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第十話 九月一日 相方な後輩

退屈な始業式も無事終わり、学校は放課となった。

周りの生徒は散り散りになって、教室で友人と話したり、恋人とこれからのデートの予定を話し合ったりと、各々好きな事をしている。

そんな中、僕は、一人静かに、廊下を歩いていた。

とはいえ、だからと言って、そのまま帰るわけではない。

姫の事が心配と言うか、心残りと言うか、早く帰らなかったら、いったいどうなるのかが、怖いけど、このまま帰るわけにもいかない。

視線を上げる、ドアの上にあるプレートを見ると

『図書閲覧室』

そう書かれていた。

図書閲覧室、つまりは図書室。

僕の用事とはこれ。

実は、僕は、図書委員に入っている。

とは言っても、自分で立候補したのではなく、他薦で、推薦したのは、誠次。

しかも、その推薦理由が、

『ほら、由貴って、なんとなく図書室が似合いそうな雰囲気だろ。それに、白雪姫だって本が好きだったじゃないか』

そんなわけのわからない物なのだ。

だいたい、白雪姫が、本が好きだなんて、聞いた事ない。

もしかしないでも、『不思議の国のアリス』と、ごちゃ混ぜにして、適当に言っただけなのだろう。

とはいえ、誰だって、委員会にはいるなんて、面倒な事はしたくないのだろう。そんな適当な理由に頷き、僕に無理やり押し付けたのだ。

さて、そんな、僕が図書委員になった時の昔話はいいとして、中に入る。

中央にはいくつかの大きな机があり、そこにはすでに数人の人が集まっている。

「おはよう。それともこんにちは、かな?」

その中にいる一人の少女の隣に腰掛けると、挨拶をする。

良く見知った人物。

と言うよりも、今朝、学校に来た時に、誠次が言っていた、いつも一緒にいる後輩だ。

彼女の名前は、鈴原志穂。

後輩と言うだけあって、僕の一つ下で、現在高校一年生。

もちろん、図書室にいるのだから、彼女も当然図書委員で、そもそも、僕と彼女が知り合ったのも、同じ図書委員だったから、という理由なのだ。

「時間的には微妙ですね。でも、まぁ、こんにちは、でいいんじゃないですか?それなら、ある程度誤魔化しがききますし」

その後輩は、くすくす、と笑いながら、そう答える。

まぁ、確かに彼女の言う通り、こんにちはならある程度誤魔化しが効くだろう。

おはよう、とか、こんばんは、それにおやすみ、とかは、時間限定なところがあるけれど、こんにちは、には、厳密な時間の決まりはないし、ある程度、大まかに出来る。

「そうだな。んじゃ、改めましてこんにちは」

「はい、こんにちは、先輩」

そして、改めて挨拶をしなおし、それと同時にお互いくすくすと笑い出す。

わざわざする必要なんてないのだが、まぁ、ここらへんは単なる遊びだ。

彼女はのりがいいので、こういう言葉遊びみたいな事はしょっちゅうやっているし、それがまた、本当に楽しいのだ。

我ながら良い相方を見つけたと思う。

まぁ、相方といったところで、漫才を始めるわけではないし、そんな独特なのりが通じ合えるから、周りに誤解されるのだろうけれど。

「そう言えば、先輩は夏休み、どうでしたか?」

ひとしきり笑いあった後、彼女は、いまだ表情に笑顔を残しながら、問いかけてきた。

彼女と最後に会ったのは、七月の末。つまり、一月以上あっていない事になる。

「うーん、まあ、いつもどおり、かな?」

夏休みの事を思いだしながら、そう答える。

姫のせいで、心休まるときはないし、今にも発狂しそうだったのは確かだったけれど、霊が僕に憑いたり、その霊が悪さをしてくるのは日常茶飯事の事。

そう考えるといつもどおりと言えばいつも通りと言えなくはないのだ。

まぁ、それが日常だなんて、あまり嬉しいとは思えないが。

「やっぱり、そうですか。ごめんなさいね」

彼女も、僕の言葉の裏を読み取ったのだろう、申し訳なさそうに返す。

確かに、彼女が一緒にいれば、僕があの場所で、姫に憑かれるような事はなかったかもしれないし、例え、憑かれたとしても、彼女の力で、祓う事だってできたかもしれない。

