第29話 トマトとようかん
荷物を整理し終えた俺は、トマトをパックから出して水洗いする。
それからトマトそのままむしゃむしゃ食べ始めた。
「あ、食べる?」
そう言ってトマトをマゼンダに差し出すと、マゼンダが困ったような表情をした。
「いや、大丈夫だって。水洗いすれば食べれるんだよ。」
そういうと、マゼンダはトマトと俺を何度か見比べる。
それから首を縦に振るとトマトを食べ始めた。
ぼとりと汁が床に落ちる。
「あ!」
「残念。落としちゃ駄目なんだ。」
ニヤニヤしながら言うと、マゼンダが悔しそうに顔をゆがめる。
俺は笑いながらふきんで床を拭いた。
「・・・やっぱ、1人よりは楽しいな」
ぼそりと言うと、マゼンダが急に笑い出す。
「・・・何?」
「当たり前だよ!1人でいるよりも、2人のほうが楽しいよ!2倍になるんだもん!」
思わず噴出したけど、マゼンダはそんなことは気にしていなかった。
楽しいことが2倍、ね。
そういえばそんなこと誰かが本に書いてたっけ。
トマトを1パック食べ終わり、小さなようかんも一本食べ終わると俺の腹はだいぶ満足していた。
「美味しかった?」
ようやく1個トマトをこぼさずに食べ終わったマゼンダに聞くと、マゼンダは大きく頷いた。
マゼンダが何か言おうと口を開いた瞬間、携帯がなり始めた。
マゼンダの携帯のアドレスには俺以外のアドレスが入っていない。
だから俺のだとすぐに気づき、携帯を開く。
登録されていない電話番号。
「んー・・・」
まぁいいか。
ピッ
「はいもしもし?誰だ?」
電話に出ると、聞き覚えのある男の声。
『もしもし、ブルース?久しぶり。』
「は?誰?名前言えよ」
電話の向こうで笑い声が聞こえた。
2人分の。
電話に向かって喋ってるのは男の声だけど、その向こうで女の声がする。
「わかんない?ルファだよ。」
「う・・・」
俺は思わず唸った。
どうしていまさらみんな俺に近づきだすんだ!
卒業してから1度も会ってないのに!
「ってことはその女の声は・・・ミドリか?」
「ピンポーン!久しぶりだね!ブルース君!」
「君付けなんてすんな気色悪い!で、何の用だよいまさら。なんで俺の電話番号知ってんの?」
早口に質問すると、また笑い声が聞こえた。
マゼンダが不思議そうに俺を見ている。
「いや、リンさんが退職するからさ。お前の小説の担当、俺になった」
「・・・は?」
リンさんが退職?
ルファが新しい担当さん?
「え?ちょっと待てよ。なんで退職?お前、職業って・・・」
「リンさんのことは本人から聞いてよ。俺の職業?リンさんと同じ。リンさんの後輩だけど?」
世間って、なんて狭いんだ・・・
俺は大きくため息をついた。
「わかった!もういい!もう何も言うな!これ以上俺の頭を忙しくさせるな!」
俺はそれだけ言うと一方的に電話を切った。
それからまた電話がかかってくる前に、マゼンダが口を開く前に、リンさんに電話をかけた。