鋼鬼を操る音
話はついた。渋々だが、河原も桐谷の所に行くことを承諾した。正確には、河原はどうでもよく、早川結希さえ来てもらえばいいのだが、この二人は一緒に暮らす間がららしいから、河原の承諾も必要となる。そこは俺的には気に入らないのが、正直なところだ。
細い道を通って、山を抜けて行く。
UNを語る大陸の軍の新手は、今のところ現れていないが、この先の町の状況は分からない。
が、それも、もうすぐ明らかになる。
先頭を行く沢井が急に立ち止まった。
「どうした?」
すぐ後ろの福原が言った。
「何かが聞こえた気がして」
そう言って小首を傾げた後、それを自分で否定した。
「気のせいかな」
そう言って、歩き出した沢井の前に二人の幼女が現れた。
「助けてぇぇぇ」
一人はそのまま沢井に抱きついた。もう一人は福原や俺の横をすり抜けて、早川に抱きついた。
「男は嫌ってかぁ?」
「まだ子供だからな」
武本の言葉に俺が返した。
「何があったの?」
沢井が女の子に聞いた。
「安全な場所を探していたら、鋼鬼に襲われて、お父さんが……」
その言葉に、沢井が女の子を抱きしめた。
「大丈夫。大丈夫だからね」
福原が沢井の横を抜け、細い道の先の様子を見に行った。
そこには夥しい鋼鬼の姿があり、なぜだか彷徨うと言うより、俺たちの方向を取り囲むようにして、ゆっくりと近づいてきていた。
「修君、沢井さん」
福原の言葉には緊張感が溢れていた。さっきの兵たちより、危機と言う感じだ。
鋼鬼たちと戦う事を想定していなかった福原が、九州から引き連れて来た兵たちも連れていないのが、まずった感じだ。
「ごめんね。ちょっと離れてくれるかな?」
「嫌、嫌、嫌!」
沢井の言葉に、女の子は絶叫気味で、さらにぎゅっと抱きついた感がある。
「俺も行くよ」
河原はそう言うと、ペンのような物をポケットから取り出して、構えた。
「いけるか?」
福原が俺たちにたずねた。
「彼がどこまでやれるか次第だろうね」
河原が俺に視線を向けながら言った。俺的には挑発された気分だ。
「その言葉、そのまま返すよ」
そう俺が言い終えた時には、河原の姿は無かった。超人ではないが、超人並みの運動能力を持っているらしい。
はっきり言って、河原の力は反則みたいなものだが、俺だって負けていられない。
レーザーソードを起動して、鋼鬼の群れに突っ込んでいく。
俺の過ちを切り裂く。
詩織の仇をうつ。
元の世界を取り戻すため、間違った今を切り裂く。
ふと、河原の戦いが気になって、ふり返って見ると、さすがは反則級の超人並みの力だけあって、河原が向かって行った方は、鋼鬼の屍が累々と転がっていて、その数は恐ろしい速度で増え続けていた。
「俺だって!」
そんな思いで、速度を上げる。
数が多い分、俺の目の前でも、鋼鬼の屍が積みあがって行く。
が、数が多すぎた分、ちょっと雑になったのかも知れない。肉体を分断されても死ねない鋼鬼が、俺の足首を掴んだ。力を込めなかったのか、込めても破損した肉体ではそれが限界だったのかは知れないが、俺の足は破壊されずにすんだ。
下に目を向け、その鋼鬼の脳天にレーザーソードを突き刺し、とどめを刺すと、再び別の鋼鬼に襲い掛かった。
やがて、鋼鬼との戦いは俺たちの圧勝で幕を閉じた。
「なんで、鋼鬼がこんなに集結したんだ?」
福原の言葉の答えなんて、誰も持っちゃあいない。そんな事を思いながら目を向けた河原は、遠くを凝視していた。
なんだ?
そんな思いで、河原が見ているところに目を向けたが、何を見ているのか、さっぱり分からない。
「終わったの?」
女の子の言葉に、女の子二人がいた事を思い出した。
「終わったよ」
沢井が優しく言ったのに、なぜだか女の子はさっき以上に震えている感じで、沢井から離れると、俺たちに背を向けて駆け出し始めた。早川に抱きついていた女の子もだ。
「どうしたの?
危ないから」
そう言って、女の子たちを追いかけようとした沢井を河原は腕を持って引き留めた。
「なに?」
「聞こえるだろ?」
「えっ?
何、この嫌な音。
さっきもした気がしたんだけど」
「音なんて、全然聞こえないが」
福原が言った言葉に、俺も頷いた。
「超人の力を使っている時だけ、聞こえるんだ。
たぶん、超音波だ。
知らなかったが、鋼鬼もおそらく聴力部分に超人に似た特性を持たせているんだろう」
「それは、そうとして。
あの子たちを追わないのと、どう言う関係があるんだ」
河原の仮説が正しいかどうかは分からないが、俺は女の子の事が気になっていた。
「あの子たちからも、小さな音がしていた。
あの子たちはただの女の子じゃなくて、沢井さんと結希ちゃんを鋼鬼から守るために、ここにこさされたんだ」
「じゃあ、奴らの仲間?」
「仲間かどうかは分からないが、奴らの指示があったのは確かだろうな」
「と言う事は、やはり俺たちの行動を敵に漏らした奴がいると言う事だな。
でも、どうして、その敵が沢井さんたちを守ろうとしたんだ?」
俺の問いに対する答えを持っていないらしく、黙り込んでいる河原に代わって、福原が言った。
「考えられることは、狙いはその子の指に埋め込まれているチップであり、鋼鬼たちの餌食となって破壊されてしまう事を避けようとしたと言うところだろうな」
「としたら、どうして沢井さんにも?」
「相手は、目標の人物が若い女の子だと言う事は知っていても、早川さんの顔までは知らないと言うことだろう」
「そこに、俺たちの情報を売った奴の正体を探るヒントがあると言う事か。
もしかすると、そいつがフーバー?」
俺の怒りが向かうべき矛先の一人の手掛かりに、俺の拳に力がこもった。