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感謝の言葉

作者: コーダ

 咄嗟に思い浮かんだ内容ですので、期待はしないでください。


 雲一つない快晴の空。

 太陽が頂点へ昇る時間。とても心地の良い昼。


「――眩しい」


 ふと、どこからともかく小さな声が聞こえてきた。

 右手で太陽の光を少しでも遮断する1人の男。


「よくこんな時に楽しんでいられるな」


 男は目の前の風景を見ながら、また一言呟く。

 瞳に映るのは透明でとても綺麗な海。

 優しく押し引きを繰り返す波は、見ているだけで心地が良い。

 そんな海の浜辺にはたくさんの人が、海水浴に来ていた。

 ビーチバレーを楽しむ者、スイカ割りを楽しむ者――――――

 だが、男はそんな人たちを見て浅い溜息を漏らす。


「まぁ、良いか……」


 小さくそう呟くと、男は重たい足取りで浜辺へ向かう。

                        ○

 海水浴に来ていた人たちはひそひそと耳打ちをする。


「………………」


 浜辺を歩いていた1人の男は、そんな人たちのひそひそ話に耳を塞ぐ。

 黒い髪の毛は首くらいまでの長さがあり、前髪は目にかかっている。

 瞳は綺麗な海を連想させるような薄い青。だが、メガネをかけていたので、角度によって完全に見えなかった。

 調査員か科学者を連想させる白いコートを全身に覆い、右手にはメモ帳を持つ。

 明らかに場違いな男。確かに、こんな姿をしていれば怪しまれる。

 一方、本人は横目で海を見ながら足を止めずにどこかへ向かっていた。

 徐々に海水浴を楽しむ人は周りから居なくなり、男も心が晴れていく。

 気がつくと、浜辺から100mくらい離れて岩場が目立つ場所に来ていた。


「相変わらず、あそこを歩くのは慣れないな」


 この格好で浜辺を歩くのは何度もあるような言い方。だが、何回歩いても慣れないらしい。

 わざわざ海水浴に来るような時季に行く男も男だったが。

 ――――――いや、この時季じゃないとだめな理由があるのかもしれない。


「まぁ、気を取り直して……」


 潮風で白いコートをひるがえしながら、男は砂浜から海に沈んで半分くらい外に出ている岩場へ足を乗せる。

 そして、器用に岩場から岩場へ跳び移りどんどん沖の方へ向かう。

 綺麗な海は、肉眼で底が見えるくらいだったのでだんだん深くなっていくのが一目でわかった。

 もし、岩場から足を滑らせて海へ落ちたら少々危険だろう。

 だが、男はそんなことを気にせず岩場を移動する。


「――ん?」


 ふと、男は岩場の上で止まってしまった。

 メガネをかけたり外したりを繰り返して、どこかを見つめる。

 男の瞳には岩場にポツンと座っている少女が映る。

 髪の毛はピンクと赤色が混ざったような感じで、岩場につくくらいの長さはあった。

 前髪は目にかかっており、その瞳は鮮やかな黄色だった。

 白色のワンピースを着用しており、それはどこか濡れているように見える。

 男はとりあえず、少女が居る岩場まで跳び移り、


「君、こんな所に居たら危ないぞ?」


 優しい口調で、注意をする。

 すると、少女は無言で顔を男の方へ振り向かせる。

 どこかあどけない雰囲気と人とは思えない雰囲気が合わさった感じを漂わせる表情。

 遠くからでは見えなかったが、胸元にはピンク色のアクセサリーがあるのを確認できた。

しばらく見つめあう2人、すると少女がゆっくり口を開く。


「私は……探しているの……」

「探している……?」


 少女の不思議な言葉に、男は脳内を混乱させる。


「優しい人……探しているの……お礼、言いたいの……」


 いまいち、何を言いたいのか分からない少女。

 面倒事が嫌いな男は、一刻も早くここから去りたかったようである。


「そっか……とりあえず、俺は忠告しておいたからな?早く帰るんだぞ」


 右手でメガネを上げて、男は岩場へと足を乗せる――――――


「ねぇ、妖精って知っている……?」


 突然の言葉に、足を止める男。


「あぁ、本で読んだことある。確か、自然と同等の存在を持っている奴だったか?」


 自然と同等の存在を持つ妖精。

