中で、山本が電話を片手に滅多に見せない礼儀正しい言葉使いで、話をしていた。


「はい。

 お任せください。

 そちら様に迷惑をかけずにやらせていただきます」


 そう言って電話を切る山本を待っていたかのように、その前に立っていた男が言った。


「スポンサーはなんと?」

「スポンサーが雇った手の者は組織ごと何者かに殺害されたらしい。

 今は動けないので、こっちでやってくれないかと言ってきた」

「政府が動いているんですかね?」

「その可能性は否定できないな。

 だからこそ、スポンサーも動けないんだろう」

「我々の事を売ったりしませんかね?」

「スポンサーも我々を必要としているから、その心配はない」

「元の作戦通り孫娘を人質にするで、いいですね?

 出来上がったばかりですが、鋼鬼を使います」

「ミスは許されない。

 一気にかたをつけるにはそれがベストだろう」

「では」



 山本がいる工場から発進した大きめのワンボックスカーは、午後三時前に民家と青々とした田んぼが連なる片側一車線ほどの幅の生活道路の路肩に停車した。季節的に強くなってきていた日差しが道路を照り付ける暑さは、人々を家の中に押し込めているのか、ほとんど人通りが無かった。

 やがて、一台のバスが通り抜けて行くと、ワンボックスカーの中を満たしていた静けさが終わった。最初に声を発したのは、ルームミラーに映る背後のバス停の光景を注視していた運転手だった。


「来たぞ。

 同居している男も一緒だ」

「男の方は抵抗するようなら、殺してもかまわない」


 助手席の男が後部座席を振り返りながら言った時、スライドドアがゆっくりと開いた。


「行け!」


 その言葉で、車外に飛び出したのは赤銅色の肌を持つ二体の鋼鬼だった。


 赤銅色の肌にマッチョな鋼鬼の出現に、最初に気づいたのは結希だった。が、真はそれ以前から警戒感を抱いていた。


「あれ!」


 結希は数十m先に突然現れた鋼鬼に驚き、目を見開いて指さした。


「結希ちゃんは下がっていて」

「でも!」


 真が強いのは知ってはいても、鋼鬼と言う化け物を相手に勝てると言う確信を持てず、自分に真以上の力が秘められていると聞かされた事で、自分も何かしなければと言う気持ちになっていた結希の前に、真は出ると、両手を広げて、背後の結希をかばうような体勢をとった。

 そんな真を力で一気に事を決しようとしたのか、鋼鬼が真に向かって走り寄り始めた。

 数十mほど離れた位置から、鋼鬼たちはすぐに真の間合いに入って来た。

 結希の視界から一瞬真の背中が消えた。

 結希の視界に、真が次に映った時、真が突き出した二本の指が鋼鬼の目に突き刺さっていた。


「ぎゃあぁぁ」


 結希は真がこの世の生き物たちの認知レベルを超えた運動能力を使った事を直感すると共に、自分にあるはずのその力を呼び覚まそうと試した。

 男たちに襲われた時、確かにその力は発動した。

 あの時のように、自分の身に迫っている危機を心の奥底で膨らませた瞬間、目にも止まらぬ動きだった真がスローモーションのように移動している。

 力が発動している?

 それを確かめようと、結希が辺りを見渡した。


 目を潰された鋼鬼。さっきまで叫んでいた割には、この鋼鬼も目を手で押さえたまま叫ぶこと止めて、立ち止まったままだ。

 もう一体の鋼鬼は仲間の鋼鬼がやられたと言うのに、立ち止まったままだ。

 それも、真に襲い掛かるような体勢のまま。

 木々の葉もそよりと動いていない。

 結希の視界の中で動いているのが真だけだと言う事を認識した結希は、自分も力を発動している事を認識した。

 それはあまりにも動きの無い世界。

 最強かも知れないが、退屈な世界だった。

 それに耐えきれなくなった結希が力を止めた瞬間、もう一体の鋼鬼も真に目を潰されて、醜い声で叫んだ。


「痛てぇぇぇぇ」


 これが真と私が持つ作られた力の一つ。そんな事を思いながら、立ち尽くしている結希の腕を真は掴んで引っ張った。


「うぉぉぉぉ」

「どこだ、てめぇ!」


 目を潰され、視界を失った鋼鬼たちがどこここかまわず、殴るような素振りで暴れだした。


「どうするの?」


 街に出て来て暴れまわる狂犬的な鋼鬼をどうするのか真にたずねた。


「俺じゃあ、あいつらを倒せないしね。

 ただ、目が見えない段階で、攻撃力無くなったようなものだから、このままほっとくしかなくない?」

「そこかぁぁぁ」


 真の言葉に反応し、一体の鋼鬼が二人に向かってきたが、声がした方角を大雑把に把握して殴りかかって来ただけの敵なんて、真が言ったように攻撃力0であって、二人がするりとかわすと、そのまま道の端を通り越えて、田んぼに突っ込んで行った。

 その頃には、近くの民家の人たちが鋼鬼の姿におっかなびっくりの表情で、遠巻きにして被害が自分たちに及ばないかを確かめていた。

 鋼鬼たちを運んできたワンボックスカーに乗っていた者たちが、もはや作戦失敗と感じ始めた頃、パトカーのサイレンが聞こえ始めてきた。そして、近づくパトカーと入れ替わるように、ワンボックスカーは走り去って行った。


 視力を失ったとは言え、鋼鬼に無暗に接近すれば、その強力な破壊力の餌食になってしまうため、警察と共に集まって来た治安維持部隊がその強力な銃器を眼球だった部分に撃ちこみ二体とも仕留めて、この事件は終幕を迎えたのだが、殺害してしまったため、鋼鬼たちの目的は分からずじまいであった。



 この事件の一部始終はまた地方都市を騒がせたが、それ以上に衝撃を受けた者たちがいた。

 その一方は政府側の杉本と高山で、彼らが衝撃を受けたのは隠し撮りされていた真と鋼鬼たちの戦いの映像から推測された真の異常なまでの身体能力についてであり、もう一人は山本だった。山本たちは真の異常な身体能力を把握できていなかったが、いとも簡単に倒された事に衝撃を受けていた。

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