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EP 41

『レモンサワーの罠と、生ハムの公開処刑』

「地獄の合コン(という名の身内飲み会)」が始まった。

テーブルにはまだ料理はなく、張り詰めた空気だけが漂っている。

「……ふん」

元魔王サルバロスは、気まずい空気を打破すべく、わざとらしくメニューを広げた。

「さて、まずは喉を潤そうではないか。お主達は何を飲む?」

「そうですわね……」

天使族族長ヴァルキュリアは、眉間にシワを寄せたままメニューを睨みつけていた。まるで敵軍の配置図を分析するかのような真剣な眼差しだ。

「……私は、この『レモンサワー』と言う物を頂きましょうか。酸味のある果実酒……疲労回復に良さそうですし」

「おっ、いいですね」

マモルはつい、いつもの癖で口を挟んでしまった。

「ヴァルキュリアさん、ナイスチョイスです。これはな、唐揚げに合うんだ。レモンの酸味が脂っぽさを中和して、さっぱりと食べられるんですよ」

マモルとしては、単なる日本の居酒屋知識を披露しただけだった。

しかし、ヴァルキュリアの反応は予想外だった。

「……ほう!」

彼女は瞳を輝かせ、身を乗り出した。

「味の相乗効果まで計算して飲み物を選ぶとは……。流石は魔王を倒したお方。戦術眼だけでなく、食への造詣も深いのですね。……マモル様はお詳しい。是非、じっくりとお話を聞いてみたいです」

ヴァルキュリアは純粋な尊敬の眼差しを向けてくる。

だが、その瞬間。

ゴゴゴゴゴゴ……。

マモルの左右から、絶対零度の冷気が噴き出した。

「…………」

「…………」

エルミナとフィリアが、無言でじっとマモルを見つめている。

その瞳は光を失い、ハイライトが消えていた。

(え!? な、何このプレッシャー!? 俺、唐揚げに合うと言っただけだぞ!?)

マモルは冷や汗をダラダラと流しながら、必死に話題を振った。

「え、えっと……エルミナとフィリアは? 何を飲む?」

「私達は……『果実酒サングリア』でお願いします」

エルミナが氷のような声で答える。

フィリアはニコリと微笑んだ。口元だけ。

「うん、果実酒美味しいもんね~♡ ……ねぇ、マモル?」

フィリアがマモルの顔を覗き込む。目は全く笑っていない。

「レモンサワーが唐揚げに合うなら……果実酒には、何が合うの?」

「ヒッ……!」

これはテストだ。

下手に答えれば「なんでそんなこと知ってるの? 誰と飲んだの?」と詰問される。かといって答えなければ「私達には興味がないの?」となる。

マモルは脳をフル回転させ、震える声で提案した。

「そ、そうだな……この『生ハム』とかどうだろう? 生ハムの塩気と、果実酒の甘み……あと果物メロンと一緒に食べたら旨いぞ……あまじょっぱくて……」

言い終わった瞬間、空気がさらに重くなった。

「へ~……」

エルミナがグラスの縁を指でなぞりながら、低い声で呟く。

「生ハムとメロン……随分とお洒落な組み合わせをご存知なんですのね。……マモル様、詳しいですのね」

「……」

「この手合い(女性を口説くような店)には、随分と慣れていますのね。私達が知らない間に、どこのどなたと経験を積まれたのかしら?」

「ち、ちがっ! これは前の世界の知識で……!」

「前の世界? ……ふぅん、あっちでもブイブイ言わせてたんだ?」

フィリアがマモルの太ももをギュッとつねる。

「い、痛い! 誤解だフィリア!」

修羅場と化したテーブルの向かい側で、デュラスは優雅にワインを啜っていた。

(……ふっ。合コンなどという軟派な催しには反対だったが、これはこれで悪くない)

デュラスはマモルの狼狽ぶりを肴に、心の中でほくそ笑んだ。

(マモルの公開処刑を楽しむとしよう。これも人生経験だ)

(ククク……愉快よのう!)

サルバロスもニヤニヤしながらビールを煽る。

自分たちが連れてきた(しかも身内だらけの)女性陣に、幹事のマモルが詰められる。このカオスこそ、魔王が求めた娯楽であった。

「店員さーん! 唐揚げ山盛りと、一番高い生ハム持ってきてー! マモルの奢りで!」

「やめろサルバロスゥゥ!!」

マモルの悲鳴と共に、地獄の宴はまだ始まったばかりであった。

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