仮面ゴリラーTHE NEXT:誰が為にバナナは生る
この作品は清坂 正吾氏の「ゴリラパーティー」企画参加作品で………え?最終日は昨日!?
「スクープだ……! これは間違いなく、今世紀最大のスクープになる……!」
深夜、月明かりが差し込む雑居ビルの屋上で、カメラマンのハヤトは超望遠レンズ越しに眼下に広がる街並みを見下ろしていた。
ハヤトが追っているのは、巷を騒がす謎のゴリラ……いやヒーロー、「仮面ゴリラーG」だ。先日の「バナナ製菓事件」で見せた、弾丸を弾き返す圧倒的な胸筋。そして事件解決後に窓ガラスを突き破って夜空へ消えていった去り際。警察もメディアも「正体不明の謎の正義の味方」として報道していたが、フリーの事件記者兼カメラマンであるハヤトの勘は告げていた。
「あれは絶対にただのゴリラじゃねぇ。そしてあのバーに夜な夜な現れる巨大な黒タートルネックのスーパーマッチョなゴリラのマスクを被っているフザケたヤツ! ヤツこそが仮面ゴリラーGに違いない!」
ハヤトがファインダーに捉えているのは、老舗バー『サバンナ』の勝手口から出てきた、規格外の体躯を持つ男だった。その男は無言でゴミ袋を捨てると、ポケットから取り出した「高級完熟バナナゼリー」のパウチをエレガントに吸引し始めた。
「もらった! 拡大すれば、あのゴリラマスクの継ぎ目から素顔の一端が……って、あれ?継ぎ目が……?」
ギロリ!
「!目が合った⁉嘘だろ気づかれたか?クソっ写真まだ撮れてねぇのに……!」
謎のゴリラマスクの男に睨まれ、その場から移動しようとしたその瞬間、ハヤトの背後にひっそりと影が立ち塞がった。
「誰だ!?」
「知る必要はない。やれ」
「イーッ!」
「うっ………!しまっ……テメエ、オレをどうする気だ!」
「フフフ……嗅ぎ回りすぎたな、若きジャーナリストよ」
口を塞がれ、急速に意識が朦朧とする中でハヤトが最後に見たものは………
「………?なんで………胸章にバナナが……?」
数分後。人気を感じないその同じ場所に、一つの巨大な影が現れた。月明かりに照らされたその顔は、ゴリラのマスクにより覆われ、表情を伺うことはできない。辺りを注意深く見渡していたその男は、微妙に鼻をくすぐる芳香に動きを止めた。
『……この香り……そうか、奴らが出てきたのか。だとすると、さっきのカメラマンは……』
ゴリラマスクの男はそう呟くと、また再び闇の中へと消えていった。
「次のニュースです。このところ、市内各地のスーパーから『バナナの入荷が止まっている』といったことが起きているようです。その原因については現在農林水産省・経済産業省・国土交通省などが調査中とのことです」
◇◇◇
「ん…………なんだ?体が動かねぇ」
目覚めたハヤトの視界に飛び込んできたのは、漆黒の高級スーツを身に纏い、胸に「社長」と刻まれた金ピカのバナナの胸章を輝かせる男たち。そしてその中央で、高級シガーの煙をくゆらせる男が近寄ってきた。
「お目覚めかね、ハヤトくん」
「お……お前らは?……ここはどこだ?」
「Supreme Heads Alliance Controlling Corporate Hegemony and Order(企業の覇権と秩序を支配する最高経営者たちの同盟)……『SHACCHO』の本部だよ」
その言葉にハヤトの目が大きく見開いた。
「……!聞いたことがあるぞ!物流・株価操作・為替操作など、あらゆる手段で政治経済界を牛耳っているという……お前らが!」
「ほぅ。我々の存在を御存じとは、流石だね」
「次のスクープで狙っていたからな。しかしいいのか?先日の『副社長友の会』、あれはお前達社長を蹴落とそうとする奴らじゃないのか?なぜ好き勝手させてるんだ?」
ハヤトの問いに、社長達は余裕の笑みを浮かべながら言葉を返す。
「『副社長友の会』がしていることなど、些末なことに過ぎん。彼奴らは見えない檻で飼われていることも知らない水族館の小魚のようなものだ」
「そうか……クソっせっかくのスクープなのに身体がなんで動かねえんだよ!」
「ムダだよ。バナナファイバーで君の自由は奪ってるからな」
「バナナファイバー……!ってなんだ?」
「説明しよう!バナナファイバーとは、バナナの木の幹や皮をほぐして作った繊維の事だ!ちなみにバナナは分類上は木ではなく「多年草」だぞ!」
「マジか知らんかった!すげえなバナナ!いや、そうじゃなくて、俺をどうする気だ?」
高級シガーの火を消した男はゆっくりと縛り付けられているハヤトに近づき、その顔を覗き込んだ。
「君は仮面ゴリラーについて調べていたのだろう?」
「ああ、確かにそうだが」
「ならば教えてやろう。仮面ゴリラ―……奴は元々我が組織の目的のために製造していたゴリラサイボーグ体『ゴリラー01』だ」
「ゴリラサイボーグ体……?一体何が目的でそんな事を?」
ザッ!
