第32話 ルファとファミレスとコーヒーゼリー
その後、リンさんがアメリカへと旅立った。
俺は特別見送りに行くわけでもなく、手紙や電話をするわけでもなく、クロウとだけ連絡を取っていた。
特に理由はないけど、リンさんとは連絡をとらなかった。
それから数日たち、俺はルファと久しぶりに会うことになった。
「じゃあ出かけるけど・・・家で大人しく待ってろよ。棚とかいじるな?台所にも行くなよ。」
「わかってるってば!ブルースの本読んでるから!」
「うん。じゃ、行ってくる」
「行ってらっしゃーい!」
マゼンダは俺の本を片手に、にこやかに手を振った。
リンさんが旅立って数日、そう。
言い換えれば、マゼンダのことが好きだと気づいて数日。
とはいえ、一緒に暮らしててそういうことを言っても気まずくなるだけだもんなぁ・・・。
そんなことを考えてため息をつくと、ルファとの待ち合わせ場所に着いた。
いつ行っても人のいるファミレス。
入ると、既にルファは座っていた。
「久しぶり!」
ルファはにっこりと営業スマイルで俺に手をふった。
「その顔やめろよ。気色悪い。」
「ひどいなー俺の営業スマイルだよ?」
だろうな、と短く言って俺も座った。
ルファはメニューを見てぶつぶつ言い出した。
「俺、コーヒー」
「じゃあ俺もコーヒーゼリー。」
「俺『も』じゃないだろそれ」
「いいのいいの!」
ルファはそう言って定員を呼ぶとコーヒーゼリーを2つ頼んだ。
「俺、コーヒーって・・・」
「こういうところ来たらなんかデザートみたいなの食べるもんだよ!」
ルファはそう言ってニヤリと笑った。
まったく、とため息をついて水を1口飲む。
不意にルファの左の薬指の指輪が目に入った。
「なんだっけ、ミドリと結婚したんだっけ?」
「うん、新婚さん。うらやましい?」
「別に」
そう言って苦笑すると、ルファが携帯を出して俺に見せる。
「じゃあ、これってデマ?」
携帯を受け取って、画面を見る。
そこにはクロウからルファへのEメールがあった。
『今日、久しぶりにブルースに会った!覚えてるか?
アイツ、今可愛い女の子と2人暮らしみたいだぞ!』
アイツは・・・。
またため息をついてルファに携帯を返す。
「いや、デマでもないけど・・・」
「けど、って?」
「別に、彼女とかじゃない」
「・・・は?彼女じゃない?なのに一緒に暮らしてんの?ブルースって妹とか姉とかいるっけ?」
「兄貴だけだよ。その・・・色々と事情があって。」
俺はクロウに説明した時と同じようにマゼンダのことを説明した。
途中、ルファは定員からコーヒーゼリーを受け取りながらも俺のほうをじっと見て説明を聞いてくれた。
話し終わると、ルファはコーヒーゼリーを1口食べた。
「へーそんなことあるんだな。」
「しかも母さんも同じだとはな・・・」
「え?で、ブルースはその子のこと好きとかじゃないんだ?」
「ッ!!」
コーヒーゼリーを飲み込もうとしてむせた。
そんな俺の動揺を見て、ルファがにやりと笑う。
その表情は、悪巧みを考えた子供と同じ表情をしていた。
水を飲んで落ち着けると、俺はルファを少し睨んだ。
「そんな顔するなよ。で、どんな子?可愛いってクロウが言ってたけど。」
「さぁ?可愛いとかそういう基準わかんないし。」
「だよな!お前って本ばっか読んでたもんな!」
「そうだよ!」
俺は、もう開き直った。
そしてコーヒーゼリーを大口で食べ始めた。