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Pandora(改稿版)  作者: あすか@お休み中
第3章:鋼鬼狩りの俺は最強剣士……かな
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鋼鬼に囲まれた中心で

 迫りくる鋼鬼たちの群れ。それは目の前の大きな壁のように、俺たちに圧力をかけてくる。

 そんな圧力にも負けじと進む俺たちの先頭は、土居だ。装備している武器は、俺たちの中で唯一の飛び道具とは言え、ただの人間であって、沢井や河原よりも戦闘力は低いし、弾切れなんて事や、接近戦になる事を想定したら、レーザーソードの俺よりも戦闘力は低い気もする。その事は本人だってわかっているはずだが、先頭を自ら歩むと言うのは、軍人として、この中、唯一の大人としての責任感からなんだろうか。

 そんな背中を見ていると、俺もやってやる! と言う気概がわいてくる。


 鋼鬼たちとの距離はもう数十mを切っている。

 俺達の背後は、静かなままで、囮になっている早川を襲いに敵が出てきた気配は無い。


「このままだと、ぶつかるしかないみたい。

 覚悟はしておいてね」


 鋼鬼との距離がさらに縮まった時、土居が言った。


「仕方ないわね。

 ちょっとでも、数を減らしておくわね」

「ちょっと待て!」


 沢井の言葉に、河原は制止しようとしたが、その言葉を聞くこともなく、沢井は姿を消した。

 その次の瞬間、前方の鋼鬼たちの壁から、血しぶきが上がった。

 目に見えない速さで、レーザーソードを振り回す超人の攻撃は、一瞬にして目の前の鋼鬼たちの壁に傷を与え、真っ赤に染めた。

 一瞬にして、何体の鋼鬼が真っ二つにされた事か。これなら、勝てるんじゃないか? と言う楽観した考えが浮かんでくる。

 が、倒された奥にも鋼鬼たちがひしめいていて、真っ二つにされた仲間の鋼鬼の肉体を踏み越えて、近づいてくる様子が見て取れた。

 崩された壁は瞬く間に修復される。そんな感じだ。


「仕方ないか」


 河原もそう言い残すと姿を消した。


「沢井さんたちの動きが見えないから、私が攻撃できないじゃない!」


 土居の不満げな言葉を聞きながら、俺もレーザーソードを構えて、鋼鬼の群れに襲い掛かった。

 一体、二体、三体と次々に鋼鬼たちを肉塊に破壊していく。

 その間、沢井と河原も鋼鬼を倒していく。が、俺たち三人合わせても、鋼鬼でできた壁の表面を削り取っているに過ぎない。次から次へと湧き出てくる鋼鬼。鋼鬼たちを殲滅するのと、俺たちの体力が消耗するのと、どちらが速いのか。消耗戦の行方に一抹の不安を感じずにいられない。


「真ぉぉぉ」


 そんな時だった。俺の背後から、早川が河原を呼ぶ声が耳に届いた。

 背後を振り返ると、目の前の鋼鬼に気を取られ過ぎていたが、横に大きく広がっていた鋼鬼の壁の左右は速度を速め、俺たちを取り込むように俺たちの背後に回り込もうとしていた。

 俺たちを取り囲み、殲滅する。そんな動きに俺達は、鋼鬼たちから離れ、中央に集まった。


「仕方ない。

 一度撤収しよう」


 土居が言った。その言葉にみんな同意するものと思っていたが、河原が拒否した。


「だめだ」


 状況が状況だけに、みんな戸惑いの視線を河原に向けた。


「やつらがまだ出てきていない。

 ここで、引き上げたら、作戦は失敗だ」

「でも、このままじゃあ、私たちが取り囲まれてしまうんだよ」

「それでも、奴らが出てくるまで、ここに残るべきだ。

 奴らをおびき出さなければ、俺たちが助かる確率は下がる」

「いや、それちょっと違うだろ。

 お前が助けたいのは、早川さんだけだろ?」


 俺が言ったそれは事実だと思う。沢井と土居は黙って、俺たちを見つめている。


「だが」


 俺はそこで言葉を止めた。言葉を続けていいか迷ったからだ。何しろ、その続きの言葉は俺達の身を危険にさらすことになるのだから。


「その気持ち、分からない訳じゃない。

 俺だって、命をかけても守りたい人はいた」


 そうだ。俺だって、詩織を守ってやりたかった。


「俺は、こいつとここに残るわ」


 半分諦め、半分は河原の気持ちに応える事で、あの時の後悔を吹っ切りたかったのかも知れない。

 俺の言葉に一瞬驚いたような顔をした沢井と土居だったが、沢井が言った。


「本当に男の子って、ばかなんだから」


 沢井の言葉に、土居が大きくため息をついてから言った。


「そんなところが、かわいいのかもね」


 沢井と土居が微笑あった後、頷き合った。


「私がいるかぎり、みんなは死なせないから」


 今度は表情を硬くして、土居が言った。


「奴らが出てきたら、一気に撤退するため、沢井さんはすぐに斬りこんで行って。

 その後を河原君と荒木君は、遅れずに続いて。

 私は背後を固めるから」


 土居が俺たちに続けて指示を出した頃には、退路も鋼鬼たちに埋められていた。鋼鬼でできたドーナツのぽっかりと開いた穴の中心で、お互い体を寄せ合い、敵の攻撃に備える。


 命がかかっていると言うのに、恐怖とは違ったものが、心の中を満たしている。

 さっきまで心の中にあった諦めでも、贖罪のような気持でもない。なんだか温かく、なんだか愛おしい、そしてなんだか満たされたような不思議な気持ち。

 熱くなる気持ちが、レーザーソードを握りしめる手に力を込めさせる。

 そんな時だった。鋼鬼たちの壁の向こうで、銃撃音が鳴り響いた。


「沢井さん、今よ!」


 土居の声が終わるか否かの時には、沢井の姿は俺の視界から消え去り、代わって鋼鬼たちの分厚い壁から真っ赤な鮮血が泉のように吹き上がり始めた。

 やってやる!

 そう決意して、駈け出そうとした時には、河原の姿も無かった。

 四人で、ここを切り抜ける。

 そんな思いで、俺も鋼鬼の壁に襲い掛かる俺の耳に、再び早川の声が届いた。


「真ぉぉぉ!」

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