 つまり、木には木の妖精。水には水の妖精。風には風の妖精が居る。

 一つ一つは、目に見えたり見えなかったりだが、妖精と言うのはそんな自然を人のように表した生物。

 しかし、これはあくまで本の中での話し。現実にはありえない話しである。


「………………」


 無言になる少女。何か言いたそうだったが、男は、


「俺は忙しいからな……悪いが、これで……」


 岩場に足を乗せてどんどん沖の方へ向かう。

 そんな男の後ろ姿を黙って見つめる少女――――――

                        ○

「ふぅ……」


 男は岩場の上で一言呟く。

 もうこれ以上移動できる岩場がない。つまり、ここが1番沖にある岩場だった。


「相変わらず、この風景は何度見ても癒される」


 男の瞳に映っていた物。それは綺麗なサンゴ礁である。

 綺麗な海は底まで見えるくらいなので、肉眼でサンゴを見るのも容易である。

 サンゴのある海はとても良い海と言われている。その理由として、サンゴはとてもデリケートな生き物。

 少しでも水温や水質が変われば途端になくなってしまう。


「さて……」


 男は白いコートのポケットからある試験紙を取りだす。

 それを海水につけては、取り出し試験紙を見つめる。


「……問題ないか」


 そう一言呟き、男はさらにいろいろな道具を取りだす。


「――やっぱり……あなただった……」


 ふと、背後から聞き覚えのある声が響く。

 男は首だけを振り向かせ、声の主を確認する。


「なんだ?まだ居たのか?」


 声の正体は先程の白いワンピース姿の少女。

 可愛らしい表情を浮かべながら男を見つめていた。


「この海を見てくれているのは……あなただった……」


 少女の言葉に、男は首を戻し作業を続ける。

 今度は水温を測る。


「俺はこの海からサンゴをなくさないようにしている。ただ、それだけだ」


 そう、この男はこの海のサンゴを管理する人だったのだ。

 先程の試験紙はペーハーを測る試験紙。

 そして、水温を測ったのはサンゴにあった海かどうかのチェック。

 次に、男は試験管を取りだし海水を入れる。


「優しい人……」

「当たり前のことをしているだけさ」


 ぶっきらぼうに答える男。

 少女へ背中を向け、ずっと作業を続ける――――――


「……ありがとう」


 突然のお礼の言葉。男は手を止めるが少女の方へ顔は向かせなかった。


「どうした、いきなり」

「ううん……嬉しくて……」


 なぜお礼を言われているのか疑問に思う男。

 だが、悪い気はしなかった。


「……君、名前は?」


 男は何を思ったのか少女の名前を尋ねる。

 そして、同時に止まっていた作業を再び続ける。


「私は……コーラル……」


 コーラル。少女はそう名乗る。

 男はしばらく無言になりながら、頭の中で考える。


「これからも……優しく海を見てね……」


 少女の言葉を聞いた瞬間、男は何かに取りつかれたように体を振り向かせる。

 ――――――だが、そこにはもう少女の姿はなかった。

 変わりに、少女が立っていたと思われる場所にピンク色のアクセサリーが落ちていた。

 男は、そのアクセサリーを拾う。


「このアクセサリー……サンゴで出来ているのか……」


 とても珍しいサンゴのアクセサリー。男はそれをコートのポケットにしまう。


「――ん?」


 ふと、男は海を見つめ頭の中に疑問符を浮かべる。


「こんな所にサンゴは生えていたか……?」


 男は長年海を見続けているので、どこにどんなサンゴがあるのかもだいたい把握している。

 だが、今日初めてみるサンゴが自分の瞳に映る。

 ――――――ピンクと赤色が混ざったようなサンゴ。


「(コーラル……つまり、サンゴか……)」


 男はどこか不思議な気持ちになり、薄く笑う。

 そして、何事もなかったかのように作業を再開させる――――――

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― 新着の感想 ―
[一言] 柔らかく不思議な感じがして面白かったです
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