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第五話 九月一日 一人だけのブレックファースト

まぁ、いろいろあって予定遅れて一日開きましたww

「ぬあ!」

もう少しで触れる、そう思うと同時に、眼を開け、その場から飛びのいた。

既に、僕の眼が捉えている世界は、先ほどまであった豪奢で煌びやかな物ではなく、普段良く眼にする世界。

いつも、僕が過ごす世界。

そう、自分の部屋が写っている。

カーテンの脇から陽光がわずかながらも差し、ベッドを照らしている。

そして、そのベッドの上には

「あいたたたた」

姫がいた。

ただ、その姫もまた、先ほどとは違い、しっかりと服を着ている。

つまり、先ほどまで見ていた物は、夢、と言う事。

まぁ、だいたい、キャラが違いすぎるのだから、すぐに分かる事だろう。

あんなキザったい台詞や、いかにも女性慣れしてますよ、と言わんばかりの仕草のどれを取っても、僕には繋がらない。

と言うよりも、僕の本当の姿と全く逆方向に向かっている。

「もう、女の子には優しくしなさいよね」

ベッドで打ちつけてしまったのだろう。しばらく、頭をさすっていた彼女が、ぼやきながら、ベッドから降りてくる。

「なら、寝込みを襲うのは止めて欲しいものだね」

けれど、言わせてもらえば、それは自業自得。

彼女が性懲りもなく、眠っている僕にちょっかいを出すからそうなるのだ。

一応、僕は寝るときにも簡易結界をはっている。

もちろん、僕程度の力では、彼女の事を近づけさせないような事は出来ないし、眠っているのだから、意思の力が働かず、結界自体の効力も弱くなってしまう。

けれど、その代わりと言ってはなんだが、その結界に触れた途端に、眼が覚める。

どうも、僕のはっている結界は、僕自身に直結しているらしく、それに触れられると、まるで、自分の身体を触れられたように感じるため、眼が覚めてしまうのだ。

そして、眠りが浅いとき、つまり、人が夢を見るようなタイミングで、結界を触れる、または越えた場合は、夢にも影響を与えるのだ。

もちろん、あんな場面は年頃の僕にしてみれば、心臓に悪いし、彼女が結界に触れるたびに眼が覚めるのだ。

正直勘弁して欲しい事なのだが、

「由貴が隙を見せるのが悪いのよ」

目の前にいる女性は、悪びれることなく、あっさりとそう答えてくれる。

全く、悪いともなんとも思っていないのだろう。

まぁ、悪いと思っていれば、僕に憑いたり、迫って来たりなんてしないだろう。

きっと、言うだけ無駄なのだ。

「……さっさと着替えるか」

内心でため息をつくと、服に手をかける。

すぐ傍に、姫がいるけど、気にしない事にする。

どうせ、出て言ってくれ、と言ったところで聞いてくれない事は承知済みの事。

以前、かなり口を酸っぱくして言ったときも全く聞いてくれなかったのだ。

なら、言うだけ無駄と言う事だろう。

こと彼女の事に関しては、もう無駄な事はしたくない。

と言うよりも、そんな事をする余裕なんてない、と言うのが正しいところなんだろうけども。

前日の内にハンガーにかけておいた制服に袖を通すと、部屋を出る。

それに習うようにして、彼女も僕に付いて出てくる。

もちろん、姿は消して、である。

階下に降り、ダイニングに向かう。

けれど、そこには、朝食どころか、母親の姿すらない。

まぁ、今日は始業式。

午前中で終わってしまうため、弁当はいらない。

おまけに、母は低血圧のため、朝に非常に弱く、なかなか起きられない。

つまり、お弁当の準備をしないでいいんだから、ついでに朝食の準備だってしなくてもいいだろうと考え、完全にベッドの中ですやすやとお休み中なのだ。

まぁ、だからと言って、普通に弁当がいる日に、朝食を作ってくれているのかと言うと、そういうわけでもなく、パンや朝食の材料に、インスタントのスープ類があるのだから、自分でどうにかしろ、と、完全に僕任せにしている。

とはいえ、僕とて、そんなに料理がうまいわけでもなければ、作る事に生きがいを感じているような人間でもないので、たいていは、パンとインスタントコーヒーですませてしまう。

