エピローグ
「相変わらず、暑いな」
夏の暑さはまだまだ残っているのか、日がもうそろそろ落ちると言うのに、身体中から汗が吹き出している。
「ふーん、たいへんね」
そんな僕とは対照的に、隣にいる姫は、汗一つかいておらず、呑気な表情をしている。
霊である姫は、実体化していなければ、熱かろうと寒かろうと、関係ない。
霊だから、と言ってしまえば、おしまいだけど、正直ちょっとだけ羨ましい。
夕暮れ時の空は、茜色に染まり、その光を受けている僕達自身もまた、茜色に染まっている。
今日の僕達は、ちょっとしたお出かけをしていた。
一応、名目上はデートとなっていたんだけど、実際は、志穂の家に行って来ただけの事。
昨日の今日だけれども、自分が出した答えを、志穂のお父さんに言いに行ってきたのだ。
そのついでに、姫を紹介しておいた。
もちろん、そんなところにつれていけば、姫の身に何か起きるかもしれない。
姫だって、あんな危険なところに行きたがらないかもしれない。
それでも、連れていったのは、逃げるような事はしたくなかったから。
切り捨てる事も、一般人でなくなる事も、覚悟を決める事も出来ないけれど、それでも、決めた以上、その答えからは逃げたくなかった。
認めてもらわないといけないと思った。
だから、連れていったのだ。
もちろん、決めた以上は、もし反対されたとしても、僕の事を無視して、強硬手段に出たとしても、しっかりと自分の意思を貫き、姫の事を守るつもりでもいた。
まあ、実際は、反対されるような事はなかったけれども。
こっちの方が拍子抜けるほど、あっさりと快諾してくれた。
それどころか、
「うん、いろいろと苦労するだろうが、志穂共々三人で仲良く楽しくやってくれたまえ」
穏やかに笑みを浮かべながら、応援までしてくれたのだ。
そこまで言ったところで、なんとなくだけど、彼の気持ちが分かったような気がする。
たぶん、試したんだと思う。
それは、別に僕が何を選ぶか、ではない。
もし、どんな答えでも、僕が悩み、しっかりと考えた結果として出てきたものなら、彼は何も言わなかったと思う。
ただ、彼が見たかったのは、僕の姿勢。
何を大切に思い、何を守りたいと思い、何を選ぶのか。
そして、その時の態度はどんなものなのか。
それを見たかっただけなんだと思う。
相変わらず、空は赤い。
ただ、逆方向を見てみれば、すでに、少しずつ色は闇色に近づいている。
夜は霊の時間。
闇の濃い時間帯は、僕のような一般人では、耐えられない恐怖の時間。
それが、昨日の体験で良く分かった。
だけど、その日は、それ以上にもっと大切な事を知る事が出来た。
僕の弱さと気持ち、願い、望み。
僕が大切にしようとしている価値観。
そして、
「ねえ、姫。夏休みのあの日。初めて会った日だけど、僕に憑いたのは、気まぐれでも何でもなく、ただ、守ろうとしてくれたんだろう?いつものように」
姫の事。
あれから、何度も考えていた。
強く、たちの悪い霊がたくさんいるはずなのに、寄ってこなかったのか。
どうして、姫が僕に憑いたのか。
なぜ、きまぐれのような感覚で憑いたはずなのに、志穂と奪い合いのような事をしたのか。
そして、あの時感じた嫌な感触の正体。
一杯一杯考えて、そして出てきた答え。
姫が僕を守って居てくれていた、それだった。
姫と初めて会った時と昨日のあの異形の霊が出た時。
あの二つの雰囲気は、本当にそっくり、と言うよりも、そのままだった。
全く、同じ存在の出現。
そう考えたほうがしっくり来るぐらいだったのだ。
「あら、ばれちゃった?まあ、由貴の言う通りよ。見てて危なっかしいから、眼が離せなかったのよ」
それを彼女は頷く。
今まで隠してきた事が、ばれたのだ。
しかも、人に知られたら恥ずかしい類の話しなのだ、照れたり、否定したりする場面だろうに、彼女はどこか嬉しそうにしている。
そう言えば、志穂の時もそうだった気がした。
隠している事。
人には話したくない恥ずかしい話。
なのに、それが、僕にばれた時、僕が感づいた時、その事を嬉しそうにしていたい。
やはり、女の子は分からない。
いったい、どういう精神構造をしていると言うのだろうか。
「ホント、危なっかしすぎるのよ、あなたは。もう少し気をつけるのよ?もう二度とあんなのはごめんだからね」
「分かってる。あそこには、もう行かない」
それが不思議で、出来れば、聞いてみたいのだけれども、あえて聞かない。
たぶん、聞いたって、分かんないし、それになにより、
「とりあえず、また、新しく涼めるところを探すよ」
今は、呑気な話をずっとしていたい。
そう思うから。
一応、これで終了です。
終了ですが、まぁ、始まりといえば始まりです。
なので作者のやる気と要望があれば続きを書こうかなと思います。
お付き合いありがとうございましたww