スサノオ先輩は素直に凄いと思います
「こう君、もういっそこの世界に永久に暮らさない?」
「そうだね。ギロチンなんか逃げ切ったら無問題だよね」
「こう君、この世界には近親婚を禁ずる法律はないよ。やったねこう君! 夫婦になれるよ!」
「それならギロチるわ」
さてさて、早くも我々諦めモードです。ちょっと前まで討伐してやるっ! だったり、サクサクプレイとか言ってたんだけど、
『で、どうするっ?』
『いや、ここで仕留めんとか有り得んから』
『俺らの場合はぁ、男食うなんて選択肢ないから』
『ウェィヒヒッ!!』
『え゛っ?』
『おまえらそれでええんか』
『アジャアジャアジャアジャ!!』
『首が痛いんで、帰りますね~』
コイツ、倒さなきゃダメ?
――
ニィの町を越えた所にある西の谷は、人があまり寄り付かないのか、整備されておらず非常に歩きにくい。RPGを引き合いに出すつもりはないんだけど、あの世界の山やら谷はある程度整備されて、御丁寧に道まで出来ている。どれだけこの世界は現実的なんだか。
「なかなか着かないなぁ、あっ姉さんしゃがんでっ」
「まだ半分も行ってないと思うよ。どうも、こう君」
戦闘にも馴れてきて、リキシ程度の雑魚キャラなら、会話しながらでも倒せるようになってきた。僕らのコンビネーションも格段に上がっていき、その内合体技の一つや二つ出来るんじゃないかな?
「こども?」
シバくぞおいぃぃぃ!!!
「もうシバいてるよ……」
空気を読まぬ下ネタには、怒りの鉄槌を! 姉にゃ、愛はいらねえ。
「でもさあ、合体技で思い出したんだけど、」
「私たち魔法いつになったら覚えるんだろう?」
魔法いつになったら覚えるんだろう、いつになったら覚えるんだろう、覚えるんだろう、ろう……、頭ん中でリフレインし続ける。
「ホントだあああああ!!」
魔法の存在をスッカリ忘れていたよ! おかしいとは思ったよ! RPGだというのに、勇者も騎士も、近距離オンリーのMP0なのだ。モンスターを狩り続けて、ラディツキー行進曲も10回以上流れた気がするが、一向に魔力だけが上がった気配もないし、そもそもこの世界には魔法なんてあるのか?
「一人旅した1の主人公でも魔法は覚えたよね……」
勇者なのに魔法が使えないなんて……。
「なんつうか、夢もファンタジーもありゃしないな」
製作者は即刻謝罪しなさい。
「マジサーセン」
あっ、そういや姉さんだったっけ?
――
「魔法はないけど、剣技とか槍術はあるよね。とりあえずそれでヤマタノオロチに挑もっか」
姉さんが言う通り、武器を使った技は出来たりする。特にやる度に命が削られたり、またGも減っていないため、ノーリスクではあるが、通常攻撃より強いぐらいなんで、決定的な一打を与えるには、根気強く行くしかないのだ。さらに、その与える割には隙が大きいのもあるので、リトルリターンぐらいはあるかもしれない。
――
「やぁ!」
『アジャあああ!』
「そいっ!」
『ピャー!』
「ふぅ、なかなか進まないね」
「ヤマタノオロチはどこにいるんだか……」
雑魚共を斬っては刺し、斬っては突きまくりレベルは着実に上がっていくが、どうもヤマタノオロチのもとに辿り着けない。道を間違えたのか?
「ヤマタノオロチって大きいの?」
「そりゃあねえ。古事記では八つの谷、八つの峰に渡る巨体と言われているぐらいだし」
確か古事記によると、スサノオは一つ一つの首に酒を飲ませ、寝たところを退治したという。ヤマタノオロチ退治の模範解答があったんなら、酒を持って来るべきだったかと今さらになって後悔する。余談だが、三種の神器として知られる草薙の剣は、ヤマタノオロチの尻尾のなかから出てきたものらしい。退治したら貰えるのかな。
「詳しいね。じゃああれは小さいから違うよね」
姉さんが指差した方向には、
「ビンゴ……じゃない?」
古事記による伝承よりは小さいが、そこには町一つ楽勝に飲み込めそうな八つの首をもつ巨体が、
『グルルルァアアア!!』
雄叫びをあげていた。
「「でけーよ!!」」
最初のボスデカすぎだろ! 剣と槍だけで戦えるのか?
『アジャ?』
首の一つと目が合ってしまう。なぜかリキシ似だ。恋に堕ちるわけがない。『アジャアジャアジャアジャアジャアジャアジャあああ!』
「「わああああ!!」」
リキシ首が叫ぶと同時に、他の七つの首もコチラを振り向く!
――
「こう君、もういっそこの世界に永久に暮らさない?」
「そうだね。ギロチンなんか逃げ切ったら無問題だよね」
「こう君、この世界には近親婚を禁ずる法律はないよ。やったねこう君! 夫婦になれるよ!」
「それならギロチるわ」
というわけで、我々諦めモードに入ったわけです。初っ端からプ○ーンみたいなボスとか、後のボスはどんなのがくるんだよ……。
「姉さん、気になったんだけど、この世界で死んだらどうなるの?」
「セーブポイントからやり直しじゃない?」
「教会よったっけ?」
「「負けたら最初からだっ!!」」
こうして、絶対に負けられないヤマタノオロチ戦が始まるのだった!
――
『でっ?』
ヤマタノオロチの火球!
『どうするっ?』
ヤマタノオロチは毒の液を吐き出したっ!
『俺の時だけ』
ヤマタノオロチは大きくクビを振り回す!
『態度がちぃがぁうぅ』
ヤマタノオロチは噛み付いてきた!
『アジャアジャアジャアジャ!』
ヤマタノオロチは何やら叫んでいるっ!
『ウェィヒヒッ!!』
ヤマタノオロチは突風を噴き出す!
『クビが痛いんで帰りますね~』
ヤマタノオロチは帰りたそうだ!
『いちおつ!』
ヤマタノオロチは岩を投げてきたっ!
「「2対8は卑怯だろおおおお!!」」