その言葉を待っていたかのように、その場の全員が直立不動の姿勢をとり、右手を伸ばして掲げる。
「それはッ!」
「バナナの『真なる復権』のためだッ!」
「……は?」
「過去、バナナはフルーツの王者だったッ!お見舞いにはバナナ、遠足にもバナナッ!わざわざ『バナナはおやつに含まれますか?』という質問が出ていたあの頃ッ!バナナは確かに王者だったのだッ!」
「はぁ」
「しかしッ……!最近はどうだ!遠足のオヤツとしてはもはや話題にも上がらず、スポーツマンの捕食としてもブロッコリー如きにに後れを取る始末だッ!今では『門司港でのバナナの叩き売り』でしか出番がない!なんと嘆かわしいッ!」
「いやチョコバナナもあるんじゃ……」
「それ故に、ゴリラサイボーグ体で一時国内のバナナを枯渇させ、その価値を再認識させ、バナナの復権を果たす予定だったのだよ」
「それだけのために⁉」
「ただ、あれはあくまでも『ゴリラのサイボーグ体』であって、AIの補佐があっても人間並みの知能は有していなかった。それがどうだ。先日の様子はまるで優秀な捜査員か探偵の様だったじゃないか」
「まさか、仮面ゴリラ―の正体は……!」
「そうだ。人間の頭脳が移植されている可能性が高い」
「なんてこった……!」
「しかし、結果は上々。あとは洗脳さえしてしまえば優秀な戦力になるだろう。故に我々は次の計画に移行することにしたのだ」
「次の計画……だと?」
「そう。オリジナル体は失われても研究結果が失われたわけではない。そこから生まれたのが『ゴリラ―・ネクスト計画』……つまり、君だ」
「……は?俺?」
「君を仮面ゴリラ―・ネクストに改造した。あとは脳に仕込んだ最新AIに指令を与えるのみだ」
「なんだと⁉……うわっ?」
身動きが取れないため、首を動かしてよくよく見れば、パンプアップした大胸筋と僧帽筋と三角筋、そして人間にしてはあまりに巨大な手が見えた。
「嘘だろ?」
「君は我々の尖兵となって、世の中のバナナを一度根絶やしにするのだ。そして我々はバナナの復権を足掛かりにして古き良き世の中を取り戻すッ!合言葉はァァァァッ!」
「ワレラのバナナは世界一ィィィィッ!」
「「「イィィィィィ!」」」
「「「ジークバナナ!ジークバナナ!!」」」
「なんかヒワイ!いやそうじゃなくて!ちくしょぉぉぉ!この指じゃカメラの操作できねえじゃねぇかぁぁ!やめろぉおおSHACCHOー!」
◇◇◇
ドッカーン!
