第22話 私がいなくなった時のこと
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とにかく走って逃げた
どこに行けばいいかなんてわからないし、ここがどこかなんてちっともわからない
もしかしたら同じところを行ったり来たりしてるかもしれない
全然わからないけど
とにかく逃げたかった
あの世界は私を鎖で縛ってて
どんなに抵抗したくても逃げることさえ許さなかった
だから どこかで諦めてた
だけど
こっちの世界にはブルースがいたから
もしかしたら逃げ切れるんじゃないか、って
もしかしたら私はこの世界の住人になれるんじゃないか、って
ブルースとずっと一緒にいれるんじゃないか、って
思ったんだ
だけど
『私、ずっとブルースのところにいてもいい?』
ブルースは返事をくれなかった
ずっと一緒にいたいって思ってたのは私だけだったのかな
私と喋ったりしてるときも
笑ってくれてたときも
ずっとブルースは私にいなくなってほしいって思ってたのかな
私がいなくなった時のこととか考えてたのかな
涼しすぎて寒いところを抜けて、右に曲がると誰かにぶつかった。
「す、すみませ・・・」
顔をあげると、そこには息を切らしたブルースがいた。
私が口をぽかんと開けていると、ブルースは眉間にしわを寄せた。
怒られる と思い、目をぎゅっとつむると、ブルースは私の頬を軽くつねった。
「・・・へ?」
マヌケな声をあげてブルースを見ると、ブルースはため息をついて私の腕をつかんだ。
それから私をぐいぐいひっぱって、建物の外へ出た。
ブルースは私の腕を離さずに、無言で歩き続けた。
後姿じゃどんな表情かわからなくて。
怒ってるかどうかもわからなくて なんだかこわい。
「ごめん・・・なさぃ・・・」
小さな声で謝ると、ブルースが足を止めた。
それから私のほうを向くと、またため息をついた。
「・・・勘弁しろよ」
「・・・・・・ごめんなさい」
「本当に意味わかんない」
私は謝るのをやめて、下を向いた。
「何がずっと俺のところにいてもいい?だよ」
「!」
「なんでそういうこと聞くわけ?」
駄目に決まってんだろ って?
「あのな、俺だって血も涙もある人間だからな。」
「は?」
「いていいに決まってんだろ!」
「・・・いても いいの?」
「そう言ってんだろ!」
ブルースはまた私に背を向けて歩き出す。
私は慌てて追いかける。
「ねぇ私、ここにいていいの?」
「・・・何度も言わない」
私は笑って、ブルースの手首をつかんだ。
ブルースの手首が好き
あったかくて 脈があって
心地いい。
私、ブルースのこと大好きだよ。
そばにいると凄く安心するから。
こういうのって なんていうんだろ?
なんていう感情なんだろう?
ねぇ、ブルース
ブルースも今 同じ気持ちでいてくれてる?