まぁ、そのせいで、三限目あたりで、お腹の虫が鳴りだしてしまうけれども。

それはさておき、壁にかけてある時計を見る。

部屋を出る際に、時計を全く見ずに来てしまったため、時刻が全く分からない。

目覚ましなんかをかけていれば、まだ、見る機会もあるだろうが、残念ながら、そんな物は、僕の部屋にはないし、それ以前にかけない。

かけるだけ、無駄なのだ。

姫がちょっかいを出してくるせいで、目覚ましが鳴るよりも早く、眼が覚めてしまうのだ。

そう言う意味では、彼女のちょっかいも少しぐらい感謝してやってもいいんじゃないか、と思うかもしれないが、それをやられるのが早朝なのだ。

ただでさえ、彼女のせいで寝付くのが遅いのに、そんなに早く起こされては、まともに休む事が出来ない。

案の定、今日もまた時計を見てみれば、針は六時を差している。

高校は、八時半までに登校すれば良く、距離的に見ても非常に近いため、歩きでも十分程度で付いてしまう。

そのため、七時過ぎに起きても十分に間に合う。

だというのに、こんな早い時間に起こされると、逆にすることがなく、暇をもてあます事になるため、彼女のやっている事は非常に迷惑なのだ。

だからと言って、文句を言ったところで、素直に言う事を聞く彼女でもないのだから、何も言えない。

それなら、無駄に労力を使うよりも、もっと別に使うべきだろう。

彼女のせいで、時間はいくらでもありまっているのだ。

冷蔵庫を開けて、中身をチェックする。

とはいえ、朝の早い時間にやる事なんて限られる。

せいぜい、朝食作りぐらいだ。

けれど、大した腕をしてるわけでもない僕なのだ、当然作れる物は限られている。

冷蔵庫の中から、卵とベーコンを取り出すと、閉める。

この材料で分かる通り、作るのはベーコンエッグだ。

それに、食パンとインスタントスープとインスタントコーヒーをつけておしまいだ。

インスタントが多いような気がするが、インスタントじゃないと作れないのだから、どうしようもない。

もちろん、エプロンを着ておく事も忘れない。

油とかがはねて、制服が汚れでもしたら、きっと母に小言を言われてしまう。

食パンをトースターに入れて、タイマーをセットし、ガスコンロに火をつけ、フライパンを暖め、温まったところで、油を入れ、フライパン全体になじませる。

それに、合わせて、卵をフライパンの上で割り、僕は半熟で片面焼き派のため、少量の水を入れて、ふたをする。

しばらく、待った後、ふたを開けると、水蒸気が、ぱあっ、と視界に広がる。

朝とは言え、まだまだ暑さの残るこの時期に、熱い水蒸気を浴びるのは少々辛いが、我慢するしかないだろう。

水蒸気が全部飛んだところで、蒸らしている間に取ってきた皿に、目玉焼きを盛り、ガスコンロのスイッチは切り、ベーコンは余熱で温める。

かりかりのベーコンも好きなのは好きだが、少々柔らかさが残ったベーコンも割りと好きなのだ。

まぁ、ベーコン好きが聞いたら、邪道だ、と叫ばれるかもしれないが、それでも、僕はそれが好きなのだ。

それはさておき、コーヒーカップとマグカップをそれぞれ出すと、それぞれに合った物を入れ、お湯を注ぐ。

それと同時に、それなりに芳しい匂いが鼻腔を掠める。

安価なものだけれども、それでも、大して肥えていない僕の舌を満足させるには十分なものだ。

チーン

そして、そうこうしている間に、どうやら、トーストの方も焼けたらしく、トースターの小気味いい軽快な音が鳴った。

それを取り出すと、マーガリンを塗る。

ジャムとかもいいけど、あれだと少々しんなりとしすぎる。

やっぱり、トーストは、芳ばしい香りにさくさくとした食感をしてないと食べた気にはならない。

「いただきます」

それら全てを準備し終えると、エプロンを脱ぎ、元の場所に戻し、席に付き、そう言って手を合わせてから、朝食を取り始める。

なんだか、その動作は子供っぽく見えるが、昔からやっているため、どうしても抜けないのだ。

まぁ、食卓での行儀を考えると当然の事と言えば当然の事なのだが。

「ねえ、私には何もないの?」

トーストにかじりついたところで、不意に隣に浮かんでいる彼女がそう尋ねる。

僕が朝食を食べようとしている姿を見て、彼女もまたお腹がすいたのだろう。

まぁ、かれこれ僕に憑いてから何も食べていないのだ、その状態で、目の前で何か食べられていたら、そう思ってしまってもしかたないだろう。

「ない」

だからと言って、彼女に出すものは、やはりない。

普通に人が食べるものじゃ、飢えがしのげるわけでもないし、だからと言って、魂なんて物をやるつもりは毛頭ない。

それに、別に彼女は何かを食べなければ消えてしまうと言うわけでもない。

あくまで、彼女にエネルギーが必要なのは、実体化するためだけの事であって、霊として存在するには必要ない。

よって、僕が彼女の餌になってやる必要もないと言うわけだ。

まぁ、例え、消えてしまうとしても、餌になってやるつもりはない。

せっかく、邪魔者が消えてくれる絶好の機会なのだ、見逃す手はないだろう。

ただし、そうなれば、彼女もまた、かなり手段を選ばないようになるかもしれない。

自分が消えてしまうのだ。彼女もなりふりかまわなくなるだろう。

そう考えると、今の状態で助かったのかもしれない。

呑気にそんな事を考えながら、朝食の続きを再開する。

なんだかんだ言って、かなりきつい状況ながらも、少々の救いはあるみたいだ。

不幸中の幸いと言うのはこの事なのだろう。

ただ、やはり釈然としないものは心に残るが。

「むー、けち。いいじゃん、少しぐらい」

いまだ隣でふわふわと浮いていた彼女が、恨めしげな目をしながら、僕の頬をつつく。

どうやら、少し拗ねているのだろうが、そんなものは無視してもかまわないだろう。

下手にかまって、迫られたらたまったものじゃない。

とは言え、それにしても、彼女もまた器用な事をしてくれる。

実体化していなければ、もちろん、彼女は僕に触れる事は出来ない。

そのため、僕の頬をつつくために、わざわざ指だけを実体化している。

ただ、まだ僕は彼女が視えるから、かまわないかもしれないけれど、もし、視えない人が見たら、卒倒物だ。

空中に指だけが浮いて見えるのだから、怪奇現象以外なんでもないだろう。

それを考えたら、すぐさまやめさせるべきなんだろうが、幸い、まだ誰も起きていないし、目下のところ、彼女の事は無視する方向。

なら、言う必要もないだろう。

せめて、食事の時間の時だけは静かにしたい。

もちろん、にぎやかなのも嫌いなわけじゃないけど、彼女との場合は、にぎやかではなく、騒がしいのであって、疲れるだけだから、その範疇には入らないだろう。


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