『そこまでだぁ!SHACCHO!』
轟音をたてて扉を破壊し入ってきたのは、赤いマフラーに黒い体毛のゴリラ。
『仮面ゴリラーG、参上!お前らの野望もここまでだ』
「ゴリラー01、いや、仮面ゴリラーG。なぜここだと思ったのかね?」
『現場に残っていた香りだ。かつて世界生産量第一を誇るも、パナマ病の流行によりキャベンディッシュ種にトップの座を明け渡して久しいグロス・ミチェル種の香りがした。お前たちが好んで食すバナナだ」
「なるほど。これはうかつだった。しかしお前の相手は私達ではなく、こちらのゴリラー02なのだよ」
目の前には細部は若干違うものの、同じような体躯のサイボーグ・ゴリラが低く唸るような駆動音を立てながら眼光鋭く対峙していた。
『……遅かったか。すまない、ハヤトくん』
「……コードネーム『02』、破壊目標『01』。現時刻より戦闘モードへ移行する」
合成音声が響き渡ると同時に、轟音を立てて「02」の太い指先からマシンガンが撃ち放たれる。
『……ぬぅ。目を覚ませ、ハヤトくん!君はこんな奴らに負けるゴリラじゃない!』
「ゴリラって言うなぁぁぁ!」
すさまじい勢いで弾丸が雨あられと撃ち放たれ、『SHACCHO』の本拠地である広大な地下ドームには硝煙の匂いが立ち込める。
「さすがはサイボーグ・ゴリラ02! 容赦のない圧倒的砲火だ! ハハハ、どうだ仮面ゴリラーG、いくらお前でもこの攻撃で、は……?」
中央の椅子で高級シガーをふかしなが『SHACCHO』の社長が高笑いしていたが、顔つきが変わる。
『効かんな』
鍛え上げられた鋼鉄の胸筋をバインッと一際大きく弾き返すと、飛来する弾丸のすべてを「筋肉の弾力のみ」で完璧に跳ね返してみせた。
「この程度か?貴様が撃っているのはただの鉛玉、だが俺の胸にあるのは熱き「バナナへの愛」ッ!SHACCHOよ。ここで引かなければ、お前らのクルミをすり潰すのみだ!』
「それは怖いな。しかし油断するにはまだ早いぞ?仮面ゴリラーよ」
《ターゲット……ダメージ、ゼロ。……次の攻撃手段に移行します。右腕を引いてください》
「ん?こうか?」
AIの指示に従い、右弓を引き絞るような構えをとる02。その瞬間!
《照準ロックオン!パンチを繰り出してください》
「え?この間合いじゃ届かないんじゃ」
《ハリーアップ!打つべし!》
「わ、わかった!こうか?」
《ロケットパーンチ!》
「うわぉ⁉」
突き出された右ストレートから極太の腕が射出され、01の顔面に直撃する。
『ぐふっ⁉……やるな。しかしこの火力は野放しにできん。これで目を覚ますんだ02!』
仮面ゴリラーの右手には、いつの間にか一本の超高級バナナ「京都産・はんなりバナナ」が握られていた。
『いくぞ!正気に!なれぇぇぇぇー!』
裂帛の気合と共に、02の口のなかに超高級バナナが突っ込まれる。
「んぐっ!? こ、これは……!?」
突如口いっぱいに広がる、濃厚で上品な甘みと芳醇な香り。皮ごと食せるという奇跡のフレーバーが、02の洗脳意を解くと同時にAIの基本プログラムを書き換えていく。
《……基本情報変更。行動原理、バナナと世界の平和の維持に変更。同時に02をマスターとして再設定……》
『頑張るんだ!ハヤトくん!』
02は膝をつき、胸を抑えて悶絶した。
「ぐぅぅ……は!俺は何を……?」
次の瞬間、02の目の赤いデジタルアイが明滅したのち、青く爽やかな光へと変わった。
「システム、完全再起動……只今より本AIは02を完璧にサポートいたします」
『よし!狙い通りだ!』
「なっ……なんだと!? AIがたったの一本のバナナでハッキングされただと?」
『バナナを笑うものはバナナに泣く。バナナの真の力を見くびったなSHACCHO!』
『力技の1号!』
「火力の2号!」
「いくぞSHACCHO!」
「名乗ろう! オレの名は仮面ゴリラー2号! 『力』の1号がいれば、オレはあふれる『火力』でサポートさせてもらうぜ!」
『いいだろう! 今ここに、最強のバナナコンビが誕生した!』
社長が葉巻を落とし、慌てて立ち上がる。
「どっちも結局力じゃないのか?まあ良い。やれ! 社畜兵ども!今こそ量産型ゴリラトルーパーの力を示せ!」
《パンプアップ!》
「これは………!」
『我々のダウングレード版だな』
わらわらと『SHACCHO』謹製ゴリラトルーパー達が「イーッ!」「給料アップのため!」と群がり襲いかかる。
「多すぎるぞ1号!このままでは!」
『ふむ。ならば奥の手だ!2号!超必殺技を決めるぞ!』
「は?超必殺技ってなんだ?」
《サポートします。あるポーズをとることにより、超必殺技のロックが解除されます》
「わ、わけわからんけどわかった!頼むAIちゃん!」
《了解しました。まず両足を肩幅より少し広めに開いて立ちます。右膝を少し曲げて、重心を右の腰に乗せるように落とします》
「おう!」
《左手は親指をズボンのポケットやベルトのあたりに軽く引っかけるか、腰の左側に添えて固定します。
「ズボン履いてないけどこうだな?」
《右腕をピンと伸ばし、人差し指を立てて天を指さします。体全体で左下から右上に向かう綺麗な斜めの直線を作るのがポイントです》
「……あれ?これって」
《顔は右手の指先がある右上を見上げ、自信に満ちたクールな表情をキメて完成です!》
「土曜の夜にフィーバーする人のポーズじゃね?」
『完璧だ2号!いくぞ超必殺技!ゴリラーサンダァァァブレェェェェク!』
「これでいいのかー⁉」
バリバリどっかーん!
