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第24話 欲張りとおしまい

そっと押入れから抜け出すと空っぽの部屋が広がっていた。


ブルースのいない空っぽの部屋。


少し甘いにおいのする部屋。



立ち上がって、ブルースの机の本棚に並んだブルースの本に触れる。



バサバサバサッ!!


何冊かが勢いよく落ちた。


慌てて拾いあげる。


たくさんの文字が模様みたいに並んでる。



本当はこんな細かい字を読むのは大嫌い。


だけど



ブルースの本なら読みたいって思うんだ



優しい本だから



大好きになれるんだ



『人間は欲張りだって言うけれど・・・・・・・』



ブルースの言葉




「・・・人間って欲張りなんだ」



じゃあ私はどうなんだろう?



欲張り なのかな?


きっと私は人間じゃないけど


私って 欲張りかな?



ブルースにも人生があって


もしかしたらこの先私は邪魔になるかもしれない


だけど



ブルースと一緒にいたいって思う気持ちは欲張りなのかな?



こんな気持ち 知らなかった



知らないほうがよかったかな






こんな気持ち





自分じゃどうしたらいいかわからないよ




******************************************


「くそぉ・・・リンさんの奴・・・」


俺はぶつぶつと怒りの独り言をつぶやいた。


リンさんっていうのはさっき家に来た女の人で、俺の小説の世話をしてくれてる人。


俺が本を出す前からの担当さんで、なかなか世話になってる。


年齢が結構近いもんだから結構親しみやすくて、前から打ち合わせは外が多い。


ちなみに、クロウの彼女さん。


いや、実際今日になって発覚したんだけども。


「あの昼間から酒飲んでしかもすぐ酔ってすげぇ扱いになることクロウにばらしてやろうか・・・」


大きくため息をついて家の鍵を出し、ドアを開ける。


するとそこには床に座り込み、床に広がった俺の本を眺めてるマゼンダがいた。


読んでるんじゃない 眺めてる。


「・・・マゼンダ?」


名前を呼ぶと、ようやく俺が帰ってきたことに気づいたらしく驚いた表情で顔をあげた。


「あ・・・おかえり・・・なさぃ・・・」

「ただいま・・・どうしたんだ?俺の本なんて広げて」


床に落ちた本を拾い上げる。


「・・・別に 落ちただけだよ」


マゼンダはそういうと、開いてる俺の本を閉じていく。


1冊だけ、俺のあんまり気に入ってない本だけ閉じても俺に渡さない。


現実的で、しかも主人公をマイナス思考な奴にしよう と思ったら必要以上にマイナス思考になってしまった。


書いててもテンションが下がった。



マゼンダはその本の表紙をじっと眺めた。


背景が黒くて 様々な色の円が書かれて重なり合ってる表紙。


「マゼンダ?」

「・・・私、元の世界に戻ろうかな」

「え?」


マゼンダは俺の本の表紙を見つめたまま言う。


どうして急にそんなことを言うのか俺にはわかるわけなかった。


「だって、ブルースに迷惑かと・・・思って」


なんでいまさらそういうこと言うんだ?


眉間にしわを寄せてしゃがみこんだ。


「ここにいたいっていうのは私のわがままで・・・ブルースのしたいことの邪魔になるかもしれないし・・・」

「はぁ?」

「だってブルース、優しいし・・・だから私にここにいていいって言ったんじゃないの?」


『ここにいていい』というよりもむしろ・・・


「あのさ、急にそういうこと言われても困る」

「困るって・・・なんで?」

「や・・・だって・・・」


あれ?そういえばどうしてだっけ


いなくなってほしくないって思うけど


でも理由なんてそんなの・・・


「お、俺のことはいんだよ!お前、戻りたいなんて思ってないだろ?」

「そりゃ・・・戻らなくてもいいなら戻りたくないよ・・・でもブルースの迷惑になりたくないし・・・」

「ちょ、こっち見て!」


俺はマゼンダの腕をつかんでこっちを向かせた。


人の目を見ればわかるんじゃないかと思ったけど、俺には全然わからなかった。


そもそも俺、人の目見るの苦手なんだった。


目を逸らしたくなるのを必死に耐える。


マゼンダは耐えてるようには見えなくて、ただ俺の目を見つめていた。


本当はそんなこと考える時じゃないのに、マゼンダの目は綺麗だった。


ごちゃごちゃ考えながらも、俺は目を逸らさずにいた。


そのまま沈黙が続いて、先に目を逸らしたのはマゼンダだった。


「・・・・・・ごめん、なんでもない」

「え?」


俺がマヌケな声をあげると、マゼンダは俺に本を渡した。


「忘れていいよ。」


何を考えているのか、それだけ言うとマゼンダは俺の机に座って本棚を眺め始めた。


俺は本を持って立ち上がり、本棚に本をおさめた。


「・・・忘れるけど」


マゼンダのほうを振り向くと、マゼンダはじっと俺を見上げていた。


「でも俺、マゼンダは『ここにいてもいい』なんて思ってない」

「え?」

「確かにそういう風に言ったけど、『ここにいてほしい』の方が正しい」



そういった直後、俺は顔が赤くなるのを感じた。


かーっと顔が熱くなってる。


また本棚のほうを向こうとした瞬間、マゼンダがあの嬉しそうな笑顔を俺に向けた。



『星はたくさんあって』



『その中で1人でも見つけてしまったら』



『もうおしまいなんだ』



どうして違うだなんて思ってたんだろう




どうして否定しようとしてたんだろう




見つけてしまってた






あぁ



もう おしまいだ


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