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第6話 ブルースのうまれた理由

「ねぇ、1つ聞いていい?」

「ん?」

「さっきの写真のお兄さん、どうして隠したの?」


私が聞くと、ブルースは眉間にしわを寄せてわざとらしくため息をついた。


そりゃ言いたくないのかもしれないってことぐらい私にだってわかるけど、気になっちゃうよ!


「・・・似てなかっただろ」

「へ?ちょっと似てたと想うんだけど・・・」


私が言うと、ブルースは驚いたように口をぽかんと開けた。


「・・・似てるなんて初めて言われた気がする」


あれれ?


もしかして、顔が赤い?


気のせいかブルースの顔は少し赤いみたいだった。


嬉しいとか?


「俺と兄貴は全然似てないんだ。外見はともかく内面が特に。」

「好みが違うとか?」

「それだけならまだいいよ。全部が違うんだ」


ブルースはまた眉間にしわを寄せる。


それから少しだけ下を向いた。


「兄貴にできないことなんてなかったんだよ。絶対・・・」


ブルースは机の中からさっきとは違う写真を出して私に渡した。


そこには色鮮やかなシャツと半ズボンを着たブルースとお兄さんがいた。


「それ、知ってる?テニスウェアっていうんだけど」

「てにすうぇあ?」

「・・・テニスっていうスポーツがあんだ。それを兄弟でしてて・・・兄貴に勝ったことなんて1回もなかった」


ブルースは小さくため息をつくと床に座り込んだ。


私の目は見ないで、真下の床を見つめていた。


床と喋ってるわけじゃないのに。


「勉強も・・・・・・女も 絶対兄貴には敵わなかった」

「女?」

「俺が好きになる女、全部兄貴のこと好きなんだよ」

「うわ・・・」


思わず言うと、ブルースは苦笑した。


やっぱり私のほうは見なかったけど。


「・・・家にいるのがいつも辛かったんだよ。『完成した自分』がそこにいるから・・・」


完成した自分?


私にはよく意味がわからなかった。


だって自分は自分で、完成とかないんじゃないの?


人間って完成するものなの?


「・・・それに・・・中学卒業して、高校に入る時に知ったんだ」

「何を?」

「俺は兄貴のためにうまれてきたんだよ」

「・・・お兄さんのために?」

「親が言ってたんだ。俺を産んだのは兄貴の練習相手にするからだって・・・テニスの・・・」


ブルースはそういうと頭を抱えた。


私には横顔も見えなかった。


ブルースがどんな表情してるのか全然わからない。


「だから高校入る時に1人暮らしさせてもらったんだ。テニスもやめた。兄貴の為にテニスしてたなんて馬鹿馬鹿しい」



どうしてこの人はそんな風に考えるんだろう?



そんなことないはずなのに



「じゃあブルースは、お兄さんのためにテニスを始めたの?」

「え?」


ようやくブルースが顔をあげて、私を見た。


ブルースの目は少し潤んでいた。


泣きそうだったのかもしれない。


「お兄さんのために生まれてきたの?お兄さんの練習相手になるために生まれてきたの?テニスを始めたの?」

「・・・・・・違う」

「そうだよね?ブルースは、お兄さんのために生まれてきたんじゃないよね?」


私が言うと、ブルースの目から涙が流れた。


「・・・そうだよ」

「じゃあどうしてテニスやめるの?家を出たの?お兄さんのこと嫌い?テニスのこと嫌い?家が嫌い?」

「・・・嫌いじゃない 全部・・・」

「・・・そうだよね」


私がそう言って頷いて、微笑むとブルースは目を強くこすった。


「だけどあの時・・・兄貴のために俺を産んだっつった親が許せなくて・・・凄く憎くて・・・悔しかった」

「・・・うん」


ブルースは自分の足に顔をくっつけて、声を殺して泣いていた。


私が肩を撫でると私の手をたたいた。


思わず笑うと、ブルースは小さな声で言った。


「・・・そんなこと言われたの初めてだ・・・そんな風に考えたことも・・・なかった」

「・・・そっか」

「・・・ありがとう」


その時 会って初めてブルースの笑顔を見た。



その笑顔を見た時、自分の頭にある赤ずきんよりも自分の顔が真っ赤になったのは どうしてだろう?


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