「ふむ。今日はここまでのようだな。また会おう。仮面ゴリラーの諸君」
ドゴォォォン! とド派手な爆発音ともに『SHACCHO』の本拠地は崩壊のカウントダウンを始めた。
「このままじゃヤバイ1号!はやく俺たちも逃げないと!」
『任せろ2号。ここからは「加速モード」だ。バナナの皮に乗れ』
「はぁ?」
仮面ゴリラーは両手にもったバナナの皮を投げ捨て、それを足だけでなく拳でも押さえつけた。2号も戸惑いながら後に続いて踏みつける。
ちゅるるるーん!
凄まじい摩擦ゼロの推進力が生まれ、超アクセル状態が生じる。強靭な腕力と合わさり、二匹のゴリラは炎と瓦礫の海を跳ぶようにスイスイと滑走して窓に向かう。
「ちょお!このままじゃ窓から外へ……!」
『飛ばないゴリラはただのゴリラだ』
「別にゴリラは窓から飛ばなくてよいのではー⁉」
《射出角度に問題ありません》
「そーいう問題じゃねぇぇぇ!」
ぱっりーん!
崩壊寸前のビルから大空へと2匹のゴリラはダイブ。夜空を切り裂きながら、月明かりの中へ消えていくのだった。
◇◇◇
翌夜『サバンナ』。
「いや~参ったよマスター! 昨日の深夜、郊外の廃墟ビルが謎の爆発を起こしてさ。現場検証したらなぜか焦げたバナナの皮と、大量のゴリラのお面が出てきたってさ」
ベテランの鬼塚刑事が、いつものようにカウンターでウイスキーを煽っている。
「へぇ、それは物騒な話ですね」
「しかも噂によると、昨日は仮面ゴリラーがもう一体目撃されたらしいんだよ。ヒーローも増える時代なのかねぇ?……なぁ、ゴーディ?お前どう思う?」
カウンターの奥では、いつも通り漆黒のタートルネックを着たゴーディが、黙々とグラスを磨いていた。彼はフッと鼻で笑うと、完璧な球体の氷を鬼塚のグラスに落とした。
その時、バーの扉がカランと音を立てて開いた。
入ってきたのは、首からカメラを下げた、やたらと胸板の厚い屈強な体躯の男。
「マスター、アイスコーヒーをくれ」
「はい、アイスコーヒーですね。……いかがですか、カメラマンの仕事は?」
ハヤトは、黙ってサムズアップを作ってみせた。その指はゴリラではなく、人間のもの。顔の改造を免れたハヤトは、腕をアタッチメント式にマスターに改造してもらい、人間サイズの腕を手に入れていた。
ゴーディは太い眉を少し上げると、カウンターの奥から「高級完熟バナナ」を1本取り出すと、無言でハヤトの前に差し出す。ハヤトもまた、無言でそのバナナを受け取り、二人で背中を向け合いながらエレガントに皮を剥きはじめた。
「おいおい、なんだか知らんが息の合ったコンビだな! ゴーディに相棒でもできたみたいだな?」
鬼塚が笑い声を上げる中、バーの静かな夜は更けていく。
都会の闇に悪が蠢く限り、彼らは何度でも立ち上がるだろう。
闘え!仮面ゴリラー!
最高の一本を味わうために!
書くつもりなかったのに!
頭がゴリラとバナナに支配されてしまった為に………!
くっ!おのれSHACCHO!
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