第12話 クロウと買い物
「んで、どこ行くところだったんだ?大丈夫、邪魔はしねぇよ」
俺はチラリとクロウを睨んだ後、耳元で小さな声で言った。
「コイツの服・・・女物なんてよくわかんないんだよ」
それを聞いたクロウが苦笑して俺を見た。
それからマゼンダのほうをじろじろ眺め始めた。
しばらくして満足気にニヤリと笑った。
「よしよし、クロウ様に任せなさい」
クロウは俺達に言うと1人でさっさと歩き始める。
俺が黙って後に続くとマゼンダも慌ててついてくる。
少ししてクロウに追いつき、横に並ぶとクロウは俺の耳元で囁く。
「お礼はあの子のメールアドレスでいいよ?」
「アホ 携帯持ってねぇよ」
「へぇ そうなんだ〜じゃあお前のメールアドレスでいいよ」
クロウはそういうと自分の携帯を取り出し、俺のズボンの尻ポケットに手をつっこんで俺の携帯を引き抜いた。
それから勝手に俺の携帯と自分の携帯を交互にいじった。
しばらくすると俺の携帯を返した。
「お前・・・人の携帯勝手に・・・」
「いいじゃん。悪いことしてないし。」
「まぁいいけどさ・・・」
クロウは女性関係以外のことは信用できる奴だった。
金の貸し借りも嫌いなほうだったし、約束もちゃんと守る奴だった覚えがある。
そういう奴は俺の身の回りには少なかった。
「お前、昔の連中とまだ連絡とってんの?」
「あー・・・ごく一部だけどな」
「・・・だろうな」
何気なく口にした質問を俺はかなり後悔した。
昔の友達なんかの話はクロウにとってNGだった。
クロウは女性関係でごちゃごちゃしたり、結構気も強くケンカも強かった。
そのせいか1人でいることが多く、友達が少なかった。
まして1度別れようと決めた女はこっぴどくふったので女からはかなり恨まれていたし。
その女の元彼氏なんかはクロウを恨むことが少なくなかった。
そのせいか特に女をとられたわけでもない男にも避けられていた。
そうそう、ケンカも強かったから他校の連中がケンカしに来たこともあったな。
そういう意味では結構有名な奴だった。
そんなクロウが昔の奴等と仲良くしてるわけないか。
「あ、でもルファとミドリって覚えてるか?」
俺はその名前に覚えがあり、昔の記憶をよく思い出した。
こういう時最初に出てくるのは教室の風景だった。
その中に外見だけはひ弱そうな美少女の男と、男勝りな感じの姉御な女が浮かんだ。
「あぁ、いたな」
「アイツ等とは連絡取ってる。お前も仲良かったよな?」
「あぁ、そうだな。」
「そうそう。アイツ等結婚したんだぜ」
「け・・・ッ!?」
俺には当分縁のなさそうな言葉。
ルファとミドリが!?
あのどっちが男でどっちが女だかわかんないような2人が!?
第一、いつからそういう仲に!?
「なんか昔からルファがミドリのこと好きだったみたいだぞ」
「へ、へぇ・・・」
数年間関わっていないだけだったのに、ずいぶん変わったもんだった。
やっぱり世界は『俺以外の誰か』が進めているものに違いなかった。