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Pandora(改稿版)  作者: あすか@お休み中
第3章:鋼鬼狩りの俺は最強剣士……かな
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わな2

 公園に通じる道路を入った所で停車した車のフロントガラス越しに、迫りくる鋼鬼たちの群れを見ていた。


「結希ちゃんに危害を加える気はないはずだから、どこかで止まるはずだ」


 河原が言ったその言葉には根拠は少しはあるし、俺も信じたい。ここで、打って出たところで勝てるとは思えない。憎い鋼鬼とは言え、勝ち目のない戦いに挑むほど、俺もばかじゃない。


「病院の屋上にヘリが止まっているとしたら、それを奪うと言うのは?」

「手としては考えられるが、操縦するのは無理だな」

「でも、あの建物に逃げ込むと言うのは?」


 沢井がそう言った時だった。頭上から爆音が響き始めて来た。


「あれ!」


 そう言って、運転席に座っている上本が前方を指さした先に、近づいてくるヘリの姿があった。そのヘリは瞬く間に俺たちに近づいてきて、病院の建物の上空でホバリングしたかと思うと、ヘリポートに着陸したのか、ついさっきまでの騒がしい爆音を消し去った。


「俺たちの予想は半分当たっていたが、敵の手の内の半分は読めていなかったのかも知れない。

病院に飛び込むと言う選択肢を採るのは賢明ではないでしょうね」


 河原が独り言のように言った。


「なんで?」


 俺が口にしたかった言葉を早川がした。


「あのヘリはわざと俺たちに姿を見せたとしか言えない。

 つまり、俺たちを誘い込もうとしている」

「その通りだろうな。

 病院は個室が多いから」


 河原の言葉を補足した福原の言葉で、河原が言わんとしていた事が、分かった気がした。


「いくら、沢井や河原の動きが速くても、多くの個室の中に兵たちを忍ばせておけば、二人が全ての部屋を確認するのに時間はかかるので、そのすきを突いて俺たちから早川を連れ去れるって事だろ」


 最初から分かってた風を装って、俺が言葉を続けた。


「じゃあ、どうするんだよ?」


 武本が俺に向かって、たずねてきた。


「前面の鋼鬼の壁を強行突破するしかないかもな」

「あえて、わなの中に飛び込むと言うのはどう?」


 俺の言葉に土居が言った。


「いや、だから、あの中に入るのは賢明な選択じゃないだろ?」


 さっきの話を聞いていなかったのか? と言いたげなちょっときつい口調で返した。


「そうだな。

 わなと知らずに飛び込めば、わなの効果を発揮するが、わなと知って飛び込めば、それはわなじゃないと言うだな」


 福原が言った。


「どちらが成功の確率が高いと思うね?」


 福原は河原に視線を向けていた。


「建物の中は危険な賭けになるでしょうね。

 奴らの狙いは結希ちゃんじゃない」

「どう言う事?」


 予想外の河原の言葉に、沢井が俺と同じ疑問を口にした。


「やつらの狙いはその子じゃなく、その子の体の中のどこかに埋め込まれているICチップ。

 すなわち、体に損壊を与えなければ、死んでいてもいい。生きて捕まえる必要は無いと言う事だ」


 福原の言葉に、河原が頷いている。


「私も含めて、抹殺するために化学兵器とか、厄介なものを出してくるって事?」

「そこは分からないから、賭けになるんだ」


 沢井に河原が返した。


「その手の物を用意していないなら、まだ勝算がある。

 でも、その手の物を用意されていたなら、勝算は無い。

 俺は結希ちゃんの命を賭けに使えない」

「でも、前方の鋼鬼の壁を突破するのは困難だよ」


 そう言った沢井に、河原は視線を向けて、言葉を続けた。


「前方を攻めるなら、鋼鬼の全面まで俺達が押し出し、ここに残った結希ちゃんを男たちが襲って来るのを待つ。きっと、奴らの中の何人かは鋼鬼たちが嫌う超音波を発する装置をっているに違いない。男たちを退治して、鋼鬼たちが嫌う超音波を放つその装置を奪う」

「なるほど」


 そう頷いた福原の顔は、真剣に見える。軍を率いる福原も納得するくらいの策を出すくらいだから、もしかすると、この河原と言う人物は、この手の策略に長けているのかも知れない。