「いや、構わないよ。それより、そう言えば、夏休みはどうだった?確か、旅行に行ってたんだよな?」

だけど、だからと言って、彼女が悪いわけではない。

あくまでも、霊を呼びやすいのは、僕の体質のせいであって、彼女のせいではない。

それに、好意で祓ってくれているのだから、感謝こそすれど、非難するのは間違いだし、彼女に責任を押し付けるのは、問題外だ。

「……旅行、ですか?」

だから、さっさと話を変えてしまおうと思ったのだが、彼女は何の事だが分かっていない様子。

まあ、それも仕方ないのかもしれない。

実際には、彼女は旅行には行っていないのだから、思い当たる節がないのは当然の事。

ただ、ここは学校で、周りには人がいるため本当の事を言えない。

「そう、旅行。八月にはいると同時に行った旅行」

「……ああ、あれですか。はい、そうですね。確かに、旅行に行きました」

そのため、今度は、少しだけ言い方を変えてみたのだが、どうやら今度は理解できたらしい。

実際に彼女が行ったのは旅行ではなく、修行。

奥秩父に両親に連れられて山篭りしてきたのだ。

だから、さっき、僕の事で彼女がすまなさそうにしていたが、どうしようもなかったのだ。

彼女には彼女の用事があったのだ。

まさか、その修行をやめろ、なんていえないし、言うわけにはいかないだろう。

こんなに良くしてもらっているのだ、これ以上わがまま言うわけにはいかない。

それこそ、そんな事をしたら、姫の仲間入りじゃないか。

どんな事があっても、それだけは、お断りだ。

「で、どうだったの、その旅行?」

修行のための山篭り。

当然、僕みたいな一般人はやったことないから、どんなものか分からない。

以前は、滝に打たれたり、断食をしたり、お経を唱えたりするものだと思っていたのだけれども、あっさりそれは彼女に否定された。

昔ならいざ知らず、現代では滝で打たれたり、断食をしたりはしないらしい。

それらは、そもそも邪念を祓ったり、身体を浄化させるためにあるらしく、単に修行をするのなら、そんな事はする必要はないらしい。

「はい、充実したものでしたよ」

そのため少々気になるのだが、どうやら良いものだったらしい。

そう答える彼女の顔は本当にいきいきしていて、その言葉にはどこにも嘘がないのが良く分かる。

「そう良かったね」

言葉どおりそれなら良かったと思う。

無事に楽しく出来たのなら最高だろう。

まあ、嫌な雰囲気を払拭できた事も、良かったと思っているけど。

人の事を、自分の事以上に心配する、彼女の優しいところは、本当に良いところだと思うけど、そのせいで、暗い雰囲気になるのは嫌だし、やっぱり、せっかく一緒にいるのだから、楽しく話したいし、彼女には笑っていて欲しい。

なんて、そんなふうに思っているのが、誠次にばれたら、それこそ、本当に勘違いされそうだが、それが僕の偽らざる気持ちだし、それに何より、やっぱり友人だろうと誰だろうと、やっぱり話している時は、笑ってもらいたいと思うのは、誰だって同じだと思う。

「はい、そろそろ委員会を始めます」

カウンターからそう言う声がした。

二人して、視線をカウンターに持っていくと、そこには司書の先生の姿があり、周りを見てみれば、すっかり人はそろっている。

どうやら、彼女と話している間に、集まっていたみたいだ。

もう少し、いろいろと話していたいが、さすがに話し合いの時まで話すわけにはいかないだろう。

「んじゃ、後で、もう少し詳しく聞かせてくれる?」

また、話し合いが終わった後にでも、ゆっくりと話せば良いだけの事。

わざわざ、こそこそ隠れて話す必要もない。

時間はたっぷりとあるんだ。

それに、その時ならば、変に取り繕ったような話し方をしなくてもいいだろうから、もっと気楽に詳しく話せると思う。

「はい、そうですね」

彼女も、それに頷いたので、ここで僕達は一旦会話を終えると、二人そろって委員会に参加した。



とりあえず、ここに来て、ようやく主要登場人物が勢ぞろい。

長かったなぁ……

しかも、この時点で、もうそろそろで物語の折り返し地点になるわけですけどね。

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