「でも、俺はそれもやらない」


 河原の意見で、流れが決まりかけていたと言うのに、河原自らが突如否定的な発言をした。

 その裏にもっと深い考えがあるのか? そんな思いで見つめていると、とんでもない言葉を河原は続けた。


「俺と結希ちゃんだけなら、この車を捨て、逃げ出すことができる。

 これが一番成功する確率が高い。いや、100%逃げ出せる」


 どうやら、この男は自分と早川の事しか考えていないらしい。まあ、好きな子をなんとしても守りたいと言う気持ちは分からないでもないが、この状況では身勝手すぎる。

 そう思っているのは、俺だけじゃなさそうだ。沢井も土居も、福原さえも唖然とした顔つきで、河原を見ている。


「それは間違っている」


 河原のあまりにも身勝手な発言をどう受け止めていいのか戸惑う俺たちの中、はっきりと否定してみせたのは早川だった。


「たとえ、ここから二人だけ生き残ったとして、どうする気なの?」

「また二人で暮らせばいいじゃないか」

「隠れるようにこそこそ暮らして、それが本当に生きているって事なの?

 みんなが自由に生きられる元の世界を取り戻さなければ、生きているって事にならないと思うの」

「だよねぇ。

 たとえ、その日々がつらい事があったりしても、楽しい事もあるし。

 今のままじゃあ、心底楽しい生活にはならないもんね」


 早川の言葉に沢井が口を挟んできた。


「それに、みんなで生き残って力を合わせる事で、最後まで生き残れる確率は上がるんだと思うの。

 ともかく、元の世界を取り戻すためにも、みんなで一緒に桐谷さんのところに行こう!」

「じゃあ、そう言う事で。

 私は行くから!」


 話の流れをそのまま一気に決しようとしてか、沢井がレーザーソードを握りしめながら、ドアノブに手をかけた。


「分かったよ。

 だったら、ゆっくり前進だ。

 そして、結希ちゃんは車の横で、敵に姿をさらしておいてほしい」

「危険じゃないのか?」


 あれだけ、この子の安全にこだわっていた河原の意外な言葉に、俺は突っ込まずにいられなかった。


「早く敵が私に襲い掛かって来るようにって事だよね?」

「そのとおりだ」

「でも、それより私も戦った方がよくないのかな?」

「結希ちゃんは何もするな」

「もし、彼女が超人だとしても」


 この子が何かの力を持っているのではないか、と言う俺と同じ思いだったらしい沢井が、言葉を挟んできた。


「あの数の鋼鬼を打ち破るのは難しいと思うの」

「結希ちゃんは超人じゃないっ!」


 沢井の仮にの話も、河原は即否定してきた。俺的には図星を突かれたとしか思えやしない。

 桐谷を過去から知っているのだから、その可能性は結構あるだろう。


「土居、君も出てくれ。

 軍服を着ているから、君がターゲットでない事はかるとは思うが、念のためだ。

 彼女以外の女性は全て前に出てくれないか」

「分かりました」


 いつになく、土居の顔はきりりと引き締まっている。超人二人でも勝てそうにない数の鋼鬼たちを相手に参戦する覚悟が、その顔つきに現れているのだろう。


「行くよ!」


 土居はそう言うと、一番に車外に出て行った。

 遅れまいと沢井が、半分仕方なしかも知れないが、今は大切な早川を守るため、引き締まった表情で、河原も車外に出て行った。

 当然、俺たちも出た。


 ゆっくりと近づいてくる鋼鬼たちの群れ。それに負けず劣らずのゆっくりとした速度で、俺たちも近づいて行く。


「武本君。

 これを君に渡しておく。

 敵を倒せとは言わないが、私たちも君の身の安全を守る余裕がなくなるかも知れない。

 いざと言う時は、これを使ってくれ」


 福原の言葉に振り返ると、車内の武本に銃を福原が手渡していた。

 そして、車の前に立つ早川は、両手を胸の辺りで握りしめ、俺たちの無事を祈っているかのようだった。


「詩織。この世から、鋼鬼を消し去ってみせるから」


 心の中でそう呟き、この戦いを生き抜く決意で、レーザーソードを起動した。

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